NNAカンパサール

アジア経済を視る July, 2017, No.30

メキシコ事業 ホントのところ

メキシコに関して芳しくない情報が多く伝えられる中、現地で事業を行っている企業の実際の状況はどうなっているのか。取材した企業は一様に「(米国の通商政策による)影響はない」と話す。今後を見据えて生産能力を拡張するところも。5社の事例を紹介する。

01 ヨロズ、工場を2倍に拡張

〜メキシコの成長性に自信

YAGMの3,500トントランスファープレス機と菅原社長

YAGMの3,500トントランスファープレス機と菅原社長

メキシコはこれからも長期的に伸びていく――。自動車部品大手ヨロズ(横浜市港北区)の現地法人ヨロズオートモーティブグアナファト デ メヒコ(YAGM、2012年設立、グアナフアト州)の菅原義信社長の言葉には、メキシコ市場の成長性に対する自信が満ちている。年初には生産設備を増強するとともに、工場面積を約2万平方メートルから4万4,000平方メートルへと拡張した。来年1月にはメキシコ第1拠点のヨロズメヒカーナ(YMEX、1993年設立、アグアスカリエンテス州)も生産設備を増やす計画だ。

菅原社長は「われわれはメキシコで20年以上生産を続けてきた。今は米国の通商政策のためにメキシコ市場がどうなるか注目されているが、94〜95年の通貨危機などさまざまな問題を乗り越えて来て今がある。メキシコ経済とともに成長してきたし、これからもそう。だから生産能力を拡張している」と力を込める。

最大規模の設備

拡張したYAGMの工場スペース。大幅な増産が可能だ

YAGMはトランスファープレス機(500トン、1,500トン、3,500トン)、ブランキングプレス機(800トン、1,200トン)、タンデムプレス機、溶接設備、電着塗装設備など多数の設備を有する。3,500トンのトランスファープレス機は中南米地区の自動車産業界では最大規模で、1月から稼働させた。米国と中国工場のものを合わせ、ヨロズも3台しか保有していないという。同じ時期に1,200トンのブランキングプレス機も新たに稼働させている。

菅原社長はYMEX設立初期にも駐在経験がある。当時は周囲には何もなく、日産自動車の工場があるだけだった。それが今では完成車やティア1(一次下請け)メーカーなどが集積し「相乗効果が出るようになってきた」と話す。現在は日産のほかホンダ、トヨタ自動車、独フォルクスワーゲン、マツダ、米フォード・モーターなどにサスペンションやリアビーム、ペダル類、ボディー部品、エンジン部品、フレーム部品などを供給する。「顧客が多いことがメキシコの強み」だ。供給先としては米国、メキシコ国内、欧州、南米、日本がそれぞれバランスよく占められて偏っていない。

いま進出してほしいのはボルトやナットなどバルク部品のメーカー。自社で作ることができないこれらの部品はファスナー取扱企業を通じて米国やアジアから調達しているが、「メーカーが来ると助かる」という。また、米国の通商政策で懸念が広がっているにもかかわらず、進出の検討材料とするための視察で訪れる中小の企業はコンスタントにあり、一定数の企業がすでに進出を決めているようだ。

工場で拡張した部分にまだ設備は搬入されていないが、2019年に生産を始めるともいわれるトヨタの新工場(グアナフアト州、小型車カローラを年間20万台生産)向けの大きなスペースも確保されている。これからも生産のアクセルを踏み込んでいく。


02 シナノケンシ、精密モーター増産へ

〜顧客と連携、「事業計画に変更なし」

作業するシナノケンシ・メキシコのワーカー

作業するシナノケンシ・メキシコのワーカー

「ええ、トランプ米大統領が保護主義的な通商政策を示す前も後も、事業環境に変化はないですね」。車載用精密モーター製造大手、シナノケンシ(長野県上田市)の現地法人シナノケンシ・メキシコ(グアナフアト州)の平井俊一ゼネラルマネジャー(GM)はそう説明した。成り行きは注意深く見守るが、顧客とも連携し事業計画を大きく変更することはないとの認識で一致しているという。

生産の現場で動揺はなく、むしろ「メキシコ政府が対抗のために強硬措置を採って米国との関係が悪くなったら困る」と話す従業員が多い。家族や親類が米国にいる人もおり、関係悪化で行き来しにくくなるのはまずいと考えているという。

メキシコ工場は2015年に完成し、現在、月間約12万個の精密モーターを生産している。ライン投資計画は予定通り進め、来年には月産15万〜16万個に引き上げる。

メキシコに進出したのは顧客である米自動車部品メーカーの要望を受けてのことだった。顧客と同じエリアで生産し供給する「地産地消」。このメーカー専用に製品を作る工場との位置付けだ。米フォード・モーターはトランプ米大統領の圧力を受けてメキシコ工場新設を撤回したとも言われるが、シナノケンシ・メキシコの顧客である米自動車部品メーカーの需要は旺盛で、同社は生産能力を拡張するほどだ。

進出の時期

「ティア2(二次下請け)やティア3(三次下請け)の企業にとっては進出しやすい時期ではないでしょうか。何といっても足りていないですから」。いま中央高原(バヒオ地域)で必要とされるメーカーについて、平井GMはそう答える。切削加工や金属加工、プラスチック成形などのメーカーはすでにある程度進出している。もちろんそれらも多いに越したことはないが、モーターメーカーの同社としてはプリント基板メーカー、電子部品をマウントする企業、電子部品商社などの進出を望んでいる。

シナノケンシ・メキシコの平井GM

シナノケンシは日本と、中国の広東省東莞市と安徽省合肥市にも工場を持つが、メキシコは中国と比較してティア2、ティア3メーカーが少ない。現地調達率は3割程度で、他は中国からコンテナを毎月数本送り賄っている。結論が出るのはまだ先だが、すでに日本で取引があるティア2メーカーとメキシコ進出について話し合いを始めた。

平井GMが「今は既存の米顧客向けの供給を中心に考えています。ただ、次のステップとして、メキシコ国内から米国に輸出しているメーカーもターゲットとしていきたいですね」と話すように、今後も米国向け生産をメインに据えていく。

出版物

各種ログイン