低金利時代、日本の個人投資はアジアを目指す
長らく超低金利時代が続く日本では、国内の金融機関にお金を預けていても利息はほとんど期待できない。そうした中、成長著しいアジアの不動産投資に目を向ける個人が増えつつある。一方、「日本で得られる現地情報の少なさ」や「不透明な法制度」などを理由に、海外の不動産投資を敬遠する向きも多い。投資対象としてのアジアの不動産の実情について、専門家らに聞いた。
ライジングトラストがタイのパタヤに建設した日本人向け投資用マンション(同社提供)
日本人向けに転売しやすい物件を開発
日系不動産デベロッパー:ライジングトラスト
ライジングトラスト(東京都中央区)は、個人の海外不動産への関心の高まりに着目し、日本人向けにタイの東部パタヤで分譲マンションの開発を手掛ける。総戸数126戸からなる「ライジングプレイスタップラヤ」を今年6月に竣工させた。1戸当たりの専有面積は約34~84平方メートル。標準価格は1,000万円ほどで、一般的なサラリーマンでも投資しやすい価格設定とした。
海外部門のプロジェクト責任者を務める毛利栄伸氏は、首都バンコクではなくパタヤを立地に選んだ理由について、「日本人の投資用マンションとして考えた場合、まず出口(転売)戦略を考える必要がある」と話す。日本のバブル崩壊後、不動産がまったく売れない時代を嫌というほど味わったという毛利氏。「マンション供給が過多のバンコクに比べて、パタヤは出口を確保しやすい」という。
「タイのマンションは、デザインは良くても、設備などの品質が劣るものが多い」(毛利氏)。同社が手掛けたパタヤのマンションはすべての日本メーカーの設備を採用し、経年後も高い資産価値を維持できるようにしている。
一般サラリーマンの投資が増加
税理士法人 ネイチャー国際資産税
税理士法人ネイチャー国際資産税(東京都千代田区)は、海外不動産に関する税務コンサルティングサービスを手掛ける。海外不動産の個人投資家向けコンサルティングでは、日本最大手だ。
同社が扱う海外不動産関連の案件のうち、東南アジアが占める割合は、全体の2割ほど。投資規模は500万~2,000万円が多く、日系デベロッパーが東南アジアで開発した案件を日本人が購入する際に、相談が持ち込まれるケースが多いという。相談内容は、国をまたぐ税務や金融機関からの借り入れに関するものが多く、相続や事業承継における節税対策としての海外投資の活用法などもある。
芦田敏之統括代表は、「富裕層の投資は米国が中心だが、一般的なサラリーマンを中心に、東南アジアの物件への個人投資が確実に増えている。日系の不動産デベロッパーの進出が加速しており、相談件数はさらに多くなる見通し」と話す。
投資国選びは地合いと現地不動産会社
個人投資家:征矢野清志氏
個人投資家の征矢野清志氏(千葉県船橋市在住、49歳)は、アジア・太平洋地区で10件以上の不動産投資物件を保有する。2008年のリーマン・ショックの最中に購入したグアムの物件を皮切りに、中国、フィリピン、カンボジア、ベトナム、タイ、オーストラリアなどに賃貸不動産を所有する。現在の多くの保有物件で2桁以上の利回りをあげており、物件の評価額も購入価格を上回っているという。
投資国を選ぶ際に重視していることとして、「地合い」(相場の状況や雰囲気)を強調する。「あまり精査せずに購入してしまい、思ったほどは評価額が上がっていない」(征矢野氏)というホーチミン市のマンションも、「しばらく塩漬けにすれば必ず値は上がる」と意に介さない。
征矢野氏がもう一つ重視するのが、信頼できる現地の不動産会社の存在だ。同氏はカンボジアのプノンペンに賃貸物件を保有するが、一般的に借り手が集まりにくいとされる同地でも、「しっかりとした現地の不動産仲介会社に任せれば、借り手が途切れることはない」と強調する。
長期的な視野で出口戦略を
アジア不動産情報提供会社:エイリック
日本最大級のアジア不動産情報ポータルサイト「ARIC」を運営するエイリック(東京都中央区)の田中圭介代表は、東南アジアの不動産投資の現状について、国ごとの温度差はあるものの全体として成長市場であると強調する。
「利回りは5~10%で、巷間言われるようなめちゃくちゃ高い利回りではない」と説明。ただし、日本人の95%が日本円または日本不動産で運用していると言われる現在、「資産のポートフォリオバランスを考慮した場合、東南アジアの不動産投資は有力な投資先」と話す。
プレビルド投資に注意!
エイリックの田中代表は、「短期的な利ざやを狙ったマンション竣工前の転売行為(プレビルド投資)はプロでも難しい」と警鐘を鳴らす。プレビルド投資は、予約金を支払ってマンションを購入する権利を取得し、実勢価格が上昇したところで売り抜ける投資だが、物件完成・引き渡し前に売却が殺到し実勢価格が急落することで、投資資金を回収できなくなるケースがあるためだ。田中氏は「海外の不動産投資は、長期的な視野に立った慎重な姿勢が大切」と強調する。