NNAカンパサール

アジア経済を視る September, 2017, No.32

【特別連載】自動車だけじゃないメキシコ

第3回 カップラーメンの代名詞、
マルちゃん

メキシコ

東洋水産の「マルちゃん」ブランド。日本では「赤いきつねうどん」や「緑のたぬき天そば」、袋麺の「正麺」などが代表的だが、メキシコでは、マルちゃんがカップラーメンの代名詞となっている。同国カップラーメン市場では約90%のシェアを誇る、ロングセラーかつベストセラーの秘密を聞いた。(文 大石秋太郎)

マルちゃんのメキシコでの主力商品「インスタントランチ」=東洋水産本社で(NNA撮影)

マルちゃんのメキシコでの主力商品「インスタントランチ」=東洋水産本社で(NNA撮影)

東洋水産は、海外では米国とメキシコ、中国、インドで事業を展開し、海外事業は連結売上高の約20%を占めている。北米事業は即席麺の製造・販売が主で、即席麺での市場規模が世界5位となる約42億食の米国ではシェアが約70%(物量ベース、2017年3月)を維持。市場規模が世界15位で約8億食のメキシコ(カップラーメン)では約90%(同)と、圧倒的なシェアを保っている。いずれもシェアはゆるやかに拡大傾向にあり、メキシコでは06年の約80%からさらに10ポイントほど伸びている状況だ。

メキシコに流通するマルちゃんのラーメンは全て米国からの輸入品。米国では1972年にカリフォルニア州で現地法人が設立され、77年からカップラーメンを製造、販売している。一方のメキシコで現地法人が設けられたのは2004年と歴史は比較的短いが、なぜこれほどまでマルちゃんが市場を席巻するようになったのだろうか。東洋水産のCSR広報部広報・社会活動課の山本理絵課長によると、1980年代米国に出稼ぎに行ったメキシコ人が、故郷にマルちゃんのカップラーメンを持ち帰ったことがきっかけだという。価格が安く、調理器具を使わず、お湯を入れるだけですぐに食べられるカップラーメンはすぐに広まった。これを知ったメキシコの食品問屋が、トラックで東洋水産の米国の工場に現金を持って買い付けに来たこともあったようだ。現地では、即席麺は食事というよりもスープのカテゴリで扱われている。

メキシコでは1994年に通貨危機(テキーラショック)が発生し、景気が大きく後退したが、その際も現地の代理店は危機を乗り越え、マルちゃんのカップラーメンを販売し続けることができた。現地で事業を拡大できるとのめどがつき、メキシコに進出していたライバルが危機のあおりを受けて市場から撤退していたこともあり、東洋水産は04年に100%出資の子会社を首都メキシコ市に設立、本格的進出を果たした。メキシコ人好みの味の商品を投入するなど販売に本腰を入れ、市場シェアをさらに広げることになった。

メキシコで販売されているカップ麺「ボウル」(左上)とカップ焼きそば(右上)、袋麺(下)(NNA撮影)

メキシコで人気の「エビとハバネロ」味の「インスタントランチ」。右は調理後。エビとニンジン、グリーンピースが入っている。スープは薄味で、それほど辛くはない(NNA撮影)

米国とメキシコでの主力製品はカップラーメンの「インスタントランチ」。ただ、両国では味の嗜好(しこう)が異なり、米国ではチキンやビーフが人気で、メキシコではエビや辛い味が好まれるそうだ。人気の「エビとハバネロ」味などは、全て米国工場でメキシコへの輸出向けとして開発・生産されている。メキシコでは現在、インスタントランチのほかに大きめのカップ麺の「ボウル」、カップ焼きそば、袋ラーメン、スープの素などをマルちゃんブランドで展開している。

「議会がマルちゃんした」

マルちゃんは、メキシコでは「すぐにできる」という意味の言葉としても使われるようにもなった。例えば、国会で審議が早々に打ち切られた時に、現地の新聞は「議会がマルちゃんした」という見出しで記事を出した。2006年のサッカーのワールドカップでは、メキシコ代表の速攻が「Maruchan作戦」と呼ばれたこともあった。すぐにできることを「マルちゃん」で表現するのは単なる流行ではなく、自然に定着しているそうで、動詞としては「マルチャネアール」と言うそうだ。

すっかりとメキシコの市場に浸透したマルちゃん。東洋水産の山本課長は「小さい頃にマルちゃんを食べた消費者が大人になり、刷り込みは完了した。当社にとってメキシコは安定した市場になっていると思う」と現状を話す。

カップ麺と袋麺のどちらが売れるかは、健康志向やライフスタイルなどを要因に市場によって異なるが、メキシコ市場の即席麺の販売比率はカップが95%とほとんどを占める。メキシコのカップラーメン市場はほぼ成熟しており、同社の推定では今後10年で5%ほど伸びるという。世界市場全体で見ると袋麺の方が売れているため、メキシコでも袋麺で市場をさらに広げる余地はあると、東洋水産はにらんでいる。

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