【アジア取材ノート】
上質な船内ライフ、食やイベント充実
中国からの訪日クルーズはいま
中国
海外から日本を訪れるクルーズ旅行の人気が高まっている。2016年にクルーズ船で日本に入国した外国人旅行客は過去最多の約200万人を記録。国・地域別では中国人が最多を占めた。彼らは船内や日本の観光地で何を楽しみ、どんな時間を過ごしているのか。上海~長崎を4泊5日で往復する大型客船に乗り、中国発訪日クルーズ旅行のいまを伝える。(安田祐二=文・写真)
クルーズ船が港を出る時、ダンスパーティーが始まった。乗客はスタッフとともに踊り雰囲気が盛り上がる=2017年11月
船の中心部にあるロビーに足を踏み入れると、高さ5メートルはあろうかという、きらびやかなシャンデリアが目に飛び込んできた。床には赤いじゅうたんが敷かれ、あちこちに飾り付けられている絵画や陶器などは立派な物ばかり。米クルーズ船運営会社のノルウェージャン・クルーズラインが運航するクルーズ船「ノルウェージャン・ジョイ(中国語名:諾唯真喜悦号)」の船内は、「海上のファーストクラス」とうたっている通り、まるで高級ホテルのようだった。
客室は2~4人用が中心。ダブルベッドやソファ、シャワー、トイレなどを備えており、多くは海が見えるバルコニーも付いている。17年6月に初航海したばかりだ。
船の豪華さとは対照的に、乗客の服装はカジュアルが多い。乗客は定員約3,880人に対して約3,300人。若者よりも60代以上の高齢者の夫婦やグループの姿が目立った。
移動、宿泊、食事がセットになったクルーズ旅行は旅行者の負担が小さく、高齢者や小さな子ども連れも参加しやすい点が人気の理由の一つ。初めての海外旅行にも向いていて、中国では若者世代が高齢の両親にクルーズ旅行をプレゼントするケースもあるという。
充実のイベント
長崎に向けて出港を予定していた時間になると、船の16階にある広場でダンスパーティーが始まった。大音量の音楽が鳴り響く中、50人くらいの乗客が船のスタッフとともに踊り、出港の雰囲気が盛り上がった。
船内でのイベントはクルーズの楽しみの一つだ。旅行期間中、1日のイベントスケジュールを書いた小冊子が毎日配られ、乗客はそれを見ながら計画を立てる。海の上で丸1日を過ごした旅行の2日目は、運動不足解消のため集団で体操を行い、船内スタッフがタオルを使って動物を形づくるショーを行った。絵画講座や映画の上映、ピアノ演奏なども組み込まれ、乗客が思い思いに時間を過ごしていた。
多彩なイベントやグルメを楽しめる。4泊5日の船旅は1人当たり約3,000元(約5万1,300円)。長崎に近い福岡~上海間の往復航空券の料金はこの時期ほぼ同額で、旅行代金に船賃、宿泊代、食事代も含まれているのでお得と言えるようだ。
平均消費額は10万円超
数千人もの旅行客を乗せた訪日クルーズ船の寄港は、目的地となる日本の地方都市への経済効果が期待されている。乗客約3,300人を乗せたノルウェージャン・ジョイが到着したのは、長崎市の松が枝国際観光船ふ頭。中国人旅行客はどんな観光地を巡り、何にお金を使うのだろう。彼らと共に現地ツアーに参加した。
実際、クルーズ客による寄港先での消費は目を見張るものがある。外国船社の運航するクルーズ船が寄港した日本の港のうち、寄港回数が全国トップの博多港が立地する福岡市が2015年に行った調査では、クルーズ船で同市を訪れた中国人旅行客1人当たりの平均消費額は10万7,000円に上った。
日本の法務省の統計によると、「船舶観光上陸許可」を得て16年に博多港から入国した中国人クルーズ客は76万3,800人。福岡市の調査を基に単純計算すると、中国人クルーズ客による消費額は年間約800億円を上回ることになる。
この消費力を地域経済活性化に生かそうとする動きはすでにある。関門海峡で向かい合う山口県下関市と福岡県北九州市は16年11月末、上海市で現地の旅行会社やクルーズ船運営会社を招いてセミナーを開いた。連携して港湾情報や観光周遊ルートをPRし、クルーズ船の寄港数増加や観光客誘致の強化を図る狙いだ。