NNAカンパサール

アジア経済を視る August, 2018, No.43

【プロの眼】グローバル教育のプロ 森山正明

第2回 知っておくのは親の義務
帰国生入試のメリット

お子様の進学対策は海外に赴任する“前”から始まっています。前回は2020年の大学入試改革をひかえた教育現場の変化に家族一丸となって対応していく必要性を訴えました。中でも英語の4技能が重視される点に言及しました。今回は帰国生入試のメリットとデメリットを取り上げます。

知っておくのは親の義務 帰国子女が重宝される理由

増え続ける帰国生入試の選択肢

私の教え子で、シンガポールに住んでいた生徒は帰国生入試の選択肢の多さを活用し、志望校に合格しました。その生徒は小学6年生の春に日本に本帰国。第一志望の私立中学校が、シンガポールでも帰国生向け入学試験を10月に実施することが決まると、わざわざシンガポールまで行き受験し見事合格。日本での入試を待たず希望を叶えました。「とにかく入りたい! チャンスには全て挑戦する」というスタンスが功を奏しました。

東京での中学入試は解禁日(2月1日)がありますが、その縛りのない帰国生入試を海外でも実施する学校が年々増えてきています。青田刈り的に一般受験よりも早い時期(10月~12月)に実施しているため、帰国生にとっては選択肢が多くなるというメリットにつながっています。

帰国生向き入試といえば、「プレゼン入試」も多く採られるようになってきました。保護者の世代ではなじみがないと思いますが、大学でよく行われているAO(アドミッションズ・オフィス)入試に似た選考制度です。

有名どころでは、都立立川国際(東京都立川市)が挙げられます。一般入試とは異なり、面接と作文のみ。自己プレゼンテーションが課せられ、志望の動機、意欲などを総合的に判断されます。このプレゼン入試は、特に海外での生活を通して得られた異文化を受け入れる能力、そしてコミュニケーション力の高さなどを見るものとなっています(一部学校では英語力も求められる)。

「異文化メッセンジャー」としての役割

帰国生入試といえども偏差値とは無縁ではありませんが、それ以上に学校ごとの独自基準が合否を左右する傾向があります。

例えば中学入試の場合、一般入試が4教科であれば、帰国生入試は2教科 (国語・算数)+英語+作文+面接などとで、理科と社会が無い学校があります。科目試験は、基準より上の点数を求める程度で、作文や面接での評価が重要視されることがあります。

さらに問われるのは、海外でどのような貴重な異文化体験をしてきたのか――ということです。つまり現地の人とどのようなコミュニケーションをしてきたかが見られるのです。

英語の勉強は日本でもできます。帰国子女に求められるのは、「貴重な海外体験を日本に伝えていくメッセンジャー」の役割です。いざ進学する段階では、海外でさまざまな体験をしてきたことを話し、書けるようにしておく準備が大切になります。

そのため、英語に偏重しすぎるのはよくありません。どんなに海外体験が豊富でユニークでも、母国語である日本語能力がついておらず、それを十分に表現できないというケースにも遭遇してきました。また理科や社会の受験勉強をしていないので、進学した学校での授業についていけないというリスクも存在します。

次回は現地校(ローカル校)で学ぶメリット・デメリットについて詳しく紹介します。


森山正明(もりやま・まさあき)

森山正明(もりやま・まさあき)
香港日本人補習授業校教員。香港日本人学校香港校非常勤講師。エデュケーショナル・アクティビスト(教育活動家)として、定期的に香港、広東省、シンガポールで「おとなの社会科見学」を主宰。アジア・グローバル時代の子育て・教育に役立つ情報サイト『みんなのグローバル受験』編集長。北京・香港・シンガポールで教育事業に20年従事。二児の父。香港在住。

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