このトピック、こう読みます
NNAが日々伝えるアジアのニュース。読者の関心が高かったトピックについて識者が解説、分析した。
日本の高齢者ケア産業、アジア目指し展示会NNA POWER ASIA 2017年8月17日付
ベトナム
日本貿易振興機構(ジェトロ)は8月15日、ベトナムのホーチミン市で日本の高齢者ケア関連企業による展示会「ジャパン高齢者ケア産業ショーケース」を開催した。出展企業は、同日に開かれたアジア太平洋経済協力会議(APEC)に向けた、アジアの人口問題に関する議員フォーラムに出席した各国の議員らに製品やサービスをアピールした。展示会は日本政府が提唱する、「アジア健康構想」の一環として開催される、海外初イベントとなった。日本の高齢者ケア事業者の海外進出を支援してアジアに介護産業や、高齢化社会における社会制度の構築を目指す。
細見 真司 (ほそみ・しんじ)
デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー ライフサイエンスヘルスケア担当。医療法人のマネジメントを経て、2006年新生銀行に入行、10年にヘルスケアファイナンス部を創設。14年より現職。ヘルスケアセクターの合併・買収(M&A)支援を中心に、上海で中国の投資家向けセミナー、台湾での新規事業進出支援などを行う。16年に厚生労働省事業「介護サービス事業者等の海外進出の促進に関する調査研究事業」の委員に就任。
アジア各国・地域は今後、本格的に高齢化を迎える。急速な高齢化は、介護などの高齢者関連サービスの急激な増大につながると考えられ、既に介護保険が整備され、高齢者介護サービスの先進国である日本の高齢化対策の経験に関心を寄せている。そのアジアのニーズを先取りするように、ここ数年、日本の高齢者ケア事業者もアジアへの事業進出を活発化させている。
しかし現在のところ、アジアにおいて家族以外から介護サービスを受けるという認識が低く、文化や生活習慣の異なる国に日本的な介護サービスの優位性を伝えることや現地でのビジネスパートナー探しの難しさ、規制のある中で現地の行政サイドとのネットワーク不足、介護保険制度の存在しない海外で事業採算性を確保するためのノウハウに乏しいなど、進出している事業者は多くの課題に直面している。
各国の社会保障制度に大きく依存する事業だけに、民間の独自展開だけでは限界がある。政府が推進する「アジア健康構想」では、民間の高齢者ケア事業者に対して国際協力機構(JICA)による資金支援策やジェトロによる事業組成支援などの具体的な政府支援策の実施が計画されている。当初はアジアの富裕層をターゲットとしながら、経済発展とともに拡大する中間所得層向けの商品やサービスを開発していくことで、低コストの介護サービスが確立できれば、逆に日本に導入することも可能になり、持続可能な介護保険制度を支えることができる。アジアに「J―CARE」を広げながら、介護サービスのリバース・イノベーションが実現する可能性にも期待したい。
日本産和牛のマークを刷新、他国と差別化へNNA POWER ASIA 2017年8月18日付
香港
日本産和牛の普及を狙い、海外で導入されている統一マークが香港で一新される。香港では米国産やオーストラリア産の和牛が流通する中、「和牛」よりも「日本産」を強調し、差別化を図る。日本産和牛の輸出が拡大している重要市場の香港で、さらに認知度を高める狙いだ。香港では2015年末から日本産和牛に「和牛統一マーク」が貼られるようになった。これまでのマークには「WAGYU」という文字が大きく書かれていたが、新しいマークは「JAPAN」に改めた。米国産、オーストラリア産の和牛が流通する中、「WAGYU」ではなく、「JAPAN」を前面に打ち出すことで差別化を図るのが狙いだ。
強谷 雅彦 (すねや・まさひこ)
日本畜産物輸出促進協議会 事務局長、公益社団法人中央畜産会 専務理事。1981年農林水産省入省。食肉、牛乳・乳製品関係の国際交渉や貿易問題への対応のほか、独立行政法人農畜産業振興機構では総括理事として海外での和牛輸出プロモーションにも参画。
日本の海外への和牛輸出の伸びが近年著しい。東日本大震災で放射性物質汚染の懸念により、一時は輸出がほぼ停止したが、安全性についての丁寧な説明が功を奏し、今や中国などが輸入を拒んでいる以外は台湾でも輸入解禁が間近なのをはじめ、海外市場に打って出る土俵はほぼできつつあると言ってよいだろう。
海外の主要な牛肉生産国は日本の和牛の美味・高品質に早くから注目してきた。日本の和牛の遺伝資源を少頭数ながら入手し、これを増殖・生産し、雑種も含めたものをWAGYUとして、高級牛肉市場におけるブランドを作り上げた。彼らのマーケティング手法は、日本産和牛の極上の味覚、高品質のイメージを彼らのWAGYUに重ね合わせて、商品のイメージ作りを狙うもの。しかし、これは日本産和牛の評価をおとしめることにもなりかねない。
