NNAカンパサール

アジア経済を視る February, 2018, No.37

【アジアに行くならこれを読め!】

『北京スケッチ』

著者は共同通信社の上海支局長、中国総局長などを務めた中国報道のベテラン記者。本書は2013~15年に同社のサイトで配信された連載をまとめたルポタージュで、大都市・北京の市井の人々の姿を丹念な取材であぶりだしている。

一人っ子政策の犠牲者ともいえる無戸籍の女性、出稼ぎの親と離れて暮らす留守児童など、中国特有の構造が生んだ社会問題に驚かせられる一方、ライフワークバランスに悩む子育てママ、就活難を嘆く大学生など、日本と変わらぬ姿もある。

普段のニュースで「大国」というキーワードで報じられる中国は、概してものものしく、“相容れることができない隣国”とさえ感じることもしばしば。しかし、本書に登場するあえぎながらも日々を懸命に生き抜こうとする人々の生き様には、むしろ親近感を覚える。

「とげとげしさを増す日中関係の中で、等身大の相手を見る意欲を失ってしまったのではないか。(中略)まずは、相手の状況を知ることだろう。普通の人々の悩みや希望が、国によってそれほど違うことはないはずだ」とあとがきで著者は訴える。

中国総局所属のカメラマンによるモノクロ写真も秀逸で、鋭い描写で主題にぐいぐいと迫るルポにインパクトを添える。近くて遠い国と評される中国だが、本書を読めば心理的距離はぐっと縮まるはずだ。


『北京スケッチ』

  • 渡辺陽介 明石書店
  • 2017年11月発行 1,700円+税

未来に向かって進もうとする若者の夢が、日本と中国でそれほど異なるわけがない。(本書より)

目次 のぞき見
  • 不正義と闘う人たち
  • 性革命と多様性
  • 嫌いだけど好きな日本
  • 女性は天の半分を支える
  • 頑張る子どもたち

渡辺陽介(わたなべ・ようすけ)

1959年新潟生まれ。上智大学卒業。83年共同通信社入社。94~96年上海支局長、96~97年香港支局員、2000~04年ワシントン支局員、04~08年中国総局長、10~12年外信部長。整理部長などを経て、13年から16年まで中国総局長。編集委員兼論説委員を経て17年から編集局次長。

『新・中華街 世界各地で〈華人社会〉は変貌する』

至る所に掲げられた漢字の看板、スーパーマーケット中に漂うアジアンな食材の匂い、耳に飛び込んでくる中国の方言――。かつてフランスに住んでいたころ、パリ13区にあるチャイナタウンをよく訪れた。観光客でにぎわう横浜の中華街と異なり、「華人のための華人の街」といった雰囲気が印象的だった。

チャイナタウン研究の権威である著者によると、こうした華人同胞を対象とした店舗や施設が集まる街はチャイナタウン発展の「第一段階」だ。ここから、華人以外の現地の人々をひきつける観光地や商業地にステップアップしていく。日本にも、三大中華街とは異なる第一段階のチャイナタウンが形成されており、その代表的な存在は池袋北口一帯のエリアとなる。著者は、中国の改革開放後に世界に飛び出した華人らによって新たに興ったエスニックタウンを「新・中華街」と定義。その成り立ちや旧来の中華街との比較から、華人社会の「食」、世界各地での華人の政治参加など、幅広い角度から新・中華街と華人社会を分析する。

本書に登場する新・中華街は、池袋から始まり、北米、欧州、アジアと地球規模に展開される。華人の移住の歴史や各地で現地化する中国料理の紹介などを読めば、海外渡航の行き先についチャイナタウンを追加したくなること請け合いだ。


『新・中華街 世界各地で〈華人社会〉は変貌する』

  • 山下清海 講談社
  • 2016年9月発行 1,550円+税

レジの女性は、私に「八毛五(パーマオウー)」(八五セント)と言い、一ユーロを渡すまで、筆者はすっかり中国世界に浸っていた。(本書より)

目次 のぞき見
  • 日本三大中華街との違い
  • 新華僑が急増するイギリス・フランス
  • 現地化・大衆化する中国料理
  • 日本老華僑の僑郷――福建省福清市
  • 地域社会との葛藤

山下清海(やました・きよみ)

立正大学地球環境科学部地理学科 教授。1951年、福岡市生まれ。86年、筑波大学大学院博士課程地球科学研究科修了(理学博士)。秋田大学、東洋大学、筑波大学の教授を経て2017年4月から現職。専門は人文地理学、華僑・華人研究。主な著書に『東南アジアのチャイナタウン』『池袋チャイナタウン―都内最大の新華僑街の実像に迫る』など。

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