NNAカンパサール

アジア経済を視る June, 2018, No.41

早稲田大学の特別イベントに登壇

ジャック・マーが語った“成功”の法則

中国

「起業家はお金のために戦うのではなく、世の中、そして人々の生活を良くするために戦うべきです」。目を大きく見開き、熱を帯びた口調で満員の聴衆に語りかけるその人は、馬雲(ジャック・マー)。中国電子商取引(EC)最大手、阿里巴巴集団(アリババグループ)の創業者だ。その個人資産は4兆円以上。裸一貫から世界有数の大富豪にのし上がったカリスマ起業家が、4月25日、東京都新宿区の早稲田大学で行われた特別対談に登壇した。約1,200人分の参加券を求めて応募が殺到し、「1日で締め切った」(早稲田大学・広報担当者)。講堂前にはマー氏の“出待ちファン”も出現するなど、大きな盛り上がりを見せた。約1時間にわたって起業した早稲田大学院生ら3人と対談を行ったほか、後半30分は一般参加者からの質問に回答。起業家の心得から教育問題まで、ウィットを交えつつ、ずばりと核心を突くジャック・マー節を展開した。(文=NNA東京編集部 古林由香)

成功の条件はIQだけではない。
EQやLQ、つまり心や愛も必要

私が思うに、成功に必要なのは、IQ(知能指数)だけではありません。EQ(心の知能指数)とLQ(愛情指数)、つまり心と愛情も併せ持っていなければなりません。IQが飛びぬけて高ければ、成功は簡単でしょう。さらにEQが高ければ、さまざまな困難の中で人とのかかわりあいを学び、チャンスをつかむでしょう。しかし、LQがないとどんなに成功しても尊敬されず、愛される人間にもなれません。なので、本当の意味での成功には、IQ、EQ、LQを併せ持つことが必要なのです。

起業家にはビジョンが必要。
そして自分自身を信じること

起業家にはビジョンが必要です。そしてそのビジョンは、ビジネスで勝つためには人と異なるものでなければなりません。私たちアリババは創業してからこの19年、毎日、人々から問われてきました。「そんなことをするなんて正気なのか?」「本当に実現できるのか?」と。しかし起業家は、自分自身を信じなければなりません。投資家が信じてくれるからでもなく、人々が「いい」というからでもありません。「自分しかできないことがある」と信じるのです。自分を信頼していない起業家が、「私のことを信じてください」と人々を説得するのは不可能です。

5年、10年先を見越し、
心からコミットできることに向き合う

何かにチャレンジするとき、明日、明後日、あるいは来年、すぐに結果が出ると思わないでください。世の中、そんなに簡単ではありません。明日、結果が出るとしたら、それはギャンブルに等しいでしょう。ですから、5年、10年先を見越し、自分が心からコミットできることに力を注ぐのです。人に反対されようが、嫌われようが関係ありません。「自分はこれがいい」と、心底そう思えることに向き合い、向上させていくのです。私はそうしてきました。

チームリーダーは、
まずは自分が信頼を得ること

リーダーの立場として人を信頼したいなら、まずは自分がチームメンバーから信頼を得ることが大事です。そして、とてもシンプルなことですが、信頼できる人、つまり言動に裏表がなく、有言実行タイプの人間でチームを組むことです。

信頼を得るためには、意見が違うときも、状況が良くないときも率直に話さなければいけません。隠し事はいけません。信頼につながりません。そして、リーダーや経営者は少なくとも時間の3割を“人”に費やし、一緒に仕事をする仲間の言葉によく耳を傾けなければいけません。ビジネスは人との付き合いそのものだから楽しいのです。

中国一の富豪のタイトルを持つが、装いは至ってカジュアル。学生や聴衆からの質問に紳士的に対応していたのが印象的だった(写真=早稲田大学提供)

