NNAカンパサール

アジア経済を視る November, 2017, No.34

【アジアに行くならこれを読め!】

『ミャンマー経済の基礎知識』

「当時のスケジュール帳を振り返ると、30分から1時間おきに企業面談がびっしり入っている」。2011年から14年にかけて日本貿易振興機構(ジェトロ)のヤンゴン事務所に勤めていた著者の水谷氏は、「人生の中で最も多忙」な時期を過ごしたという。11年3月末に発足したテイン・セイン政権が樹立されて以降に断行されたさまざまな民主改革が、いかに劇的だったかを物語るエピソードだ。その後、16年には国民民主連盟(NLD)による新政権が発足し、引き続き国内の経済改革が進められている。

著者は、そんな変化のまっただ中にあるミャンマーについて、1988年の軍事政権時代から今後の展望を含めて調査して本書にまとめた。投資や労働、雇用といったビジネスに関連する法令や財閥グループ、地場企業の情報が豊富なだけでなく、社会や政治についても分かりやすく説明されている。この一冊だけで、ミャンマーの基礎知識はばっちりだ。また事業を行う上でのチャンスに加え、リスクについても触れ、バランスの取れた構成となっている。

06年に首都がヤンゴンからネピドーに移転された理由は国民の誰もが知らないらしい――。現地生活の経験者ならではのこんなユニークなエピソードを紹介するコラムもあり、ミャンマーの面白さが伝わってくる。アジア最後のフロンティアを開拓するならば、頼もしい必携のビジネス書だ。


『ミャンマー経済の基礎知識』

  • 水谷俊博/堀間洋平 日本貿易振興機構(ジェトロ)
  • 2017年8月発行 2,000円+税

連日日本からの出張者や経済ミッション団が押し寄せ、ジェトロ・ヤンゴン事務所は空前の来客ブームとなった。(本書より)

目次 のぞき見
  • 1988年以降の政治概況 ~新たな国造りに向けて~
  • 民主化の進展で活性化する経済 ~経済、産業、市場の動向~
  • 進出方法に関する基礎知識
  • 労働・雇用制度に関する基礎知識
  • ビジネス開始、投資決定の前に知るべきリスク

水谷俊博(みずたに・としひろ)

ジェトロ 海外調査部 アジア大洋州課 課長代理。元ジェトロ・ヤンゴン事務所次長。2000年に東京外国語大学東南アジア課程(ビルマ語専攻)を卒業し、ブラザー工業に入社。06年ジェトロ入構。08~10年ジェトロ鹿児島事務所、11~14年ヤンゴン事務所勤務。14年6月から現職。

堀間洋平(ほりま・ようへい)

ジェトロ ヤンゴン事務所 所員。2003年東北大学大学院情報科学研究科、13年山口大学大学院技術経営研究科修了。03年中国電力に入社。15年ジェトロ 海外調査部 アジア大洋州課(出向)、16年より現職。

『TOEIC300点からの海外進出』

フィリピンのセブ島にある、学生数150人規模の英語学校。学生の出身地は日本や台湾、ベトナム、中国、韓国などセブ留学としては国際色豊かな環境で、閑散期を含め1年を通した稼働率は90%超を誇る――。本書の著者の石原氏は、この学校を創業し、運営する日本人ビジネスマンだ。

きっと英語が得意で、ビジネスの才能にも恵まれた人なのだろうと思いきや、著者は「残念ながらまったくそんなことはありません」と謙遜する。セブで学校を立ち上げる前から働いていたオーストラリアの留学エージェントでは、英語を使って大学を手配できないことから「あの手この手でだましだまし」仕事をし、英語力の低さから解雇予告をされたこともあったという。

本書は、海外でビジネスをするにあたって高い英語能力は必要ないということを、著者自らの失敗や苦労、そして成功体験を通じて伝えていく。実際にはセブでの英語学校の立ち上げ奮闘記で、教室の工事を請け負う業者とのやりとりや、ライバルの日系の英語学校が乱立して経営が危機に陥る場面、そこからの復活劇などがリアルに語られる。著者は学生時代にお笑い芸人としてのキャリアも持ち、自虐ネタを交えながらの文体が面白い。英語が堪能でも、既に海外で働いている読者でも楽しめ、励まされる一冊だろう。


『TOEIC300点からの海外進出』

  • 石原智之/石川毅 講談社エディトリアル
  • 2017年9月発行 900円+税

こんな調子で日々をなんとか気合で乗り切っていました。(本書より)

目次 のぞき見
  • 夢断たれて引きこもりになる
  • ひょんなことから海外で働くチャンスを得る
  • 建築工事は問題だらけ!
  • 開校、順風満帆・・・・・・とはいかず
  • 奇跡の復活劇

石原智之(いしはら・ともゆき)

TARGET Global English Academy最高経営責任者(CEO)。1978年東京生まれ。東京都立井草高等学校から東洋大学へ進み、大学卒業後は大手芸能プロでお笑い芸人となる。その後、一般企業の総務部に勤務するも会社経営に興味を持ち、オーストラリアの留学エージェントに転職。会社の倒産の危機にも直面したがフィリピン留学エージェント業を開始して業績を回復させる。その中で既存の学校の問題点に気づき、理想の学校を作ることを夢みてフィリピンで2013年に語学学校を設立し、現在に至る。

石川毅(いしかわ・たけし)

1979年東京生まれ。東京都井草高等学校卒業後、専修大学経済学部から同大学院経済学研究科を修了。2002年から企業の海外進出を支援する仕事に従事し、中国駐在などを経て現在に至る。学生時代から、また社会人になってからも休暇を利用して、米国やオーストラリアへたびたび短期留学したりアジア各国を旅行したりするなど、多くの海外体験をもつ。

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