NNAカンパサール

アジア経済を視る June, 2017, No.29

このトピック、こう読みます

NNAが日々伝えるアジアのニュース。読者の関心が高かったトピックについて、有識者が解説・分析した。

ASEAN発展へ中国の影 世界経済フォーラム、地域会合開幕NNA POWER ASIA 2017年5月12日付

ASEAN・中国

世界経済フォーラム(WEF)の東南アジア諸国連合(ASEAN)会合が5月11日、カンボジアの首都プノンペンで本格的に始まった。世界の国内総生産(GDP)の約3割を占めるASEAN地域国は、若年層の活用や産業の高度化、域内統合を進めていくことを確認した。会場では、中国が主導するアジアインフラ投資銀行(AIIB)が複数のセッションを開き、今後の域内発展に影響力を高めようとする姿勢が目立った。

ASEANは発足から50年の節目を迎え、WEF地域会合は26回目。カンボジアでの開催は今回が初めてで、政府関係者やビジネス業界の関係者が約700人出席している。10〜12日の日程で、15年に発足したASEAN経済共同体(AEC)の統合・連結性の強化やデジタル経済に関する討論会を開いている。

佐野淳也 さの・じゅんや

日本総合研究所 調査部 主任研究員。1996年さくら総合研究所(現日本総合研究所)入社。現在まで主として中国の経済調査・研究に従事。執筆論文に「一帯一路の進展で変わる中国と沿線諸国との経済関係」(『JRIレビュー』Vol.4, No.43、2017年)などがある。

佐野 淳也 氏

中国にとって一帯一路(現代版シルクロード経済圏構想)は、自国の政治的プレゼンスを高めるのみならず、成長持続や産業高度化、企業の競争力強化といった経済的な要因からも最優先で取り組むべき構想である。同構想でASEANは中国の貿易、対外直接投資のいずれにおいても欠かせないパートナーであることから、重点地域の一つと位置付けられる。

一方、ASEAN各国も、インフラ整備による発展を加速させるため、中国からの経済協力を積極的に受け入れようとしている。いずれの動きも一過性のものではなく、中期的なトレンドとして続くであろう。

中国の経済的な影響力がASEANで強まる中、日本の政府および企業の対応策の鍵となるのは、同地で長年にわたって培われてきた日本への信頼感や親近感、現地のニーズに合致した経済・社会開発の技術とノウハウである。中国のASEANへの本格的な経済進出は2000年代以降と日本に比べて遅い上、地元の雇用創出に十分貢献していないなどの批判は根強い。採算度外視の受注活動も事業継続のリスク要因である。

日本としては、経済支援の規模やコストで中国に対抗するよりも、ASEANで優位性のあるソフトインフラやコンテンツ産業などを強化すべきである。その上で、活発化する中国の対ASEAN案件での連携も模索すべきであろう。


循環型社会の形成目指す 5カ年計画、廃棄物再利用7割へNNA POWER ASIA 2017年5月10日付

中国

中国国家発展改革委員会(発改委)などはこのほど、第13次5カ年計画(2016〜20年)期間中に、工業廃棄物や資源の再利用を拡大して循環型社会の形成を目指していく行動計画を発表した。計画では、工業固形廃棄物の再利用率を20年に73%まで引き上げるといった数値目標を設定。全国各地の産業園区で、資源循環に向けた改造作業を進めることも盛り込んだ。

行動計画を通じて低エネルギー消費、汚染物質の低排出、循環型社会の形成を目指す。

数値目標としては、主要廃棄物の再利用率を15年の47.6%から20年に54.6%へと引き上げるとした。一般工業固形廃棄物の再利用率は15年の65%から8ポイント上昇させる。

北川秀樹 きたがわ・ひでき

龍谷大学政策学部教授。環境法政策、環境学が専門。1979年京都府庁入庁、97年に環境行政を担当、地球温暖化防止京都会議(COP3)開催を側面支援し、「環境」をライフワークと位置付ける。2002年府庁退職、05年龍谷大法学部教授、11年に現職、16年社会科学研究所長。04年に「中国における戦略的環境アセスメント制度」で第1回太田勝洪中国学術研究賞を受賞。

北川 秀樹 氏

中国廃棄物・リサイクルの政策とビジネス

習近平政権は発足以来「生態文明」建設のスローガンを掲げ、環境保護重視の姿勢を鮮明にしている。第13次5カ年計画要綱では、循環経済の発展強化を掲げた。また、15年から施行された改正環境保護法では、クリーン生産と資源の循環利用の促進のほか、企業は優先的にクリーンエネルギーを使用し、資源利用率が高く汚染物排出量が少ない設備や技術を利用する義務を規定している。

