【日本で聞く、企業のアジア戦略】
第1回 パソナグループ
外国人人材の需要が増加
人材サービス大手のパソナグループは、1984年に香港で現地法人を設立したのを皮切りに、アジアや北米、欧州などで海外事業を展開する。グローバルでは現在、日本を含む15カ国・地域で計55拠点を持つ。企業の人手不足を背景に、国内だけでなく、アジアなど海外も人材派遣事業が好調だ。人材からアウトソーシング、研修まで手掛ける幅広いサービスを武器とする同社に、今後のアジア戦略を聞いた。
(文=大石秋太郎)
パソナグループが2017年11月に東京で開いた、中国人留学生向けの就職イベント「ジョブ博チャイナ」。ハウス食品や日産自動車など日本企業のほか、ディスプレー大手の京東方科技集団など中国や海外の企業も出展した(NNA撮影)
パソナグループの海外事業の2017年5月期の売上高は前期比3.4%増の63億9,000万円で、エリア別では北米が37.6%、アジアが62.4%を占めた。パソナグループの中核会社、パソナの市川知之グローバル事業本部長によると、アジアではここ5~6年で特に東南アジア諸国連合(ASEAN)への進出が盛んで、ASEANでの売上高は3年間で約3倍に増えた。東アジアは韓国と中国、台湾、香港に拠点を持つ。このほかEMEA(欧州・アフリカ・中東)エリアとしては、ドイツとフランス、インドに拠点がある。特にインドは安倍首相の訪問に伴う日系企業の進出や教育関係が盛んなことから順調だという。
福利厚生代行のベネフィット・ワンが進出するドイツと農業ビジネスを手掛けるパソナ農援隊が進出するフランス以外の海外事業は、人材サービスによる日系企業の海外事業へのサポートが中心だ。事業内容は主に、人材派遣、人材紹介、経理業務などを請け負うBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)、研修の4つに分けられる。売上高に占める比率は人材派遣が約4割、人材紹介が約3割、BPOが約2割、研修が約1割となっている。国によって、会計事務所やコンサルティング会社が競合となるところもあるが、パソナグループのように人材からBPO、研修までを展開する企業は少なく、こうしたワンストップサービスの同社の強みとなっている。
現地企業買収が増収に貢献
直近の18年5月期第2四半期(17年6~11月)の海外の売上高は、主力の人材派遣事業が前年同期比18.3%増と好調で、特に米国とインドネシア、ベトナムがけん引役となった。米国は工場の立ち上げに伴い、通訳や翻訳、事務などの需要が旺盛だった。
インドネシアは、人口が多く需要が大きいこともあるが、15年に現地の人材サービス会社、ドュータグリヤ・サラナ(DGS)を買収したことが奏功し、業容拡大に寄与している。DGSは人材派遣や紹介、研修など複数のライセンスを持つ、現地では珍しい企業。インドネシアは外資100%では人材派遣事業のライセンスを取得できないため、パソナグループの同国現地法人は当初、コンサルティングのライセンスの元、人材紹介事業を行っていた。DGSを買収してからはグループとして派遣事業も提供できるようになり、現地企業、日系企業の取引をともに拡大した。
ITエンジニアに特化したパソナテックの現地法人を設立しているベトナムでは、日系企業によるエンジニアの需要増が増収要因となった。同社はベトナムでは15年に日本企業として初めて人材派遣業のライセンスを取得している。
おもてなし研修が好評
海外での研修事業も歴史が長い。香港では進出当初の1984年に教育に特化した子会社のパソナエデュケーションを設立し、語学研修やビジネス研修を提供している。2016年には、パソナグループ傘下で人材事業を手掛けるキャプランが、タイの財閥で流通大手のセントラル・グループと合弁会社を設立。主に日系企業に勤めるローカル社員を対象にしたビジネスマナー研修や、日本の「おもてなし」を体現した接客マナーの研修を実施している。研修は受講者と経営者の双方から好評だという。例えば、日系企業に務めていて普段なにげ無くしているおじぎについて、「なぜ握手ではなくおじぎをするのか」「なぜおじぎには角度の別があるのか」といった理由などを丁寧に説明することで、納得感を得られることが評価につながっているという。マナーやおもてなしは国によって違うが、『日本式』は特に東南アジアでは受け入れられているそうだ。
日本国内では、外国人留学生や海外での就職を目指す人のための就職イベント「ジョブ博」を開いている。パソナグループは、1990年から海外で働く人のための就職イベントを開いていたが、2007年からはジョブ博ブランドで開催。13年からは台湾と韓国の現地でもジョブ博を開催している。
外国人の国籍別に対象をしぼったジョブ博も展開しており、17年11月には第6回目となる中国の留学生向けの「ジョブ博チャイナ」を東京で開催した。出展企業が23社、来場者が約980人に上り、ジョブ博チャイナとしては過去最大規模となった。市川本部長は「中国は国内市場が盛り上がっているので、現地をよく理解する中国の人を雇いたい日系企業が増えている」と説明する。
ジョブ博、大手の出展が増加
ジョブ博の様子はここ2~3年で変わってきたという。市川本部長は「日系企業の外国人人材の需要が増えているのをひしひしと感じる」と話す。以前のジョブ博への出展企業は優秀な日本人の人材を探したい中小企業が多かったが、最近は人手不足が顕著になったため、メガバンクなどの金融や総合商社といった大手企業も参加するようになった。また、日本の好景気を背景に駐在員を日本に戻し、海外が手薄になることから、海外の幹部候補を雇う目的で出展するケースも多い。
一方で会場を訪れる候補者をみると、留学生が希望する就職の幅が広がっているという。以前は「何が何でも日本で5~6年は働いてから帰国したい」という人が多かったが、特に中国の留学生などでは、賃金が上昇し、市場も伸びている自国にUターン就職したいといった人が目立つようになってきた。また、参加する留学生の国籍別では、日本での在住者の数に比例するように、ベトナムとインドネシア、ネパールなど東南アジアの出身者が増加傾向にある。このほか、中国企業を含む外資系の大手企業で働きたいという留学生の参加も増えている。
市川本部長は今後のアジア事業について、売り上げや利益が安定している東アジアと、成長著しいASEANに分けて展望を描く。東アジアでは、人材サービスの次のステップとなる事業の拡大を目指す。米国や香港などで既に行っているが、日系企業の間ではBPOを含めたワンストップのソリューションの需要が増えているためだ。シンガポールも東アジアと同様の戦略を進めていく。ASEANはこれからも伸びていく市場で、人手も不足しているので、主力の人材派遣と人材紹介でこうした需要に応えていく。また、ベトナムやマレーシア、インドなどで行っていた高等教育機関との産学連携も続けていきたい考えだ。