和牛の輸出促進活動では、これらの海外産WAGYUと日本産和牛との差別化が最も重要である。そこで今回、これまでの和牛統一マークを一部改良し、JAPANを強調したものとしている。このマークは100年以上の歴史を誇る血統登録、唯一の食肉格付機関による公正な格付け、個体識別番号による徹底したトレーサビリティ制度により、その信頼性が裏付けられている。実際に食することで、明らかな違いを認識してもらえるだろう。
首相訪日で関係深化なるか 日本が継続支援、高架鉄道も協力NNA POWER ASIA 2017年8月16日付
カンボジア
8月6〜9日に日本を訪問したカンボジアのフン・セン首相。安倍晋三首相との首脳会談では、2件の資金協力を取り付けた。首都プノンペンと国際空港を結ぶ高架鉄道敷設への協力で日本の合意も得た。中国寄りの姿勢を示すフン・セン首相だが、約2年ぶりの訪日で日本があらためて存在感を示した格好。両国の関係深化が期待される。
稲田 十一 (いなだ・じゅういち)
専修大学経済学部教授、外務省2017年ODA評価「カンボジア国別評価」評価主任。著書に『紛争後の復興開発を考える』(創成社、14年)、『開発と平和―脆弱国家支援論』(編著、有斐閣、09年)などがある。
1992年の国連カンボジア暫定統治機構(UNTAC)の設立以降、日本はカンボジアの復興開発のために多額の政府開発援助(ODA)を供与してきた。援助供与国としては最大であったが、2009年には中国に最大支援国としての地位を取って代わられたと推測されている。民間投資の分野では、中国は05年ごろより多額の投資をしており圧倒的に大きな投資国である。
他方、中国やベトナムやタイの労働コストの高騰に伴って、日本企業も新たな低賃金の投資先としてカンボジアに着目し投資を増やしてきた。11年時点では日本企業のカンボジアへの投資額は12番目と出遅れていたが、16年時点では累計で中国、韓国に次いで3番目となった。
カンボジアの1人当たり国内総生産(GDP)は15年には1,000米ドル(約11万円)を超え、「下位中所得国」(世界銀行分類)の仲間入りをし、実際、人々の生活は向上してきている。イオンの巨大ショッピングモールには大勢のカンボジア人が押し寄せ、いわゆる「中間層」が増大し消費が拡大してきていることを如実に示している。他方で、13年の選挙での野党(救国党)の躍進に見られるように、長く与党であった人民党およびフンセン政権に対する国民の意識も変容してきている。 中国の存在感が急速に高まる中、日本がカンボジアで果たすべき役割は何なのか。日本が持つ比較優位は何なのか。カンボジアへの支援と関与を継続する以外の選択肢はないとしても、そのアプローチを考え直すべき時期がきているように思われる。
最大の自動車展開幕、24ブランドが展示NNA POWER ASIA 2017年8月11日付
インドネシア
インドネシア自動車製造業者協会(ガイキンド)が主催する同国最大のモーターショー「ガイキンド・インドネシア・インターナショナル・オートショー(GIIAS)2017」が8月10日、開幕した。20日までの11日間にわたり、国内外の自動車メーカー合計24ブランドをはじめ、関連企業などが出展した。今年は、三菱自動車が世界で初披露する小型多目的車(MPV)と、中国・上汽通用五菱汽車(SGMW)の小型MPV「コンフェロ」が注目を集めた。
市村 泰男 (いちむら・やすお)
インドネシア商工会議所(カディン)シニア・ビジネスアドバイザー。1950年、仙台市生まれ。東京農工大学工学部卒業。インドネシア、マレーシアでの駐在を経験後、2005?10年に伊藤忠インドネシア会社社長。05年にはジャカルタ・ジャパン・クラブ(JJC)理事長を務めた。一般社団法人・日本貿易会の常務理事、ジェトロの監事、日本インドネシア協会監事を歴任し、15年12月から現職。
今年で25回目を迎えるオートショーが無事閉幕した。日本勢のみならず欧州勢、中国・韓国勢がインドネシア市場を重視する意気込みを例年以上に感じさせられるイベントであった。市場の伸びはある程度横ばいではあるが、年間100万台を超える規模は自動車メーカーとして無視できない。オートショーで見られたように、各社がインドネシアでの拡販とアジアへの輸出促進を戦略として打ち出してきているのが最近の特徴と言える。
以下の点は今後の動きに注意する必要があるだろう。まず、進出している自動車メーカーが19社(日系12社、その他7社)と非常に多く、これから競争の激化は避けられないということだ。競争力強化のため輸出促進に取り組んでいるが、東南アジア諸国連合(ASEAN)において、インドネシアメーカーの価格競争力はタイと比較してまだかなりの差がある。特に東アジア地域包括的経済連携(RCEP)が将来発効すると、域内メーカーの販売競争はさらに激しくなると予想される。 次に、トラックメーカーを除き、各社とも多目的車(MPV)を主力車種と位置づけている。MPVはインドネシアにおける中間層の家族向け車両としてこれまでも販売を増やす一方、高所得層が増える現在、多様なニーズに対応できる新モデルを素早く投入できるかがシェア拡大の鍵となる。日本車は圧倒的な信頼を得て、アジアでは向かうところ敵なしと言えるが、将来を見据えた販売戦略が必要だろう。MPV競争が激しくなる中、後退するメーカーも出てくるとみられる。