【特別寄稿】
NAFTA再交渉、影響注視
メキシコ
メキシコに進出する日系自動車メーカーにも影響を与えるとして注目されている北米自由貿易協定(NAFTA)の再交渉。米国やカナダ、メキシコによる初会合は8月下旬に閉幕したが、今後も交渉は続く。メキシコ事業環境に精通し、企業の進出支援などを手がける鯨岡繁氏が寄稿した。
メキシコ・グアナフアト州でトヨタが新設する工場近くにある工業団地ではトラックが頻繁に出入りする(NNA撮影)
初会合終了後に3カ国による共同声明が出されたが各論には触れず、「包括的な再交渉のプロセスを加速することで合意」したとしている。今月1~5日にメキシコ市で第2回、今月末にカナダで第3回、10月にも米国で会合が行われる予定。メキシコなどでの報道によると、今回やはり「原産地規則」について厳しい議論が交わされたようだ。会合では米国、カナダ、メキシコの域内で生産された自動車部品をどれだけ完成車で使用すれば関税をゼロとするかを話し合う。
現在、多くの自動車・部品メーカーがメキシコに生産拠点を構え米国に輸出する中、その車両に自国産部品をより多く使用させたい米国は域内の部品調達率の引き上げを求めているのに対し、カナダ、メキシコは反対している。交渉の結果によっては、メキシコに拠点を構える日系企業に影響を与える可能性もあるだけに、日本でも最も注目されているところだ。
交渉の初日、米通商代表部(USTR)のライトハイザー代表は「自動車分野では米国産部品をより多く使用すべき」と発言し、米国としてこの議論にかなりのエネルギーを費やす意思を示している。一方、メキシコ紙は3カ国の自動車業界の意見として、「1994年のNAFTA発効から23年間にわたり築き上げてきたサプライチェーンが崩壊することは避けたい。原産地規則については慎重な議論を希望する」と伝えている。メキシコ政府の考えを反映したものでもあり、交渉は一筋縄ではいかないだろう。
高まるピックアップ人気
原油安を背景に米国ではピックアップトラックの人気が高まっている。メキシコ紙によると、今年1~7月にメキシコから米国に輸出された自動車は前年同期比13.1%増の175万6,390台。このうちピックアップの割合は48.9%で、前年同期の44%から拡大した。
米国はピックアップの大市場で、今年1~7月の販売台数は前年同期比3.6%増の620万2,688台に上る。トヨタ自動車が新設するメキシコ・グアナフアト州の工場で2019年から北米向けカローラを生産する予定だったのを、ピックアップの「タコマ」に変更したのも米国でのピックアップ人気を受けてのものとみられる。
タコマは現在、米テキサス州のサンアントニオ工場とメキシコのバハ・カリフォルニア州ティファナ工場で生産しており、後者は年産台数を10万台から17年末~18年初には16万台に引き上げるという。今後のNAFTAの交渉で原産地規則に変更があった場合、タコマの部品の調達率がどうなるのか、またカローラ生産のためにメキシコに進出した部品メーカーがどうタコマ対応をするのかが注目される。
水面下の交渉も
NAFTAの初回交渉では、発効当時にはさほど重視されていなかった◇国をまたぐ投資◇知的所有権◇環境◇電子商取引――などに関する課題もフォーカスされた。メキシコ紙は協議に参加したメキシコ側メンバーの話として「会議室の中の空気は“協力”が感じられるものだった」と伝える。
一方、英紙は米穀物大手カーギル(環太平洋連携協定=TPP=を推進した米オバマ前政権を支援)が「NAFTAからの離脱は破壊的な影響があり、反NAFTAに警鐘を鳴らした」と紹介する。
どの分野の交渉も簡単ではなく、月に数回程度の会合ではらちが明かない。トランプ米大統領は8月27日、ツイッターで「メキシコ、カナダと(過去最悪の貿易協定である)NAFTAの再交渉の最中だが、大いに困難で、打ち切らなくてはならないかもしれない」や、「メキシコは世界最悪の犯罪国家であり、どうしても壁を建設しなければならない。メキシコはその費用を返済か何らかの方法で支払わなければならない」などと発言。ただ、米議会との関係などを見るに、まずは米国側の意思統一ができるのかとの疑問も出てくる。今後3カ国で水面下の交渉も行われるとみられ、動向を注視する必要があるだろう。
鯨岡繁(くじらおか・しげる)