NNAカンパサール

アジア経済を視る May, 2018, No.40

【意外な大国パキスタン(上)】

治安回復、2億人市場に商機
イメージ覆す旺盛な消費

パキスタン

「中国とは蜜月のパートナー」「テロが起こる危険な国」。国際ニュースをみるとそうした印象を受けるパキスタン。しかし、実際に現地を訪れるとイメージは大きく覆される。最大都市カラチの空港に降り立つと、米マクドナルドの巨大看板がお出迎え。1週間の滞在中に日本ブランド以外の乗用車が走っているのをみたのは2台だけ、という「日本車信仰」。治安が改善し、人々の表情も明るい。昨年の国勢調査で、人口2億人を超えたパキスタンの今を報告する。(取材・写真=NNA東京編集部 遠藤堂太)

カラチのドルメン・モール

カラチ最大級のドルメンモール。英百貨店デベナムズのほか、マクドナルド、KFCなどの外食チェーンも入居。取材した3月のこの日は、国際女性デーのため、ピンクに包まれていた

 

パンジャブ州都ラホールのホテルの一角にひっそりとあるバー。10人も入れば満員となる広さだが、1日の疲れをアルコールでゆったりと癒やせる。パキスタンで唯一の酒類を出すこのバーにあるビール、ウイスキー、ジン、ウオッカなどは、いずれもパキスタン国産。中でも白ビールは香りとキレを楽しめ、ぐいぐい飲めた。「パキスタンは厳格なイスラム教国だから、酒は飲めない」と思ってパキスタンに来ると、意外に思う一面だ。

首都イスラマバード近郊の丘陵地にあるパキスタン唯一の酒造会社、マリー・ブルワリー(マリービール)。工場に近づくと、麦汁の甘い香りに包まれた。英国領インド時代の1860年に創業、カラチにある証券取引所にも上場している。

「ビールなど酒類の出荷の伸びは年率10%、ソフト飲料は30%だ」。ゾロアスター教(拝火教)を信仰し、国会議員でもあるイスファンヤル・バンダラ社長は話す。マリービールの2016/17年度(16年7月~17年6月)の売上高は71億4,000万パキスタンルピー(約67億円)。このうち酒類販売は51億5,400万ルピーで、全体の72%を占める。今後はソフト飲料を強化する予定で、訪問した際も容器世界大手テトラパックが、商談を行っているところだった。

ビール生産、マイノリティーへの寛容で

マリービールの工場内は仕込釜の原料投入をはじめ工程管理の自動化は一部だ=イスラマバード近郊

イスラム教国のパキスタンは、酒類の輸出入や持ち込みが禁止されているほか、イスラム教徒の飲酒が認められていない。ラホールのホテルのバーも、イスラム教徒は出入り禁止だった。ではなぜ、酒類が生産できるのか。

パキスタン国民の97%はイスラム教徒だが、残り3%のキリスト教徒などへの配慮で、酒造が許可されている。全国に酒類販売所が数カ所あるが、イスラム教徒は購入できない。しかし、愛飲者のほとんどはイスラム教徒のようだ。

もちろん生産や消費量自体は少ない。独ビール原料大手のバート・ハースの調べによると、パキスタンの16年のビール生産量は300万リットル。50億リットルを超える日本とは比較にならない。

失礼とは思いつつも、タクシーの運転手数人に「ビールを飲むか」と聞いてみた。1人だけ「年に何回かな。むしゃくしゃした時に飲む」と答えた。どんな場面で飲むのだろうか。

治安回復で高成長

「肌感覚で、治安の改善は実感している」。多くの在留邦人が口をそろえる。いまだにテロ事件は発生するが、当局の対テロ掃討作戦によって件数は激減した。日本人がテロや強盗事件に巻き込まれて死亡したケースは、少なくとも2000年以降はない。こうした治安改善や中国のインフラ支援による停電の解消によって、昨年度に続き本年度も5%超の経済成長率を見込む。

経済成長の恩恵を受けるのはマリービールだけではない。飲料など消費財世界大手ネスレのパキスタン現地法人も、5年間で2倍の売上高を記録。10年の514億8,700万ルピー(純利益41億1,300万ルピー)から、15年は1,029億8,600万ルピー(同87億6,100万ルピー)と急拡大した。

600万人の新生児、日本よりも商機

ラホールのニシャット・エンポリアム内にある中国資本の雑貨チェーン「名創優品(メイソウ)」

パキスタンは、子供向けのおむつや乳製品メーカーにとっては大きなチャンスがある。

毎年約600万人もの新生児が生まれるパキスタンの人口ピラミッドは、きれいな富士山型だ。人口ボーナス期がまだ続く50年過ぎにはイスラム教国最大人口のインドネシアを超え、インド・中国・米国に次ぐ世界第4位の人口国となる。

この市場の大きさに目を付けたのは森永乳業だ。森永のパキスタンでの販売量は既に日本の販売量を抜いている(同社広報担当者)。同社は現地合弁会社設立を16年に発表。粉ミルク工場を現在建設中だ。来春までに完成予定で、同国首位ネスレを追撃する。このほか日本の消費関連企業も動き始めており、JCBがデビットカードを16年に発行開始。味の素も同年に現地法人を設立した。

一方、アジア企業も動く。タイ食品最大手チャロン・ポカパン・フーズ(CPF)が昨年、ファストフードチェーンに参入。中国の雑貨チェーン「MINISO名創優品(メイソウ)」も開店した。メイソウで「ニーハオ」と声をかけてきた若いパキスタン男性は、「日本のお店でしょ」と笑顔で話す。

※次回はNNAカンパサールWebマガジン6月号(6月1日発行)に掲載する予定です。

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