NNAカンパサール

アジア経済を視る July, 2017, No.30

メキシコ進出、具体的ステップは?

メキシコに進出するには実際にどんなステップを踏めばいいのか分からない─。進出を検討する企業はそう考えることもあるだろう。2014年からグアナフアト州で日系唯一のレンタル工場を運営し、会計税務や人材紹介、顧客マッチングなどのサービスも行う事業革新パートナーズ(BIPC)メキシコグループの石崎奈保子氏に聞いた。

BIPC運営のレンタル工場=グアナフアト州シラオ市

BIPC運営のレンタル工場=グアナフアト州シラオ市

事業革新パートナーズ(BIPC)メキシコグループの石崎奈保子氏

──進出のための事前調査は具体的にどうするのか

視察ツアーに参加し自分で現地を確かめるのも手です。メキシコ現地では完成車やティア1(一次下請け)メーカーはもちろん、熱処理など裾野分野の企業も視察するなどの幅広い企業を訪問するツアーが適しています。さらに日系だけでなく、欧米企業の現場も見ることを薦めます。これまでのツアー参加企業から「顧客となるのは日米欧韓の企業との認識を持てた」「日系は効率を求め、欧米企業はデザインなどを重視する。日本人と異なる視点でモノ作りをしていることが分かった」などの反応がありました。

──事前調査から現地法人設立まで時間はどれぐらい必要か

各都市の主な費用

中部地方のある金型メーカーの場合、まず視察ツアーに2回参加しました。ツアー後の6カ月間、メキシコ進出計画について意見交換し、それから約2カ月かけて契約に向けた準備を進めました。この企業の生産設備を扱う商社とともに◇設備仕様の調整◇レンタル工場のレイアウト調整◇ビザ取得をはじめとする駐在予定者向けサービスの具体化──などを行いました。そして工場レンタルなど進出のための契約を締結。現地法人設立に3カ月、検討開始から法人設立まで合計で約15カ月を必要としました。

──契約後のサポートは

日本からの視察団はグアナフアト州で素形材関連企業を視察した(BIPC提供)

例えば工場への通電。メキシコ電力公社(CFE)が発送電を行っていますが、国営独占企業ということもあり、仕事の効率はあまり高くありません。通電は申請書を提出してから約半年かかることもあります。でも現地の独自ネットワークを使い、期間を3分の2ほどに短縮することができます。

その他、現地施工業者と調整して工場の内装工事、機械設備輸送のための通関士登録なども行います。また、メキシコや日本で通訳者の候補を紹介、斡旋しています。これらを契約後12カ月以内に行い、操業後も欧米系メーカーの新規営業に同行するなどの支援を続けています。

熱処理大手、スイス・エリコンバルザースのグアナフアト州拠点を見学した日本からの視察団(BIPC提供)

──現地で必要とされているティア2(二次下請け)、ティア3(三次下請け)は中小企業が多く、工場は大きくなくてもいい

事業開始に必要な最小800平方メートルからレンタルできる工場があります。1平方メートル当たりの賃貸料は4米ドル(約442円)台からです。最小スペースから始め、軌道に乗った後に拡張できるレイアウトにしています。

──メキシコ進出の注意点は

シェルターサービス

メキシコ特有の制度として「労働者利益分配金(PTU)」があります。PTU制度の下では、会社は単年度課税所得における税引き前利益の10%を従業員に分配しなければなりません。会社にとっては結構インパクトがあるので、人材派遣制度も活用されています。

最近は進出企業が増え、現地人マネジャーや技術者の獲得競争により人件費が上昇しており、より付加価値の高い製品の製造・販売が必要な環境になっています。メキシコでは、会社設立や経理、法務、人材採用、組合対応などのバックヤード業務を請け負う「シェルターサービス」があります。これを活用すれば企業は製造・販売のコア業務に集中できるようになります。

進出の事前調査を行っても分からないことはあります。その状態で思い切って進出し、競合が少ない中で業績が好調な企業もありますが、受注の状態が芳しくない例もあります。営業で走り回って新規顧客を開拓したものの、マンパワーが足りず対応できていないこともあります。さまざまなケースがあることを知っておいた方がよいでしょう。

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