現地の声
人材育成に悩む
メキシコ日本商工会議所バヒオ支局の藤山仁子支局長によると、NAFTAをめぐる問題を除き、現地の日系企業の間で最も関心の高いのは、人材に関する課題だ。バヒオ地域はもともと農業や伝統的な皮革産業が栄えた地域で、日系メーカーが集積しだしてからわずか数年しかたっていない。離職率・無断欠勤率の高さや他社との人材獲得競争など進出企業が苦労することは多い。
樹脂成形品メーカー、タイガースポリマーの現地法人で前述のタイガーポリーの村田氏によると、人材の募集をかければ常に応募はあるが、新人の定着率の低さや無断欠勤率の高さに頭を痛めてきたそうだ。現在は作業場内にラインや部署別の欠勤状況をまとめたデータを張り出したり、遅刻や欠勤が昇級にどれだけ影響するかを具体的に伝えたりするなど、就労意識を高めるための啓蒙活動を行っている。休憩時間になると欠勤状況が張り出されたホワイトボードにワーカー数人が集まっていることもあり、村田氏は「一定の効果は出ているようだ」と手応えを感じている。
また、「日頃からコミュニケーションを取り、給与水準や福利厚生を平均水準以上にするなど、ワーカーが働きやすさを実感できるように心掛けている」(村田氏)
「社員との信頼感を築くためには日本人の働きぶりを現地社員に見せることが大切」と話すのは、金型メーカー、エムエス製作所の現地法人で前述のメキシコMSモールドの新井氏だ。新井氏は現地法人の代表だが技術者でもあり、自らも機械を操作する。また、会社での働きがいを持ってもらうため、成果に応じた昇給や習得した技術に応じた手当などで社員の給料アップの要求をかなえていく方針だ。社員との関係は良好で、「まるで家族」(新井氏)のような雰囲気で仕事をしているという。
治安は大丈夫?
メキシコの麻薬マフィアがらみの事件は日本でも報じられることがある。このため、メキシコの治安状況に不安になる日本人も多いようだ。
日本企業が多いグアナフアト州やケレタロ州などはマフィアの抗争や凶悪犯罪は比較的少なく、外務省から渡航や滞在に関する注意や勧告は出されていない。注意したいのは、買い物や食事の最中に止めていた自動車の内部を荒らされてカバンなどを盗まれるなどといった被害や、現金自動預払機(ATM)を使用する際に暗証番号が盗撮されたりスキミングされたりする被害が起きていることだ。
自動車を離れる場合は短時間でも荷物を置きっ放しにしないことや、ATMを使用する際に不審な点がないかを確認するなど、日本にいるときよりも防犯意識を高めておく必要がある。特に日本人だから狙われるということはないそうだが、派手な格好をするのも控えた方がよいだろう。