NNAカンパサール

アジア経済を視る May, 2018, No.40

【プロの眼】台湾映画界のプロ 西本有里

第4回 「布袋劇」映画の製作秘話と今後の展開について

台湾

前回に引き続き、台湾の伝統的な人形劇「布袋劇」(ホテイゲキ 中国語:ブーダイシ)の映画製作および、布袋劇作品の新たなる展開についてレポートします。

©2015 PUPPETMOTION ENTERTAINMENT CO., LTD. 『奇人密碼-古羅布之謎』の一コマ。背景や空中に浮かぶ水の波はVFX処理によるもの

©2015 PUPPETMOTION ENTERTAINMENT CO., LTD. 『奇人密碼-古羅布之謎』の一コマ。背景や空中に浮かぶ水の波はVFX処理によるもの

©2000 PILI Multimedia Inc. 雲林県土庫鎮の映画スタジオに建てられた『聖石傳説』用の屋外セット

低迷していた台湾の映画シーンに突如現れた、霹靂(へきれき)国際マルチメディア(以下、霹靂社)製作の布袋劇映画『聖石傳説 LEGEND OF THE SACRED STONE』(2000年)。台湾国産映画であるにもかかわらず、1億台湾ドル(約3億7,000万円)という華々しい興行成績を打ち立てた大成功の裏には、作品の力だけではなく、新しいメディアでの展開を貪欲に図っていた同社のバックグラウンドが大きいように思います。時代の流れに乗り、時には時代を先取りする事業戦略をとってきた同社は、テレビやビデオはもちろん、PCゲーム、カードゲーム、CD、漫画、写真集、小説、インターネットなどあらゆるメディアに進出する最先端企業でした。この背景があったからこそ、宣伝においてもさまざまなメディアミックスが可能になったのです。

また『聖石傳説』は、従来のテレビシリーズと比べて技術面でさまざまな革新を遂げています。布袋劇の要となる人形は、本作品のために足の関節や指先を繊細に動かす人形が開発され、香港の実写映画も真っ青な超絶アクションの演出が可能になりました。さらに、広大な映画的ビジュアルを実現させるため、スタジオ内で完結していた撮影手法を変え、初めて屋外にセットを組みました。

©2000 PILI Multimedia Inc. メインセットの一つである琉璃仙境(るりせんきょう)。後方には滝が流れ、岩山が広がる広大な風景を見せる

人形の操演を行う人形師は通常、「半山」と呼ばれる高さ150センチほどの平台セット上、もしくはセットの前後で操演を行いますが、オープンセットでは地面に深さ150センチの溝を掘り対応しました。また、メインセットの一つ、琉璃仙境(るりせんきょう)は水面セットでしたが、池の底にも溝を掘り、人形師は顎まで水に浸かった状態で操演を行いました。『聖石傳説』はこのようにさまざまな革新と努力を重ね、テレビシリーズでは決して味わえない迫力、スピード、映像美を備え、独創性に富んだ極上の娯楽映画に仕上がりました。

©2000 PILI Multimedia Inc. 手前の平台が、人形を操演する舞台となる「半山」。これを背景セットとして使用し、カメラアングルを考えながら撮影する

琉璃仙境での撮影風景

時代に合わせ進化を続ける布袋劇

©2015 PUPPETMOTION ENTERTAINMENT CO., LTD. 2015年公開の『奇人密碼-古羅布之謎』(古代ロボットの秘密)の台湾公式ポスター

『聖石傳説』の成功から15年後の2015年、満を持して公開されたのが世界初の3Dスペクタクル冒険活劇人形劇『奇人密碼-古羅布之謎』(古代ロボットの秘密)です。固定の布袋劇ファンだけでなく、一般の映画ファンに客層を広げるために、新しい試みとして3D映像で撮影。長寿番組である霹靂シリーズとは全く関連のない新キャラクター、新ストーリーで製作を行いました。

また、これまでの布袋人形(袋状の布の衣装を着用している人形)とはコンセプトの異なる木製ロボット人形をメインキャラクターに据え、背景や人形の動きにCG映像および大量のVFX(視覚効果)を投入しました。本作の操演メーキング映像が公開されていますので、中国語になりますがぜひご覧になってみて下さい。

さらに本作では、語り部の口白師(こうはくし)一人が閩南語(台湾語)ですべての台詞とナレーションを担当するという伝統を継承せず、歌手や声優を投入。ほぼ中国語(標準語)でアフレコを行いました。このようにさまざまな新しい挑戦を行った本作でしたが、興行成績では『聖石傳説』のような奇跡は起こせず、前作の半分以下という残念な結果となりました。

©2016-2018 Thunderbolt Fantasy Project 日台合同映像化企画として大好評を博した『Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀』(2016年)のメインビジュアル

しかし、ここでくじける霹靂社ではありません。キャラクターコンテンツ制作会社の二トロプラス(東京都千代田区)とフィギュアメーカーのグッドスマイルカンパニー(東京都千代田区)と共同製作し、布袋劇本来の魅力であるCGに頼らない手作業の実写映像を中心とした日台合同映像化企画『Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀』テレビシリーズを16年にリリースしました。原案・脚本・総監修を手がけたのは、ゲームやアニメの脚本家として名高い虚淵玄(ニトロプラス)氏。圧倒的なクオリティーの高さで「これは本当に人形劇なのか?」と視聴者の度肝を抜き、日本でも注目を集めました。

17年末には、その外伝となる『Thunderbolt Fantasy 生死一劍』を劇場上映。18年10月にはテレビシリーズ第2期の放送が決定しています。もし、布袋劇に興味を持っていただけたなら、ぜひ本シリーズの公式サイトをご覧になってみてください。斬新な映像に必ずや驚嘆するはずです。

霹靂社は今後も布袋劇映画を製作していくと決めており、新作映画の企画が発表される予定です。引き続き霹靂布袋劇の動向に注目していただければうれしいです。

※Thunderbolt Fantasyプロジェクト公式サイト


西本有里(にしもと・ゆり)

西本有里(にしもと・ゆり)
早稲田大学教育学部英語英文学科卒業。大学時代からアジア映画に傾倒し、東宝に入社するも、2001年から台湾へ移住。現在は台湾伝統芸能人形劇「布袋劇」の制作会社、霹靂国際マルチメディアでプロデューサーとして勤務する傍ら、翻訳、字幕翻訳、通訳、映像・出版コーディネート業を生業としている。

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