熱を帯びる東南アジアの不動産市場
安定した経済成長、豊富な若年人口
世界的にも最も躍動している東南アジアの経済。所得水準の向上に伴い、人々はより快適で安心できる住まいを求め始めている。人口減少が続く日本とは対照的に、若さが際立つ各国では、今後も住宅需要の伸びが予想される。日本の大手デベロッパーは、旺盛なニーズを取り込もうと、積極的な攻勢を仕掛けている。価格上昇が続く市場は、日本の個人投資家からも有望な投資先としても注目を集める。分譲マンションを中心とした不動産を軸に、東南アジアの活気を探った。(文=NNA東京編集部 須賀毅)
ベトナム・ホーチミン市
一般に1人当たり名目国内総生産(GDP)が3,000米ドル(約33万3,000円)を超えると乗用車の普及(モータリゼーション)が進むとされるが、マンションの場合、都市圏の1人当たり名目GDPが6,000〜7,000米ドルを超えたあたりから供給が増加する傾向にある。国際通貨基金(IMF)によると、2017年における国民1人当たりの名目GDPは、シンガポール、マレーシア、タイが6,000米ドルを上回り、インドネシア、フィリピン、ベトナムが2,000~3,000米ドル台で続く。都市部の1人当たり名目GDPはさらに高く、今後も需要の増大が予想される。
バンコク、服喪期間明け市況は回復
日本のデベロッパーの進出が目立つのがタイのバンコクだ。マンションの竣工前の転売行為が認められている同国では、転売を狙った購入者が一定割合で存在し、住宅市場を支えている。16年に崩御したプミポン前国王の服喪期間が明け、不動産の市況も17年に底打ち。現在は回復局面に入っていると考えられている。今年は過去最高水準の供給量が見込まれており、特に都心の高級物件が回復を主導している。
日本不動産研究所のシンガポール駐在員事務所長を務める福山雄次氏が「分譲マンションの市場として最も伸びしろがある」と指摘するのがフィリピン。1平方メートル当たり約33万円ほどと、タイの約40万円に比べて低水準のマンション価格や、1億人余りと東南アジアでインドネシアに次いで2番目に多い人口規模を期待の理由に挙げる。同国の経済成長の一翼を担うのは、海外で出稼ぎするフィリピン人(OFW)からの送金だが、所得の向上に伴い、送金を不動産投資に回す世帯も増えつつある。
ホーチミン市、街がダイナミックに変貌
急速な成長市場として、日本の不動産デベロッパーが総じて高い関心を寄せるのが、ベトナムのホーチミン市だ。高層マンションの建設ラッシュが続く同市では、街並みそのものがダイナミックに変貌しつつある。一時は、中級上位(アッパーミドル)以上のグレードやビンタン区、2区、7区などの地域で供給の過剰感が生じていたが、在庫消化がおおむね一巡したと考えられ、中級以下の物件についても実需を背景に、需要は底堅く推移している。
このほか、インドネシアのジャカルタは、実需層向けの中級物件に対する底堅い需要に支えられ、価格は堅調に推移している。19年の大統領選挙を見据えて、政策による内需拡大への期待もあり、今後のマンション市場に好影響を与えるとの指摘がある。
一方、マレーシアのクアラルンプールは在庫を多く抱えるほか、2月の印紙税率の引き上げによって購入者心理の冷え込みが指摘される。おおむね好調な東南アジアの不動産市場にあって市況はやや低調のようだ。