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NNAが日々伝えるアジアのニュース。読者の関心が高かったトピックについて識者が解説・分析した。
ローソン、アリペイで日中共同販促を展開NNA POWER ASIA 2017年6月26日付
中国
ローソンは、中国のバ蟻金融服務集団(バ=むしへんに馬)が運営する電子決済サービス「支付宝(アリペイ)」を通じ、日本と中国にあるローソンの店舗で相互送客を図る内容の販促キャンペーンを実施すると発表した。ローソンが国内外の店舗を対象に同様のキャンペーンを行うのは初めて。
中国人観光客の訪日が年間で最も多く見込まれる夏休みシーズンに合わせて展開する。7月11日以降、アリペイのアプリ内の「奨励金」という機能を活用し、日曜日から木曜日にかけて日本または中国のローソンでアリペイで決済した客に、購入金額に応じた一定比率のボーナスポイントを還元する。客は貯めたポイントを同じ週の金曜日と土曜日に、日本または中国のローソンで現金のように使うことができる。
また、日本や中国のローソンでアリペイを使って決済した客に、双方の店舗で利用できるクーポンも配る。
山谷剛史 やまや・たけし
フリーランスライター。元NNA記者。中国などアジアを中心とした海外IT事情に強い。著作は「中国のインターネット史ワールドワイドウェブからの独立」(星海社新書)や、「新しい中国人〜ネットで団結する若者たち」(ソフトバンク新書)など多数。また連載も多数抱える。
中国ではQRコードを活用した電子決済の普及が進んでいる。その主役は阿里巴巴(アリババ)系の「支付宝」と、騰訊(テンセント)の「微信支付」だ。スマートフォン内蔵のカメラでQRコードを読み取るだけで電子マネーの受け渡しができるため、必ずしも専用機器を導入する必要はないのが特徴で、大都市では個人商店はおろか、青空市場の野菜売りも対応している。
4月にはバ蟻金融と国際連合環境計画(UNEP)が理事となり、電子決済によるキャッシュレス化を目指した「無現金聯盟」が設立されるなど、両社はキャッシュレス社会に向けた取り組みを進めている。中国は無現金社会が進むことだろう。
そもそもの支付宝と微信支付が普及した背景には、「これまで電子決済が交通以外に普及していなかったこと」と「支払いや金の受け渡しが便利で、お得なキャンペーンもあること」が挙げられる。中国ではお得であると新サービスを使う人が多い。今回のローソンのキャンペーンでも、これまでのネット利用習慣からローソンを意識しながら移動する観光客が増えそうだ。
今後、日本の販売店が中国のインバウンド特需を期待するなら、店側の支払いが単に支付宝や微信支付に対応するだけでなく、それらを通じてお得感のあるキャンペーンを打ち出す必要がある。
輸出受注額、6月は過去最高にNNA POWER ASIA 2017年7月21日付
台湾
台湾経済部(経産省)統計処が7月20日に発表した6月の輸出受注額は403億5,000万米ドル(約4兆5,200億円)で、同月としての過去最高を更新した。前年同月比では13.0%増え、2016年8月以来11カ月連続でプラス成長を記録した。モバイル端末などの「情報通信製品」や半導体などの「電子製品」が需要増でいずれも前年同月比2桁増となり、全体を押し上げた。1〜6月の累計受注額は前年同期比11.2%増の2,236億3,000万米ドルで、同期の過去最高を更新した。
伊藤 信悟 いとう・しんご
みずほ総合研究所 アジア調査部 中国室長兼主席研究員。1993年富士総合研究所(現みずほ総合研究所)入社。2001〜03年に台湾経済研究院副研究員を兼務(台北駐在)し、中国・台湾・香港経済の調査・研究に従事。執筆論文に「蔡英文政権の発足と経済政策の行方」(『ジェトロ中国経済』16年4月号)など。
記事の通り、足元の台湾の輸出受注状況は良好だが、今年下期以降の輸出受注を占う上では、米アップルのスマートフォン「iPhone(アイフォーン)」の新機種の売れ行きが大きなカギを握るだろう。今年はiPhone発売から10周年である。そのため、新型iPhoneには、有機ELディスプレー、ワイヤレス充電、顔認証技術など新たな機能が多く搭載され、それが呼び水となりiPhoneの買い替え需要が盛り上がるのではないかと期待されている。
また、中国系スマホメーカーなどがそれに追随して類似機能を搭載した新製品を売り出し、スマホ市場がさらに活況を呈するのではないかとの声も聞かれる。そうなれば、新型iPhone用の部材のサプライヤーになると見込まれる、ファウンドリー(半導体の受託製造)世界最大手のTMSC(台湾積体電路製造)、光学デバイス大手のラーガン(大立光電)などを中心に、台湾の輸出受注には大きなプラスだ。
ただし、製造難度が高い有機ELパネルの供給の遅れなど、供給側の要因が新型iPhone等の売れ行きに響くのではないかとの懸念もある。米国経済、中国の在庫調整の行方も台湾の輸出にとって気になるところではあるが、短期的には世界的なスマホ市場の動向を注視したい。
南部ダウェーでデモ、停電対策と値下げ要求NNA POWER ASIA 2017年7月14日付
ミャンマー
ミャンマー南部タニンダーリ管区のダウェーの住民250人超が7月12日夜、管区政府に対する抗議デモを行い、頻発する停電への対策と電気料金値下げを求めた。ミャンマー・タイムズ(電子版)などが伝えた。
