NNAカンパサール

アジア経済を視る January, 2019, No.49

札幌にタイのスター選手がやってきた!

北海道コンサドーレ札幌

スポーツビジネスにアジアを取り込む動きが加速している。日本のプロサッカーチームの一部では、アジアで絶大な人気を誇るスター選手を獲得し、アジアからの観光客の誘致にもつなげた。クラブの運営のみならず、地域振興にもプラスとなる好循環を生み出している。こうしたスター選手を商品のPRキャラクターに起用することで、アジアで拡販を狙う企業もある。背景にあるのはアジア市場の成長だ。「スポーツ×アジア」が育む新しいビジネスの現場を訪ねた。

札幌にタイのスター選手がやってきた!

「行け札幌、勝利信じ最後まで戦え、オーオオ オオー」

突き抜けるような北国の青空が広がった2018年11月4日午後、観客2万4,000人が詰めかけた札幌ドームに、サッカーJ1リーグ・北海道コンサドーレ札幌の応援歌が響き渡った。チームカラーである赤に黒の縦縞模様のシャツを着たサポーターたちが観客席で一斉に飛び跳ねる。

この日はベガルタ仙台との試合。アウェーとなったゴールドのシャツを着た仙台のサポーターたちの応援は、ドームの片隅にかき消えてしまうかのよう。

J1最高順位に躍進へ

ドームの天井から刺すまぶしいほどの照明を浴びて輝く青い天然芝生のピッチに登場したのは、攻守の中軸となるミッドフィルダー(MF)のチャナティップ・ソングラシン選手(25)だ。身長158センチと小柄ながら、低い視線から相手守りの股下を抜いていくような軽快なドリブルで、ゴールを狙って何度もシュートを放つ。そのたびにサポーターたちの「ワー」という歓声が会場を埋めつくした。

両チームとも得点なしで前半を折り返したが、後半29分に三好康児選手(21)の決勝弾がゴールネットを揺らした。2018シーズン暫定5位から、AFCチャンピオンズリーグ(ACL)出場圏内の3位に浮上した瞬間だ(※)。クラブのJ1最高順位だった11位(01年、17年)を上回る10位以内を確定させ、観客席はサポーターたちの大きな旗がひらめき、ドーム全体が喜びのうねりに包まれた。
(※コンサドーレは2018年、クラブ史上最高順位となる4位でシーズンを終えた)

すっかり札幌のヒーローに

その実力と人気の高さで「タイのメッシ」とも呼ばれるチャナティップ選手は、タイ中部のノンタブリー県ムアントンを本拠地とするプロサッカークラブ、ムアントン・ユナイテッドFCに所属していたが、17年7月にコンサドーレに期限付きで移籍した。コンサドーレにとって、アジアからの移籍選手は「ベトナムの英雄」と言われたレ・コン・ビン選手(13年)などに続く4人目。

北海道民や札幌市民、サポーターたちからの人気も高い。ベガルタ仙台戦に勝利した日、コンサドーレの20年来のファンだという札幌市豊平区に住む女性(54)は「チャナティップ選手が大好き!」と興奮して話す。

「私と同じ身長しかないのに、小回りの効いた素早いドリブルと的確なボールコントロールでレギュラーとして活躍する姿が格好いい」と言う。チャナティップ選手は19年2月からコンサドーレへ完全移籍するものの、将来的には欧州でプレーすることを目標としているともされ、「(Jリーグにとどまらないで)さらなる上昇志向があるのがすごい。私個人としては寂しい面があるけれど、夢に向かって頑張ってほしい」と声援を送る。

タイからの観戦客も「興奮」

札幌ドームにはタイ人らしき観戦客もちらほら。チャナティップ選手の大ファンだという、バンコク在住のデザイン会社社員、チャン・チャイさん(46)は同僚ら4人と一緒に札幌に降り立った。日本には何度か観光で来ているが、北海道は初めて。

「きょうはコンサドーレ札幌が勝利したのでとてもうれしかった。チャナティップ選手の動きは素晴らしく、勝利に貢献したと思う」と、異国の地でプレーする母国のスター選手の活躍ぶりを目の当たりにできたことに感激した様子だ。

彼らは「札幌のサポーターや人々はとても親切」と付け足し、翌日から小樽や登別などの観光地のほか、仏教徒としては欠かせないという札幌市郊外にある真駒内滝野霊園のシンボル「頭大仏」を拝みに行くのが楽しみだと話した。チャナティップ選手の試合観戦と道内の観光を組み合わせてくるタイ人は多くなっているという。

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