NNAカンパサール

アジア経済を視る December,2018, No.47

【スペシャルリポート】

バングラのIT人材、日本企業が熱視線

バングラデシュ

少子化による人手不足が深刻化している日本。主な担い手である若年層の確保が難しくなったIT業界では、外国籍の人材活用が進む。厚生労働省の調査によると、2017年10月末現在、日本の情報通信業に就労している外国人は約5万2,000人。うち50%を中国人、15%を韓国人が占めるが、優秀なIT人材の確保先として新たに脚光を浴びつつあるのがバングラデシュだ。

教育情報サービスの荻野社長(中央)とバングラデシュ人スタッフら(同社提供)宮崎市

教育情報サービスの荻野社長(中央)とバングラデシュ人スタッフら(同社提供)=宮崎市

豊富な人材も就職機会乏しいバングラ

SHIFT PLUSはB-JETプログラムを修了した2人のバングラデシュ人を採用した(同社提供)=高知市

貧困やテロ事件のイメージが強いバングラデシュだが、同国政府は21年までの中所得国入りを目指して、国を挙げてIT人材の養成に力を入れている。「デジタル・バングラデシュ」の政策公約の下、21年末までに200万人のITプロフェッショナルを養成する目標を掲げる。ただし、高度な技術力を持った人材が増える一方で、国内には魅力ある働き口が少なく、数万人のIT人材がフリーランスとして働いているといわれる。

日本企業にはバングラデシュ人の高い親日性も好材料だ。同国にとって日本は最大の経済援助国であり、日本に好意的な感情を持つ国民が多い。若者の間には日本への渡航や日本企業への就職に対するあこがれも強い。

宮崎市内のIT企業に就職したマルジアさん(女性、24歳)は「日本人は規律やチームワークに優れている。互いに敬意を持って議論する文化は、仕事だけでなく、人間として成長する上で最良の国」と話す。同じく宮崎市内の企業に就職したオイシックさん(男性、24歳)は「日本の経済は縮小していると言われるが、個人的には多くのチャンスがある国だと思う」と、日本でのキャリアアップに期待を示す。

日本政府もバングラデシュの人材の取り込みに力を入れている。国際協力機構(JICA)は、バングラデシュ政府と協力して「B―JET(Bangladesh-Japan ICT Engineers Training)プログラム」を進めている。同プログラムでは、バングラデシュの優れた技術者に、日本企業への就業に向けて、日本語や日本のビジネスマナーなどを教えている。マルジアさんやオイシックさんは、その1期生として今年7月にプログラムを修了した。

実際にバングラデシュ人材を採用した日本企業からの評判も上々だ。ソーシャルゲームの品質保証やカスタマーサポート、ウェブサービスの開発などを手掛けるSHIFT PLUS(高知市)は、B―JETプログラム1期生の男性2人を正社員として採用した。宇都宮竜司事業開発部長は「技術力は申し分ない。コミュニケーション能力も高く、非常に助かっている」と高評価だ。

eラーニングシステムの開発などを手掛ける教育情報サービス(宮崎市)は、これまでにB―JET修了生2人を含む4人のバングラデシュ人を採用した。荻野次信社長は「控えめな性格の人が多いバングラデシュ人は日本企業との相性が良い」と話し、今後もバングラデシュ人を増やしていく考えを示す。

日本に溶け込む柔軟性

バングラデシュ人を採用する上での課題を挙げるとすれば、母国とは大きく異なる日本社会や企業風土への適応だ。特に国民の9割をイスラム教徒が占めるだけに、宗教上の違いを克服できるかは重要な鍵だ。

バングラデシュのIT人材の獲得に積極的な宮崎県では、宮崎大学の構内にイスラム教徒が祈りの場として使える施設を設置したり、学食で豚肉を使用しない食事を提供したりするなど、バングラデシュ人が生活上の不便を感じないよう地域ぐるみで支援する。

一方、バングラデシュ人に話を聞くと、こちらが拍子抜けするほどの適応力を示す。好きな食べ物には「とんかつ」や「肉じゃが」なども挙がる。「親切な人が多く、平和な日本での生活を楽しんでいる」との声が共通して聞かれた。

異国での成長に貪欲で、柔軟性に富むバングラデシュ人が日本のIT企業の新たな救世主になりつつある。

出版物

各種ログイン