【アジア取材ノート】
日本と連携で観客数押し上げ
台湾プロ野球ラミゴ、PRを強化
台湾
台湾プロ野球チームのラミゴ・モンキーズが、日本向けのPRを強化している。ラミゴはアイドル活動を行うチアガールなど野球以外の要素にも注力していることで知られ、平均観客動員数は台湾で最多(約7,800人)を誇る人気チーム。日台を往来する観光客の増加や野球ファンが多い共通点などを生かし、日本企業などとの連携を深化、さらなる日本での知名度向上と日本人観光客の取り込みを狙う。(文・写真=NNA台湾 吉田 峻輔)
観客を盛り上げるラミガールズ=桃園国際棒球場(NNA撮影)
ラミゴの親会社は家電や靴、玩具などの製造を手掛ける達達企業集団。一方、プロ野球団体の中華職業棒球大連盟(CPBL)に加盟する他の3球団の親会社は食品台湾大手の統一企業(ユニプレジデント)、金融持ち株大手の中国信託金融控股(CTBCフィナンシャル・ホールディング、中信金)、金融を中心としたコングロマリット(複合企業)の富邦集団で、企業の規模では達達企業をはるかに上回る。資金の投入には限界があり、ラミゴはかねて他球団と異なる「変化球」による経営を打ち出す必要性に迫られていた。
抜本的な改革に着手したきっかけは、2012年にアジアナンバー1の野球チームを決定するアジアシリーズに出場したこと。同大会に出場していた韓国のチームが、チアガールを活用して観客を楽しませていたことにヒントを得て、アイドル活動も行う公式チアリーディングチーム「ラミガールズ」の立ち上げなど野球以外の要素の強化に踏み切った。
08年に読売ジャイアンツの2軍と交流試合を開催して以降、日本との関わりで目立った動きはなかったが、方針の転換を受けて14年から関係強化に注力。併せて日本人マーケティング担当者も採用した。
「日本フェスタ」で集客
中でも最大の柱は近年1シーズンに2回、週末2連戦で開催しているイベント「日本フェスタ」だ。昨年5月のフェスタでは、パシフィック・リーグ(パ・リーグ)6球団の放映権販売を手掛けるパシフィックリーグマーケティングなど日本企業と連携し、通常の試合に加えて日本の有名歌手のコンサートや著名人による始球式を実施。本拠地の桃園国際棒球場に日本食屋台街を設置して日本色を前面に打ち出した。
桃園国際棒球場には日本企業のためのブースも設け、日本の商品をPRできる体制を整備。パシフィックリーグマーケティングがパ・リーグ各球団のマスコットを派遣し、試合中にPRに努めたことも話題を呼んだ。
日本人マーケティング担当の礒江厚綺氏は「パ・リーグには、台湾人に日本の野球に興味を持ってもらうことで放映権収入やグッズ収入の増加につなげる狙いがある。一方、ラミゴはパ・リーグと連携すれば日本での知名度が向上する。双方にメリットがあるイベントだ」と述べる。同フェスタは1日当たり1万7,500人を集客することもある。
パシフィックリーグマーケティングの担当者は「当フェスタでは日台双方のメディアで合計120件以上の記事や動画で取り上げてもらい、予想以上の反響だった。パ・リーグ各球団も現地の盛り上がりに驚いており、一定のPRができたと考えている」と手ごたえを語った。
台湾だけでなく日本での催しにも力を入れる。今年7月6~8日には東北楽天ゴールデンイーグルスと、楽天生命パーク宮城で「台湾フェスタ」を開催。ラミガールズや球団のマスコットを仙台に派遣しラミゴのPRを行った。このほか日本野球機構(NPB)のチームとの交流試合に合わせ、ラミガールズやファンを伴った大規模な日本遠征を実施。日本人向けにラミゴの魅力を発信する試みを続けている。
日本での知名度上昇は、スポンサー収入と観客動員数の増加につながる。阪神甲子園球場は既に、桃園国際棒球場のイニング交換時に大型ビジョンで放映される広告放映権を購入。16年から台湾の観光情報サイトで発売しているラミゴの試合観戦付き台湾観光ツアーの売上高は、右肩上がりで推移している。観戦のハードルを下げるため、ラミガールズ唯一の日本人メンバー・今井さやかさんによる桃園国際棒球場の観覧ツアーも開催しており、そちらも盛況だ。
今井さんはラミガールズへの参加と併せて、千葉ロッテマリーンズの本拠地ZOZOマリンスタジアムでビールの売り子も務める。「ZOZOマリンスタジアムでは、ラミゴの試合を見に行ってみたいが1人で行く勇気がない、と話す観客にもよく出会う」といい、今後も可能な限り敷居を低くしていきたいという。
増加が見込めるのは日本人だけではない。台湾のプロ野球に興味はないが、日本または日本のプロ野球には興味がある台湾人を球場に呼び込むこともできる。
礒江氏は「今後はNPBのチームとの交流試合だけでなく、国をまたいだ公式戦を開催できるレベルまで、ラミゴと台湾プロ野球の認知度を高めたい」と意気込みを語る。まずは日本人の観客数を増やし、平均観客動員数で1万人達成を目指す方針だ。
ライトな層の取り込み
桃園国際棒球場では、ラミガールズが1・3塁側双方で応援を先導。球場に流れる電子音楽に合わせて踊りなどを披露し、スタンドを盛り上げる。ただの野球ファンだけでなく、応援自体を楽しむために球場に来る観客も多い。
試合が見にくい席には、「バーベキューエリア」や「レストランエリア」を設置。飲食店のように気軽に球場へ行けるようにし、ライトな層の取り込みを図っている。
20代の男性ファンは「球場や広告でもラミガールズを上手く使っていて、チームを身近に感じることができる。野球を見に行こうとすると、ラミゴが最初に思い浮かぶ」といい、別の20代の男性ファンは「特別野球が好きというわけではないが、球場の雰囲気がにぎやかなので、近くのアウトレットで買い物をするついでに観戦するときがある」と語った。
方針転換以降、業績は大きく伸びており、17年の平均観客動員数は11年比でおよそ400%増加。30歳以下の観客が全体の57%を占めるなど、若年層が多いことも特徴だ。球団の17年の売上高は12年比で2倍以上の3億7,000万台湾元(約10億2,500万円)。内訳をみると、ラミガールズの人気を背景にしたグッズの売上高が全体の27%を占め、チケット収入(32%)に次いで多い。チームの成績も12~17年の6シーズンで4回優勝するなど好調だ。
礒江氏は「野球のレベルは確かに日本の方が高いが、日本にはない球場の雰囲気作りを積極的に行っている。一度球場に来てくれれば、ほとんどの日本人がリピーターになると思う」と述べ、さらなる日本人客の取り込みに自信を見せている。