【アジアに行くならこれを読め!】
『シニアひとり旅 バックパッカーのすすめ アジア編』
タイ、ベトナム、カンボジア、中国、台湾、香港……。目次を見て、「20代の頃バックパックを背負って回った国・地域ばかりだ」と感慨を覚える駐在員もいるはずだ。今は代わりにスーツケースを転がして飛び回っているのだろうか。
『何でも見てやろう』(古い!)の小田実や『深夜特急』の沢木耕太郎など、バックパッカーの教科書を物した人物は数あれど、やはり下川裕治を忘れてはいけない。シニア世代に入った今も、その独自のバックパッカースタイルで旅を続けている。
著者によれば、カンボジアは「新たな聖地」になっていくかもしれないという。母国で数カ月働いて得た資金を持ち、物価の安いアジアで1~2年何もせずに過ごす「外こもり」者や、定年後の資金を頼りにロングステイするシニアたちにとっての聖地に。そういう人々はこれまでタイ・バンコクに多かったが、締め付けが厳しくなってカンボジアに流れてくるかもしれないとのこと。四半世紀ほど前、カンボジアを訪れるバックパッカーは、それこそ「何でも見てやろう」というエネルギーを持つ者が多かったが、時代とともに変化していくものなのだろう。
バックパックはもう何年押し入れの中に眠っているだろうか。そのかつての相棒を思いながら本書を読むと、各国・地域での思い出が鮮明によみがえってくる。
『シニアひとり旅 バックパッカーのすすめ アジア編』
下川裕治 平凡社
2017年7月発行 800円+税
旅というものは、年齢によってその色合いが変わるものだ(本書より)
目次 のぞき見- ・中国――戦跡、面影、寝台列車
- ・台湾――遠い「日本」といまを知る
- ・ベトナム――庶民料理と反戦ソング
- ・ラオス――静けさが恋しくなったら
- ・シニア世代に必要な旅のノウハウ
下川裕治(しもかわ・ゆうじ)
1954年長野県生まれ。アジアを中心に歩き、90年のデビュー作『12万円で世界を歩く』で一躍世に知られる存在に。『日本を降りる若者たち』(2007年)、『週末アジアでちょっと幸せ』(12年)など著書多数。
『六市と安子の“小児園” 日米中で孤児を救った父と娘』
主人公の一人、楠本安子は1940年、中国・上海から鉄道で1時間余りの所にある崑山で“小児園”(孤児院とは呼ばない)を開設した。当初は「子どもを集めて売り飛ばそうとしている」とみられ、子どもたちは来なかった。やがて一人、二人と入園するようになり、それまで心を開いてこなかった子がある日、ついに「お母さん」と彼女を呼ぶ。
外国人である彼女が、しかも、当時の中国において日本人が地元の孤児たちを育てることができたのは、宗教者としての信念に支えられていたからかもしれない。だが、そうだとしても簡単にはまねできない崇高な行為であることに変わりはない。もともと涙腺が緩いこともあるが、崑山小児園で育った中国人たちが1985年に楠本安子と再会、言葉では言い尽くせない感謝の気持ちを伝える場面は涙なしには読めない。
副題の通り、戦前、戦中の日本、米国、中国で孤児を救った父娘の物語を著者は丹念に取材した。排他的な主張が幅を利かそうとする昨今、国籍に関係なくすべての者に愛を注ぐことの大切さを知ることができるし、また、その行為が時代や環境によりいかに困難を伴うかということも読み取れる力作だ。
『六市と安子の“小児園” 日米中で孤児を救った父と娘』
大倉直 現代書館
2017年6月発行 1,800円+税
「お母さん、ぼくをおぼえていますか」(本書より)
目次 のぞき見- ・アメリカへ渡った日本人移民
- ・六市が開設した南加小児園
- ・中国崑山での安子
- ・日米開戦による終幕
- ・再会
大倉直(おおくら・ちょく)
1966年生まれ。ノンフィクション作家。世にあまり知られていない人物を取り上げる。著書に思想家・野本三吉の本格評伝『命の旅人』(2014年)、近代日本の工業者群像を描く『奇蹟の学校』(12年)、メキシコの安宿に集まる日本人旅行者の夢と挫折をつづる『メキシコホテル』(1996年)など。