このような中で先月公表された発展改革委員会の「循環発展牽引行動」はこの延長線上のものとして歓迎できる。特徴として以下の点が挙げられるであろう。

(1)経済発展を主導する発展改革委員会中心であるが、廃棄物・リサイクル所管部門と共同の姿勢を打ち出した。縦割り解消を志向し、政府挙げて本格的に取り組み始めたとの印象を受ける。

(2)13次5カ年計画期における国の循環発展の指標と目標値を明示している。特に、再生資源のオンライン取引額が5,000億元(約8兆円)を超えることや、101の循環型経済モデル市・県を建設することなど、経済成長も意識している。

(3)拡大生産者責任、環境マーク、グリーン融資などの政策、静脈産業モデル基地の建設の提唱など先進的な取り組みを掲げている。

(4)従来の法政策は工業部門主体であったが、グリーン消費や生活ごみに関する内容も含み、産業界、住民全体を総動員して真剣に循環型経済に取り組む姿勢を鮮明にしている。

従来、中国では経済発展にウエートが置かれ、廃棄物処理については埋立地の不足、焼却場立地に対するニンビー(NIMBY)現象(ごみ処理施設などの必要性は認めるが自分の近くでの建設には反対する)、不適切な処理による土壌・地下水汚染など多くの問題が指摘されてきた。しかし、近年、欧州からの技術導入による廃棄物・リサイクル分野における施設整備も進みつつある。この分野での日本企業の協力の余地は大きいといえる。


ヤンゴンで宗教対立に警戒 過激派仏僧、イスラム排斥の動きNNA POWER ASIA 2017年5月15日付

ミャンマー

ミャンマーの最大都市ヤンゴンで、過激派仏教徒グループによるイスラム教徒に対する排斥行為が相次ぎ、宗教対立が広がる兆しが出ている。当局は過激派の一部を逮捕、警戒感を強めている。アウン・サン・スー・チー国家顧問兼外相率いる現政権は、多数派を占める仏教徒の支持に配慮しつつも、過激な言動を抑えようとしている。

ヤンゴン中心部に近いミンガラ・タウンニュン郡区で5月9日夜、過激派仏教徒グループと、イスラム教徒住民の間で争いがあった。過激派仏教徒グループが郡区の移民局職員や警察官を伴い、イスラム教徒の少数民族ロヒンギャの違法移民をかくまっていると主張してイスラム教徒のアパートを捜索。疑わしい事実は確認されなかったが、仏教徒グループが強硬な態度を続け、住民との間で小競り合いになった。

六辻彰二むつじ・しょうじ

国際政治学者。博士(国際関係)。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者―現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)など。他に論文多数。Yahoo!ジャパン ニュース個人オーサー。

六辻 彰二氏

権力構造から見るロヒンギャ問題

国際人権団体のヒューマン・ライツ・ウォッチによると、2012年から16年までの間に、ミャンマーのラカイン州では12万人のロヒンギャが土地を追われた。高まる批判を受け、昨年5月に同国政府はヘイトスピーチを規制する法律を制定。今年2月には、ロヒンギャに対する軍事活動の停止も宣言している。

ただし、実際に暴力行為に加担しない限り、過激派仏教僧がヘイトスピーチだけで拘束されることはほとんどない。また、軍による掃討は続いており、5月に軍司令官は英国北アイルランドの状況になぞらえ、「テロ対策」として自らを正当化した。

政府の抑制が効かない背景には、ミャンマーの権力構造がある。現在の憲法は11年の体制転換において当時の軍事政権の主導で策定されたもので、議会の4分の1を軍人が占めるなど、現在でも軍の発言力は大きい。さらに、人口の7割を占めるビルマ人のほとんどは仏教徒で、彼らの間には多かれ少なかれイスラム教徒や少数民族への反感がある。スー・チー氏率いる国民民主連盟は民主的な選挙で政権を握ったがゆえに、その主な支持基盤であるビルマ人の意向から自由ではない。そのため、政府による「ロヒンギャ問題への対応」は海外へのポーズの側面が大きいのである。


いすゞ、「mu―X」を投入 大型UVで価格競争力など訴求NNA POWER ASIA 2017年5月12日付

インド

いすゞ自動車は、インドでスポーツタイプ多目的車(SUV)販売を強化する。5月11日に「mu―X」を発売した。全長4,700ミリメートル以上の大型ユーティリティー・ビークル(UV)では、SUVが市場の成長エンジンとなっており、2016/17年度(16年4月〜17年3月)の販売台数は前年度比2割増を記録。既にトヨタ自動車と米フォード・モーターのシェアが高いが、オン・オフロード両方で活用できる利便性と価格競争力を訴求し、販売を伸ばす考えだ。

mu―Xの排気量は3000cc、ディーゼル・エンジンを採用した。冠水や山道といった過酷な道路条件でも走行できる耐久性と、最大乗員7人と広い車内スペースなどを訴求し、高所得の世帯や企業の役員らを中心に需要を開拓する。

