【アジアで発見 ロングセラー】
スズキの「アルト・シリーズ」
インドで14年連続販売台数トップ
インド
都市部での使い勝手の良さが気に入っているというジャネンドラ・タンワルさん
経済成長に伴い、乗用車の販売の伸びが著しいインド。韓国・現代自動車やタタ・モーターズなどの地場勢、さらには日欧米の競合メーカーがひしめく同国市場にあって、14年連続で車種別販売台数首位の座を維持しているのがスズキの小型ハッチバック「アルト・シリーズ」だ。(文=東京編集部 須賀毅、写真=インド編集部 アトゥル・ランジャン)
首都ニューデリーで自営業を営むジャネンドラ・タンワル(38歳)さんは、「燃費が非常にいいのが気に入っている。駐車スペースが小さく、道幅の狭い都市部の道路で使い勝手が良いのもいい」と高評価だ。アルト・シリーズは、中古車市場でも人気があり、新しい自動車に買い替える際に、他のモデルに比べて高く売れることも、タンワルさんがアルトを選んだ理由という。
アルトの中古車を購入したという学生のロヒット・クマールさん(22歳)は、「舗装の状態が良くない道路でも良く走ってくれる。維持費用が安いのもプラスポイントだ」と満足げだ。
購入者の44%が35歳未満
アルト・シリーズは、スズキのインド子会社マルチ・スズキが2000年に販売を開始した。04/05年度(04年4月~05年3月)に車種別の販売台数で首位に立って以降、17/18年度まで14年連続でトップの座を維持している。18年3月には累計販売台数が350万台に達した。
コスト意識が高い消費者が多いインドにあって、手ごろな価格や燃費の良さに加えて、モダンなデザインが受けており、若年層を中心に高い支持を集めている。
マルチ・スズキによると、アルト・シリーズの購入者の44%近くが35歳未満。初めて自動車を購入する若い世帯にとって、販売価格が40万円余りというコスト・パフォーマンスの高さは大きな魅力だ。
アルト・シリーズがけん引するインド市場は、スズキの経営の屋台骨を支えているといっても過言ではない。同社が5月に発表した2018年3月期連結決算によると、売上高3兆7,572億円のうち、インドの四輪事業の売上高が1兆2,598億円と、全体の33.6%を占めた。インドにおける自動車の売上高は3期連続で日本国内を上回っている。
一方で、インドの大衆モデルとして、盤石にもみえるアルト・シリーズの地位だが、少しずつ変化もあらわれ始めている。アルトの販売台数のピークは10/11年度の34万7,000台。16/17年度が24万2,000台、17/18年度は25万9,000台となり、ピーク時に比べて9万~10万台程度減少した。
17/18年度の車種別販売では、2位にスズキの小型セダン「ディザイア」(排気量1200cc、1300cc)が19万7,000台、3位に同じくスズキのハッチバック「バレーノ」(同1000cc、1200cc)が19万台でアルトに迫っている。経済成長に伴う国民所得の増加などで、中型セダンやスポーツタイプ多目的車(SUV)の需要が伸びており、消費者の好みも多様化しつつある。
「乗用車を持つ」という多くの国民の夢の象徴的存在を担ってきたアルト・シリーズ。家族全員でアルトを利用しているという北東部ビハール州に住むラジェシュ・クマールさん(20歳)は、「今持っているモデルは旧型だけれど、家族にとって多くの思い出が詰まっている。自分たちにとって、アルトは小型車部門で最高の車だ」との言葉が印象深い。「初めてのマイカー」として定着してきたアルトが、インド人にとって特別なクルマであることはこれからも変わらない。