NNAカンパサール

アジア経済を視る October, 2017, No.33

【アジア取材ノート】

超高速充電EVバス、発車
マレーシアで日系が実証

マレーシア

超高速充電EVバス

新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)と東芝インフラシステムズなど日系4社によるコンソーシアム(企業連合)は、マレーシアの行政都市プトラジャヤで、10分間の超高速充電で30キロメートルの運行が可能な大型電気バス(EVバス)システムの実証を始めた。プトラジャヤのスマートコミュニティー化を推進するとともに、アジアで導入検討が進むEVバスシステムのショーケースと位置付け、日本の技術の広域展開を目指す。8月28日には現地で発表セレモニーを実施した。(齋藤眞美=文・写真)

実証開始の式典が行われた

NEDOは2015年、EVバスの導入によるスマートコミュニティーの実現を目指すプトラジャヤ市と基本協定書を交換。超高速充電、耐久性で競争力を持つ電気自動車(EV)向け蓄電池を既に世界市場に展開する東芝インフラシステムズ(川崎市)、EVバスメーカーのピューズ(東京都千代田区)、超高速充電器とシステムを開発するハセテック(横浜市)、オリエンタルコンサルタンツグローバル(東京都新宿区)の4社との連合で、マレーシア側と連携してEVバスシステムの実証事業を推進してきた。

観光向け2階建ても導入へ

4社は、地場コングロマリット(複合企業)DRBハイコム傘下のデフテックと連携してプトラジャヤでのシステム設置を推進。17年6月から大型EVバス(立ち席を入れて63人分と車いす1台分、長さ12メートル、高さ3.8メートル)2台の実証運行を市内2ルート(各23キロ)で開始した。現在は、EVバス8台と故障時の対応に当たるレスキューEVバス1台を追加した11台体制で、来年3月まで実証運行を行う。

さらに、18年からは観光向けを想定した2階建て(ダブルデッカー)EVバス2台を導入して別途、1年間の実証運行を行う。ダブルデッカーEVバスの長さは12メートル、乗客数は現在、設計段階で非公表としている。これまで重量の制約上、難しいとされていたダブルデッカーだが、今回の実証運行では課題をクリアし、既に実証運行中の大型EVバスと同じ10分間の充電で30キロ運行できる超高速充電システムを取り入れる。超高速の高出入力でも劣化しない高耐久性が同システムの大きな特性だ。

超高速充電器は、クアラルンプール国際空港(KLIA)とKL市内を結ぶ快速鉄道「KLIAトランジット」のプトラジャヤ・サイバージャヤ駅前のターミナルに3台分、プトラジャヤ市内の路線バス車庫に1台分を設置している。デフテックは軍事車両の製造がメインだが、欧米ブランドのバス製造で実績があり、マレーシア国内バス市場では約2割のシェアを持つ。今後はピューズの支援を受けながらメンテナンスも担う。

低水準の運賃

プトラジャヤ市は、EVバスの運賃を通常の路線バス同様に0.5リンギ(約13円)と低水準に設定。バス運行会社ナディプトラの幹部によれば、非接触型の自動決済カード「タッチンゴー」とプトラジャヤ限定の「ナディプトラ」カードの両方で支払うことができる。一般市民の使用を促すため、今年6月、断食明け大祭の首相主催イベントでも会場に向かう人々を送迎し、EVバスの導入をアピールしたという。

4割削減狙う

プトラジャヤ市は、25年までに温室効果ガスの排出量を40%削減する目標を掲げており、EVバスの導入はその取り組みの一環。セレモニーであいさつしたアドナン連邦直轄区担当省事務次官は、路線バスが年々増える中、NEDOとの協力が形になったことに喜びを表し、「日本とマレーシアの国交樹立60周年に当たる今年の良い事例。KLにもEVバスが広がることを期待する」と語った。また、NEDOの渡邉誠理事も「マレーシアと日本の協業による前向きな結果であり、素晴らしい時期にセレモニーを実施できた」と述べた。

日本規格のショーケース

超高速充電システム。「NEDO」のロゴが目を引く

NEDOスマートコミュニティ部の鈴木啓主任によると、超高速充電はEVバスの世界的なトレンド。市場では日本勢の規格「CHAdeMO(チャデモ)」、欧米勢が主導する「Combo(コンボ)」、米国テスラの独自規格などが存在感を示している。プトラジャヤにおける10分間で30キロ走行の超高速充電システムを備えたEVバスの導入は、世界的にも初めての例だ。NEDOは、「CHAdeMO(チャデモ)」による先進的な実証事例として、マレーシア国内のみならず、東南アジア諸国連合(ASEAN)を含む近隣国にも情報発信できるショーケース的な位置づけとしたい考えだ。

一方、マレーシアでは現在、スランゴール州の快速バスシステム(BRT)サンウエー線で中国の比亜迪(BYD)のEVバスが商業運行しているが、充電1回に数時間かかるという。鈴木主任は、「EV市場が拡大する中、競合となる中国、欧米のメーカーと比較して日本企業が持つ技術力は大きな付加価値になる」と語った。

20年2月までの5年間を期間とする一連の実証に伴う事業費は約36億円。実証では搭載電池の品質、充電状態やバス運行状況のモニタリングなどを行い、報告書にまとめる。実証事業後はEVバス、充電システムともにプトラジャヤ市に譲渡される。

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