NNAカンパサール

アジア経済を視る March, 2018, No.38

【Aのある風景】

西川口で味わう本場の中国

中国

西川口で味わう本場の中国

JR西川口駅周辺のチャイナタウン化が急速に進んでいる。西口のロータリーから伸びる大通りを左手に曲がると、中国料理店の看板が一気に目に入ってくる。昔からあるいわゆる「中華料理」ではなく、本場の中国料理を出す飲食店は東京都内でも増えているが、ここにはビルのテナント全てが中国料理店や中国関連の店というところも多い。

赤地の看板にちょうちんをぶら下げたレストランに入ってみる。外看板に書かれたメニューに日本語が一切書かれていない店すらある中で、訪れた店は全てのメニューに日本語が書かれていた。周りを見渡すと、家族連れや仕事帰りのサラリーマン、さらに、終始互いにスマートフォンをいじりながら軽い食事を取っている若いカップルもいた。一見、普通の中華料理店と変わらないが、会話に耳をすませると客はほとんど全てが中国人だった。

中国料理店が密集するエリアから少し離れたところにある、大手ディスカウントストア内に入ってみる。「香港飲茶」と書かれた看板を掲げたフードコート風の店舗。カウンターの上面には「ホイコーローセット」「麻婆豆腐セット」など一般的な中華料理の定食メニューが申し分程度に掲げられているが、カウンターには「現磨豆醤」(豆乳)、「鴨脖」(武漢発祥の、アヒルの首の醤油煮)など、中国の簡体字で書かれたメニューがずらりと並ぶ。日本人向けに売っているのではないのだろう、日本語訳はほとんどない。

西川口のチャイナタウンにある雑居ビル。かつては違法風俗店が入居していたのだろう、多くが空き室となっていたそうだが、今はほとんどでテナントが埋まっている。料理店のほか、美容室やマッサージ店など、全てが中国関連の店のようだ

日本人になじみのない「米線」という料理が新メニューになっていたので、売れ具合を中国語で尋ねると、「なかなか売れているよ」と北方なまりの中国語が返ってきた。豆乳を注文すると、中国で豆乳を買う時と同じように、ホットかアイスか、そして砂糖の量を聞かれた。コップに注がれて出てきた温かい豆乳は、これも中国本場の味がした。

チャイナタウンに詳しい立正大学・地球環境科学部地理学科の山下清海教授によると、池袋北口周辺のチャイナタウンは競争が激しくなったため、日本で起業したい中国人は鉄道の路線に沿って郊外に出るようになった。特に西川口は2000年代半ばに行われた違法風俗店への取り締まりによって、空き物件が多く出ていたため、中国人が多く進出した。「歓楽街」というイメージが強く、敬遠する日本人が多い一方、都心からのアクセスの良さの割に住居や店舗用物件を手頃な価格で借りられるため、旧来のイメージを気にしない外国人に人気だという。

横浜の中華街は、長い年月を経て、華人同胞を対象とした店舗や施設が集まる街から、華人以外の現地の人々をひきつける観光地や商業地に変わっていった。山下教授によると、西川口のチャイナタウンが今後、横浜と同様の軌跡をたどるかはまだ観察が必要な上、中華料理を食べに来る日本人もまだまだ少ない。本場の「中国」を手軽に味わいたいなら、今がチャンス。航空券を手配する前に、まず西川口を訪れてみたい。

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