幼少期に観光ガイドのボランティアを通じて英会話力を身につけ、大学卒業後は英語教師をしていたマー氏。対談でも流ちょうな英語を披露(写真=同大学提供)

どんな言葉を使うかより、
どんな考え方を持っているかが重要

人と会話をするときに、シャイである必要はありません。会話は自分を理解してもらうための方法なので、臆することなく話すべきです。大事なのはどんな言葉を使うかではありません。どんな考えを持っているか、裏表なく本当のことを熱意を込めてしっかり伝えることです。そして、それは自分自身の考えであること。新聞に書いてあったことを言うだけでは何も伝わりません。

人の時間を大事にする、という意識も重要です。他人が話を聞きにきてくれるというのは、それだけの時間を費やしてくれているということ。自分だけのユニークな着眼点で、おごり高ぶらず、ポイントにズバッと切り込む。そういった話し方が大切です。

まず、チャレンジすること。
そして始めたのなら、やり通す

起業家を目指す学生は、ビル・ゲイツ氏やマーク・ザッカーバーグ氏のように、すぐ学校を辞め、起業しようという考えは持たないでください。退学して成功する人はわずかです。100人のうち95人は結局、失敗します。5人中4人は失敗しなくても、最後につぶれていきます。成功して残るのはたった1人です。それは運があるか、チームが優れているから残れるのです。

起業家は苦労が多いです。でも、すばらしい経験を得られます。試すことに大きなコストはかかりません。なので、まずチャレンジすべきです。ただ、いったん始めたらギブアップせず、やりぬき通してください。そしてお金のために戦うのではなく、世の中と人々の生活を良くするために戦ってください。

急ぐべきは教育改革。
機械と「異なること」を学ぶべき

データ技術の進歩によって、今後10年で世界は大きく変わり、今ある多くの仕事がなくなるでしょう。それに対処するには、まず教育改革をしなければなりません。例えば、計算でいうならば、機械のほうが速く、安定的で高度なことができます。ですから、子どもたちは、いかに機械ができることと「異なること」を学ぶか、そして将来、仕事に就くための技能を身につけることが重要になってくるでしょう。

賢明な知恵はハートから。
機械にはチップはあれどハートはない

私も教育には懸念を抱いていて、小・中・高等教育を行う学校を独自に立ち上げました。私の学校では、創造性豊かで、革新的で建設的な人間を育てたいと思っています。つまりハートがある人間です。賢明な知恵はハートから生まれます。機械は、チップはあってもハートはありません。ですので、データ技術がいかに進歩しようと、人間ができることはいくらでもあると思っています。ただ、教育は抜本的に見直す必要があるでしょう。教育改革に失敗、もしくは着手が遅れれば、大きな問題になることは確かです。

信頼は得ては失う、の繰り返し。
短期間では得られない

信頼は短期間では得られません。そして、一度得た信頼もずっと保障されるものではなく、得ては失い、また得る、の繰り返しです。だから、信頼を得るためには決してあきらめないことが大事です。誰でも過ちを犯します。私も過去19年間、さまざまな過ちを犯し、困難に陥りました。偽造品販売で取引先から信頼を失ったときも、ただちに対処しました。信頼は時に、自らが積み上げていかなければなりません。

中国人留学生や、社会人の参加も目立った会場。校内4カ所にサテライト会場が用意されたほか、YouTubeでもライブ配信された(写真=同大学提供)

会場前で出待ちをしていた中国人留学生。「早稲田の学生ではないのですが、ひと目会いたくて。ECサイトやアリペイなど、マー氏が作ったシステムは中国の社会を変えたといっても過言ではありません」(写真=NNA)

【ジャック・マー プロフィル】

1964年、中国浙江省杭州市生まれ。大学受験に失敗し、三輪自動車の運転手を経て、再度の受験で杭州師範学院に入学。英語教師を経て99年にアリババを創業。中国最大のEコマース企業に育て上げる。2007年にソフトバンクグループの取締役に就任。

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