管区はナショナルグリッド(全国送電網)に接続されておらず、電気料金が割高な地域。ダウェーでは7月1日から、グローバル・グランド・サービシズ(GGS)のガス火力発電所で発電した電力を、ダウェー・デベロップメント(DDPC)が配電。電気料金は以前の1ユニット(キロワット=kW時)当たり300チャット(約25円)から210チャットに引き下げた。だがデモに参加した住民は「ほかの州や管区と比べ、まだ6倍以上高い。停電も頻発している。管区政府は電力問題を解決できない」と不満を示した。
水谷 俊博 みずたに・としひろ
日本貿易振興機構(ジェトロ)海外調査部アジア大洋州課勤務、ミャンマー、アセアン担当。2000年に東京外国語大学外国語学部ビルマ語専攻卒業。同年にブラザー工業株式会社に入社し、海外営業や管理会計、財務会計等を担当。06年にジェトロ入構。鹿児島事務所やヤンゴン事務所(ミャンマー日本商工会議所・事務局長兼務)の勤務を経て14年6月から現職。
タニンダーリ管区の人口は140万人と7管区の中では最も少なく、産業も水産業や農業などに限られ、もともと電力需要が高くない地域といえる。こうした背景からインフラの整備が遅れており、電気料金が割高になってきた原因の一つと考えられる。ただし、引き下げ後の1ユニット210チャットという電気料金は、アジアの他地域と比較するとむしろ割安だ。ジェトロのまとめによると、最大都市ヤンゴンの一般用電気料金(月額)は1キロワット時あたり0.03~0.04米ドル。ミャンマーと経済水準が近いカンボジアのプノンペンはヤンゴンの5倍程高いことから、ヤンゴンは停電が多いものの、電気料金は相対的に安いといえる。
デモは、日々の生活向上を求める国民の期待の現れとみることができる。49年間続いた国軍による統治が終わり、テインセイン前大統領の時代に国民生活は「ベター」になったが、16年に国民民主連盟(NLD)に政権が交代すると、国民は「ベスト」の生活を求めるようになった。ただ、インフラは急には改善しないため、国民の間で徐々にフラストレーションが高まっているのだろう。NLDへの期待にインフラ整備が追いついてない。少しずつNLD政権への不満が表に出てきているのだと感じた。
このように国民が自分たちの意思を抗議デモなどで示す場ができたこと自体は、ミャンマーの進歩と捉えることもできる。ただし、民政移管を果たしてからまだ6年目であり、政治が国民の期待に追いついていないことも多い。大型のインフラ投資に対してはアウン・サン・スー・チー国家顧問も慎重な姿勢を示していることもあり、特に電力は今後も改善に時間がかかる分野だろう。
米国とのFTA締結に期待、通商関係を協議NNA POWER ASIA 2017年7月19日付
フィリピン
フィリピンのロドルフォ貿易産業次官は、政府が米国との自由貿易協定(FTA)締結を検討していることを明らかにした。両国政府は先ごろ接触し、将来の通商関係の方向性について協議。フィリピン側はこれがFTA締結につながると期待している。地元紙インクワイラーなどが伝えた。
ロドルフォ次官によると、米国が環太平洋連携協定(TPP)から離脱したことを受け、2国間の貿易協定を結ぶことで米市場へのアクセス拡大を図る方針だ。
フィリピン政府は貿易自由化に向け、課題を整理する作業を実施。その結果に基づき、米国とのFTA交渉を進める方針だ。ロドルフォ次官は医療分野の知的財産権、外国企業の出資制限など4項目で米国との溝が埋まっておらず、同問題の解決がFTA締結に不可欠との見解を示した。
菊池 しのぶ きくち・しのぶ
みずほ総合研究所 アジア調査部。インドネシア、フィリピン、オーストラリアなどの経済調査を担当。2006年に東京大学公共政策大学院修了。同年、みずほ総合研究所入社。社会・公共アドバイザリー部、在米日本大使館勤務を経て、11年から現職。
フィリピンのドゥテルテ政権は2016年6月末の発足当初より、TPPを含む自由貿易協定に積極的な姿勢をみせてきた。こうした流れの中で、米国とフィリピンの2国間FTAに対するフィリピン側の積極姿勢が打ち出されている。ただし現段階では、その可能性や方向性について主に内部で検討している段階であり、実際のFTAの締結・発行に至るにはまだ時間がかかるだろう。
仮にFTAが締結された場合、フィリピンにとってのメリットは大きい。フィリピンにとって米国は第3の財の輸出相手国であり、フィリピンの主力産業であるコールセンターなどのBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)関連のサービス輸出の主要な相手先でもある。また、フィリピンにおけるストックベースの外国直接投資(FDI)のうち、米国からの投資は約3割にのぼる。記事でも言及されているとおり、これまで外資参入のハードルを高めてきた規制が緩和されれば、フィリピンのビジネス環境も飛躍的に向上し、さらなる投資の拡大につながる可能性がある。
7月24日に実施された施政方針演説で、ドゥテルテ大統領は米国のオバマ前大統領を揶揄(やゆ)したり、1世紀前の米軍による虐殺事件を持ち出したりした。オバマ政権時と比べると今の2国間関係は良好に見えるが、これが再び冷え込めば、FTAの進展にも影響しうることから、両国間の関係性には今後も注目していきたい。