【アジア取材ノート】
韓国で相次ぐセクハラ告発
ビジネス界にも意識改革の波
韓国
米ハリウッドに端を発するセクハラ犯罪告発のムーブメント「#MeToo(「私も」の意)」が韓国でも広がっている。伝統的な男性社会や軍隊式の厳しい上下関係がまかり通っていた職場にも、意識改革の波が到来。管理職の立場にいる日系駐在員にとっては、韓国人スタッフへの指導やケアなどが重要な経営課題となりそうだ。(文・写真=NNA韓国編集部 坂部哲生)
3月8日の国際女性デーに、韓国YWCA連合会の会員がソウル市内で行ったデモの様子。性暴力被害告発に対する司法当局の厳正な調査と、政府の対策を求めた。被害者を支持するという意の「#With You」プラカードも。(亜州経済新聞提供)
韓国では、伝統的に厳しい上下関係がセクハラの温床となりがちだった。男性中心社会であることから、被害者が告発したとしても、加害者である男性を擁護する声も少なくない。その常識が「MeToo」運動により覆されようとしている。
きっかけは、今年1月末に地方で起きた女性検事による告発だった。「法務省の幹部からセクハラを受けた」と検察内部のネット掲示板に書き込んだことが、後の法曹界、文学界、芸能界などでの相次ぐセクハラ告発につながった。次期大統領の呼び声も高かった安熙正(アン・ヒジョン)忠清南道知事も、女性秘書による告発で辞任に追い込まれるなど、その衝撃は韓国社会全体に波及し、セクハラに対する議論は絶えない。
儒教の教えが強い影響で性に関する話題を公にするのはタブーだった韓国社会で、なぜMeToo運動に火が付いたのか。日本研究者のロー・ダニエル博士は「朴槿恵(パク・クネ)前大統領を弾劾に追い込んだろうそく集会の影響が大きい」と指摘する。その大規模な抗議活動の流れの中で、「積弊(積み重なった弊害)清算」を掲げる文在寅(ムン・ジェイン)政権が誕生。社会的にタブーとされる問題であっても、個人の考えを主張しやすい雰囲気が生まれた。
変化が求められる日系社員
ビジネス界でも神経質とも取れる新しいルール作りが相次いでいるようだ。女性が参加する食事は昼に限り、夜の会食は原則的に同性だけで行うよう取り決める韓国企業も増えている。ある大手企業では、男性社員と女性社員が一緒に海外出張することを禁じた。女性権利向上を目指すはずのMeToo運動が逆に、女性の社会的地位の向上に水を差すなどの副作用が懸念される。
そこまで極端ではなくても、意識改革が求められる点では日系駐在員も同じだ。本人の言葉や振る舞いに注意することも大切だが、管理者として韓国人スタッフのメンタルヘルスなどにも気を配る必要がある。韓国人の男性社員が女性社員とのコミュニケーションに疑心暗鬼となり、ストレスを感じる場面が増えてきているためだ。
ベネッセ韓国法人を立ち上げて同社社長を務めた経験がある、鄭相坤(チョン・サンゴン)韓国産業カウンセラー協会諮問委員は創業当時をこう振り返る。「社員の8割が女性という職場だったが、女性社員と2人だけになる状況を作らないようにするなど、周囲から疑われないよう普段から細心の注意を払っていた」。トップに疑惑が生まれれば会社自体の存続にも影響するとの危機感があったという。一体化した職場の雰囲気を崩さないためにも、上司としての適切な働きかけの重要度が増すなど、円滑な経営に向けた大きな課題となっている。
5月29日から施行された「改正男女雇用平等法」では、セクハラ被害者に対する懲戒や被害者への二次被害の防止について、事業主も法的な義務を負うことになる。MeToo運動の高まりが職場の在り方を大きく変えるターニングポイントになるかもしれない。