NNAカンパサール

アジア経済を視る August, 2018, No.43

【NNAコラム】各国記者がつづるアジアの“今”

テイクオフ─夏の風景編─


フィリピン

マニラは東京より赤道に近い。3~5月には肌を刺すような日差しが降り注ぎ、体温を上回る気温も珍しくはない。が、その割に熱中症で誰かが死亡したというニュースをあまり聞かない。熱中症気味だと言っても「ヒートストローク(熱中症)? 何それ?」といった具合だ。

熱中症にならないのは、暑いときは動かない、日陰を選ぶ、そういった体力の消耗を防ぐ術を身に付けているからでは、と友人。なるほど真夏には道路脇の日陰で寝ている人をよく見かけた気がする。塩分を多く含む味の濃い食事、果物からの水分摂取なんかも南国の知恵らしい。

当地では雨の影響もあり、1週間以上も気温が28度以下の日々が続いている。体の慣れとは恐ろしく、30度を下回ると肌寒い気すらしてくる。とはいえ日本の友人たちにマニラの涼しさを自慢するのにも飽きてきて、夏の日差しが恋しい今日この頃である。(あ)


中国

切実に欲するのは、おいしい果物を見抜く鑑定眼である。市場でモモを買った。よく冷やしてから丁寧に洗って皮をむき、一口大に切って口に運ぶ。しゃりり、しゃりり。

音がおかしい。日本のモモはこんな音を出さない。別の日にブドウを買う。こちらは酸っぱいばかりで甘みが足りなかった。どちらも見た目はおいしそうだったのだが。中国で甘くみずみずしい果物にありつくためには、目利きの力か目玉が飛び出るほどの価格がついた高級店を利用できる経済力が不可欠である。

流通の間に熟すことを見越して青いうちに収穫して出荷するからだの、生産量を重視して摘果をしないからだの、さまざまな説を聞くが真相は定かでない。「昔はスイカにさえ砂糖を振りかけて食べたものさ」と中国の知人は語る。「日本では塩をかけるけどね」と応じた時の彼の顔といったら。(反)


インド

ニューデリーの暑期から雨期にかけての風物に停電がある。日没後、ぷつりという音とともにビルや家から明かりが消える。街は闇に沈み、とろけるような熱波と暗がりが広がるばかり。空から地上を見下ろしたなら、ぽっかりあいた黒い穴に見えることだろう。

経済成長のひずみだと識者は言う。所得の向上を背景に、暑い夜に冷房をつける家庭が増えている。だが急すぎる需要の増加に、電力供給のインフラ整備が追い付いていない。

住民に不便と忍耐を強いる停電は、その終わりに鮮やかな眺めを見せてくれる。闇に覆われていた数百の窓が、一斉に明かりをともしていく。あの通りからこの通りへ、あのビルからこのビルへ。街をまるごと使った巨大なイルミネーションは、経済成長を果たした10年後、20年後にはおそらく目にすることはない。成長途中のインドが生んだひとときの風物なのだろう。(成)

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