NNAカンパサール

アジア経済を視る July, 2018, No.42

新幹線輸出はオールジャパンで

新幹線の海外戦略

石井 翔氏

国土交通省鉄道局国際課 海外プロジェクト推進官

石井 翔氏

インフラシステムの海外展開を成長戦略に位置付ける日本政府は、2020年に約30兆円の受注実績を上げることを目標に掲げる。海外の鉄道市場は年間24兆円の市場規模があり、21年までに年率2.6%の成長が見込まれている。特にアジアを中心に増加している高速鉄道を重要案件と認識する。

新幹線が強みとするのは高い安全性・定時性、低いライフサイクルコストなどだが、アジアにおける高速鉄道市場では、急速に力をつけている中国との受注競争が激しくなっている。過去、鉄道の海外への売り込みで主要な役割を果たしてきたのは、車両メーカーや商社が中心だった。受注競争が激しさを増す中で、国土交通省鉄道局国際課の石井翔・海外プロジェクト推進官は「『新幹線』というシステムをパッケージで海外に売り込む場合、実際に運行しているJRが積極的に関与することが不可欠」との見解を示し、政府をはじめ、運行会社や車両メーカーなどが一致協力する必要性を強調する。

日本のインフラ受注実績

ライフサイクルコストで優位性

三宅 俊造氏

JR東日本 国際事業本部

三宅 俊造氏

JR東日本グループは、2012年に策定した「グループ経営構想Ⅴ」で海外鉄道プロジェクトに積極的に参画することを標榜している。「コンサルティング事業」「オペレーション&メンテナンス」「鉄道車両製造」を3つの柱に位置付ける。このうち、コンサルティング事業では、11年に鉄道各社が相乗りする形で設立した日本コンサルタンツ(JIC)を通じて、インド高速鉄道(ムンバイ―アーメダバード)の詳細設計調査を進めている。

JR東日本国際事業本部の三宅俊造部長は、中国との受注競争が激しくなっていることについて、「半世紀にわたって無事故で走っている安全性や高い定時運行率を誇る信頼性は、日本の新幹線の方が優れている」と説明。当初の整備費用などは中国の方が安いが、メンテナンスを含めたライフサイクルコストは日本に優位性があると強調する。一方で、高速鉄道には莫大な資金が必要であり、突如計画の中止が決定されたマレーシア―シンガポール間のように、さまざまな事業リスクも伴うことから、民間企業としてはあくまで慎重を要する事案であるとの認識を示す。

インドで新幹線の海外展開第2弾

日本の新幹線方式を採用した高速鉄道整備がインドで進められている。新幹線が海外に輸出されるのは、2007年に商業運転を開始した台湾(南港─高雄間)に続く2カ国・地域目だ。

インドで初めてとなる高速鉄道は、ムンバイ─アーメダバード間に計画されている。最高時速350キロメートルで、約500キロの距離を2時間余りで結ぶ。開業は23年が見込まれている。総事業費1兆1,000億ルピー(約1兆8,000億円)のうち、8割を日本政府の円借款で賄う。

台湾の高速鉄道では、日本で生産した新幹線車両や運行管理システムなどを輸出したが、インドでは同国政府が進める製造業振興策「メーク・イン・インディア(インドでつくろう)」への協力の一環として、車両などの現地生産が検討されている。新幹線技術の海外流出を恐れる日本は、これまで現地生産には消極的とされてきたが、新幹線の海外展開を促進する上で、海外生産がどのような形で実現するか注目される。

インドでは、ムンバイ─アーメダバード路線を含め、計7路線の高速鉄道が構想されている。日本は、ムンバイ─アーメダバード路線で新幹線の技術力の高さをアピールすることで、インド国内の他の路線の受注につなげるとともに、インドでの実績を世界展開への足掛かりとしたい考えだ。

インドにおける高速鉄道構想

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