NNAカンパサール

アジア経済を視る May, 2017, No.29

【特別連載】

自動車だけじゃないメキシコ
第1回 広がる巨大市場を見よ

メキシコ

日本からはるか太平洋の向こう、米国に国境を接するメキシコ。進出する日系企業は1,100社以上に上り、その多くを自動車関連が占める。日本の企業にとって「メキシコ=自動車産業の集積地」と言っても過言ではないだろう。ただ、メキシコからは「自動車以外にもチャンスがあることを知られていないのは残念だ」との声も聞こえる。連載を通じて、非自動車産業にとってのメキシコの可能性を探る。
(文・写真=大石秋太郎)

メキシコ中央高原(バヒオ地域)で日本に関連するものといえば自動車。グアナフアト州の空港を出ると、日産の販売代理店による日本語の看板が現れる

メキシコ中央高原(バヒオ地域)で日本に関連するものといえば自動車。グアナフアト州の空港を出ると、日産の販売代理店による日本語の看板が現れる

「メキシコに工場を作るなど、ありえない!」――。今年2月に米国大統領に就任したトランプ氏の一連の発言で、日本でのメキシコへの注目度は一気に高まった。メキシコには、安い人件費で組み立てた自動車を北米自由貿易協定(NAFTA)で米国にゼロ関税で輸出できるメリットがあることから、日本からも主要な自動車メーカーや多くのサプライヤーが進出しているためだ。

メキシコに進出する日系企業の数は円高傾向が続いた2011年以降に急増。14年にはマツダとホンダの完成車メーカー2社がそろって新工場を稼働させた。メキシコ政府の投資促進機関プロメヒコによると、同国に進出する日系企業の数は09年の約400社からこれまでに2倍以上に増え、その約8割は部品などの自動車関連メーカーが占めている。特に、米国へのアクセスが便利でもともと欧米系の自動車メーカーが工場を設けていた中央高原(バヒオ地域)に投資が集中している。

「3年ほど前までは、『なぜメキシコで自動車を作るの?』という質問が多かったが、今ではバヒオ地域への自動車関連メーカーの進出は当たり前になった」――。こう話すのは、バヒオ地域の中で日系企業約90社が進出するグアナフアト州の経済開発省日本代表を務めるロドルフォ・ゴンザレス氏。当時はグアナフアトという地名すらほとんどの日本人になじみがなかったが、今では企業がメキシコのバヒオ地域に拠点を構えることは自動車業界の「常識」の戦略となったのだ。

しかしゴンザレス氏は「メキシコには自動車産業以外にも大きなチャンスがあるということは日本で知られていない。これは日本の企業にとって非常に残念なことだ」と指摘する。確かに、貧富の格差が大きいと言われるものの、1人当たり国内総生産(GDP)は中間層が増えていくとされる1万米ドルに近い。人口も日本とほぼ同規模で1億人を上回る。内需向けに日本の商品やサービスが受けるということだろうか。

グアナフアト州経済開発省の日本代表を務めるゴンザレス氏。「グアナフアトは経済の発展とともにさまざまな商品やサービスの需要が拡大している」と、幅広い分野からの投資を呼びかける

「とても受けると思う。町にはどんどん日本食のレストランが増えている。ただ、もっと大きなスケールで考えてほしい」とゴンザレス氏は話す。

46カ国とFTA

自由貿易協定(FTA)を通じ、メキシコで生産した製品を米国など周辺国に輸出するビジネスモデルは自動車に限ったことではない。メキシコは日本を含めた世界46カ国とFTAを交わしている。ゴンザレス氏は「メキシコへの投資を考える際には、その先にさらに大きな市場が広がっているという感覚を持ってほしい」と呼びかける。

グアナフアト州に拠点を置く非自動車関連以外の外国メーカーによる最近の投資の例を挙げると、米プロクター・アンド・ギャンブル(P&G)がひげそりブランド「ジレット」の工場を建設し、米州のほか、一部欧州やアジアへの製品の供給拠点としている。「ニベア」などのスキンケア製品を手掛ける独バイヤスドルフは北米・中米向けの工場と研究開発センターを建設した。

自動車関連メーカーの進出が相次ぐ以前、日本からは主要な電機大手が米国との国境付近に工場を設けた。だが世界的な競争の激化やそれに伴う採算の悪化を受け、テレビなどの工場を売却した経緯もある。ただ、それでも日本の高品質を強みとした商品やサービスをメキシコから展開する可能性を今後も探っていくべきだろう。

自動車関連以外の視点からメキシコを見る当連載の第2回はNNAカンパサール8月号(WEBマガジン版、8月1日発行予定)で掲載予定。個別の日系企業の動きを報告する。

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