NNAカンパサール

アジア経済を視る October, 2018, No.45

【日本で聞く、企業のアジア戦略】

東京スター銀行
アジアとの緊密ネットワーク

日本

経済成長著しいアジアを取り込んだ新しいビジネス展開ができるのは、アジアとの太い人脈と高いコミュニケーション能力があってこそだ。2014年に台湾の大手銀行、中國信託商業銀行(CTBC Bank)の傘下となった東京スター銀行(東京都港区)。CTBC Bankが持つ、台湾やアジアを中心にした200を超える海外ネットワークは、日本企業、特に中堅・中小企業にとって大きな障害となっていたコミュニケーションの壁を乗り越え、アジアで新しいビジネスを開拓していく推進力の役割を果たしつつある。(文=吉沢健一)

本店のファイナンシャル・ラウンジ=東京都港区(同行提供)

本店のファイナンシャル・ラウンジ=東京都港区(同行提供)

東京スター銀行は、旧・東京相和銀行の営業を譲り受けることを目的に設立され、2001年に営業を開始した比較的新しい銀行だ。米ファンドや日本の投資会社などによる株主の変遷を経て、14年にCTBC Bankが全株式を取得。外国の銀行が100%出資する唯一の邦銀となった。

米ファンドの運営手法などの影響を受け、同行はかつてから資産を証券化するなどの仕組みを利用し、市場リスク、信用リスクをコントロールするストラクチャード・ファイナンス(仕組み金融)を得意としていたが、CTBC Bankの買収を契機に、法人向けの預金や貸出などの商業銀行業務(コーポレートバンキング)や企業の直接調達支援や合併・買収(М&A)のアドバイザリーなど投資銀行業務をさらに強化した。

地方銀行として異彩を放っているのは、その人材レベルの高さと、CTBC Bankが持つ海外ネットワーク、そしてメガバンクにはない機動性の高さだろう。

「法人金融部門では約8割が中途採用で、外資系金融機関やメガバンクなどの出身者も多いです」と話す東京スター銀の宮地直紀・国際金融本部長自身も米投資銀行出身だ。地方銀行では珍しくメガバンクと肩を並べるほど法人向け銀行業務、投資銀行業務などに詳しく、海外との人脈を持つ高度な人材がそろう。

地方銀行としてはまれな海外ネットワーク

CTBC Bankは本拠地である台湾を含め、中国やタイ、ベトナム、インドネシア、フィリピン、インドなど15の国と地域に展開し、台湾内に150拠点と台湾以外に110拠点を有する。宮地国際金融本部長は「昨年、CTBC BankはLH Bankを傘下に持つタイの金融持株会社、LHフィナンシャルグループに出資して筆頭株主となっていますが、この銀行も百数十の拠点を持っています。これを合わせると、CTBCグループのネットワークは約400に拡大します。これだけの海外ネットワークがあるのはメガバンクと当行ぐらいです」と指摘する。

この豊富な海外ネットワークを生かして法人向け銀行業務をさらに拡大させようと、東京スター銀は2016年、「グローバル法人営業部」を立ち上げた。日本企業の海外進出ニーズに対して金融面などのサポートを行っているが、わずか2年余りで新たな法人顧客約300社が口座を開設した。目指すは1,000社の大台だ。

CTBC Bankは世界15の国と地域に拠点を構え、海外子銀行も5行ある

CTBC Bankは世界15の国と地域に拠点を構え、海外子銀行も5行ある

東京スター銀はCTBC Bankの傘下として「外国銀行代理業許認可」を取得しているため、日本でCTBC Bankの口座を開設できることも大きなメリットになる。東京スター銀が法人営業の主なターゲットにするのは、メガバンクがきめ細かいフォローをしづらい中堅から中小企業。中堅・中小企業が台湾に現地法人を設けるとしても、社長が現地法人代表を兼任するのが大半で、多忙な社長自らが現地に何度も足を運ぶ負担は決して小さくない。そこで日本にいながら台湾現地の銀行口座を開け、さらにグループ会社が持っているCTBC Bankの口座情報をインターネットバンキングでリアルタイムに一元管理できるサービスを東京スター銀は開始した。台北やホーチミンなどにある現地法人の入出金を一覧照会できる利便性は高い。

また、進出してまだ間もなく信用力の低い現地法人などが運転資金や設備資金などの借り入れを必要とする場合、東京スター銀が「スタンドバイL/C(信用状)」をCTBC Bankに対して発行し、海外現地での借り入れも支援している。

松村昌彦・グローバル法人営業部長は「日本企業が最初に海外に進出する際のパートナー銀行として選んでいただいています。日本の飲食チェーン大手などの台湾進出の際にも利用していただきました。出店の立地などのマーケティングをはじめ、資本金の送金や従業員の給与振り込みなどをお手伝いできるメリットを理解していただいた結果だと思います」と話す。

潤滑なコミュニケーションが広げるアジアビジネス

左から松村・グローバル法人営業部長、宮地・国際金融本部長、シュウ・アジア事業開発部長

今年4月には、アジア圏の企業の日本への進出支援などを想定した「アジア事業開発部」を国際金融本部内に設けた。部署内スタッフの半数が中国や台湾出身だ。彼らがアジア各地に持つ華人ネットワークを最大限に活用することで、日本で不動産購入や企業М&Aなどの投資事業を行おうとする外国企業へのサポートを手掛けているほか、日本企業の海外進出ニーズの掘り起こしと海外拠点と連携した現地での事業支援も実施している。

「華人は信頼し合う個人同士が強固なネットワークでつながり、日本人が入っていきにくい世界です。こうした日本とは大きく異なる言葉や文化は、想像以上に互いの円滑なコミュニケーションの壁になっています。特に人手が限られた日本の中堅・中小企業にはなおさらだと思います」と、台湾出身で20年間の商社経験のあるスティーブ・シュウ・アジア事業開発部長は指摘する。「アジア事業開発部のスタッフが日本から中国語を使って電話1本で台湾やシンガポールなどの企業トップらにビジネスの可能性を打診できるのは、当行ならではの機動性の高さを示しています」。

CTBC Bankが本拠とする台湾はもともと内需が小さく、輸出をメイン産業としてきた歴史があり、アジア各地に太い華人ネットワークを築いている。「日本の中堅・中小企業がこうした台湾企業と手を組んで、ベトナムなどアジア各地に進出する案件も増えつつあります」という。

宮地国際金融本部長は「今後経済が縮小していく日本において、企業にとっての海外展開、特にアジア展開は数少ない成長の機会です。ただし中堅・中小企業の海外展開においては、適切なパートナーが必要となる。台湾を通じたアジアとのネットワークを有する当行が、そんな大切なパートナーとなっていければうれしい。さらに将来的には、中堅・中小企業の皆さまが私たちと出会うことで、海外進出を決断していただくような存在になれれば理想です」と話した。

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