高柿松之介たかかき・まつのすけ

日本政策投資銀行 産業調査部 副調査役。2013年に入行後、企業金融第2部、中国支店を経て17年より現職。中国支店・現職にて自動車セクターを担当。

高柿 松之介 氏

2016年のインドの新車販売は3年連続の増加となり、足元も好調な推移を見せている。メーカーの積極的な新車投入や自動車ローン金利の低下などに支えられ需要は力強く、高額紙幣の廃止によるマイナス影響も小幅にとどまった。車両長4メートル以下の小型車に対する優遇税制の後押しもあり、小型のスポーツタイプ多目的車(SUV)へのシフトが市場の伸びをリードする中、各メーカーから同セグメントへの車両投入が相次いでいる。

政府は税制・環境規制の整備を急いでいる。17年7月には、国内の物品・サービスに課される間接税について越州的に税率や手続きなどの統合を目指すGST(物品・サービス税)を導入する見通しで、メーカーの間接コスト削減につながり、市場全体の追い風となるだろう。

他方、17年4月からユーロ4相当の排出ガス規制「バーラト・ステージ(BS)4」が全国的に適用されることとなり、旧規制「BS3」基準の自動車の販売が禁止されたが、乗用車に比べ対応の遅れていた商用車は、4月の販売が大きく落ち込む結果となった。

こうした規制強化は完成車メーカーのパワートレイン戦略に影響を及ぼすと考えられ、車両価格の上昇を通じてディーゼル車市場に対しネガティブな影響を与える可能性がある。次なる成長市場として期待の高まるインドではシェア争いも激しく、今後キーとなる規制動向については注視する必要があるだろう。


外国製鉄鋼67品目にAD関税 狙いは中国製品、日系は巻き添えNNA POWER ASIA 2017年5月17日付

インド

インド政府は、外国製の鉄鋼製品67品目を対象に、反ダンピング(不当廉売、AD)関税を遡及(そきゅう)適用した。期間は2016年8月からの5年間で、日本企業ではJFEスチールと新日鉄住金の製品が対象となる。インド政府は約2年前から、安価な中国製品の流入を抑え、国内の鉄鋼産業を保護する目的で、AD関税やセーフガード(緊急輸入制限)措置を取ってきた。中国以外の国は、その巻き添えを受けているとの声が出ている。

財務省が5月11日と12日に、外国製の鉄鋼製品67品目に対して、反ダンピング関税を遡及適用した。

大西勝おおにし・まさる

三井物産戦略研究所 産業情報部 主任研究員。鉄鋼および金属資源分野の調査担当。2013年より現職。それ以前は、JPモルガン証券、モルガン・スタンレー証券、クレディ・スイス証券にて日本株のアナリスト、ストラテジストとして株式調査業務に従事。日本証券アナリスト協会検定会員。

大西 勝 氏

インフラ需要の高まりなどを受け、インドの粗鋼生産は増加している。3月の生産量は、日本を抜き世界2位になった。それに伴い生産能力も2017年初頭で1億2,500万トン(うち高炉40%、電炉29%、誘導炉31%)と、ここ10年で2倍強に拡大した。それでも政府目標「2030年度までに生産能力3億トン」には、現在比2.4倍、年率6.5%の拡大が必要で、達成は困難であろう。小規模な誘導炉の積み上げには限界があり、電炉も原料のスクラップは輸入に依存し、電力供給にも制約があることを踏まえると、本来であれば、鉄鉱石の供給力もあるインドでは、高炉が担う役割は大きいはずだ。

しかし、これまでの投資負担に加え、中国鋼材流入の影響もあり、鉄鋼ミルの稼働率が低下したことで業績が悪化し、財務体質も脆弱化した。外資も、土地収用の問題もあり腰が引き気味だ。海外鋼材を締め出すのは、それにより国内ミルの投資余力を高める目的もあるだろう。

ただし、国際競争にさらされないことは、鉄鋼メーカーだけでなく、価格や品質で競争力に劣る鋼材を使うことを余儀なくされる鉄のユーザー産業の育成、発展にもマイナスに働く。中国では、対策は進めながらも過剰能力問題を抱え、東南アジアでは高炉の建設が控えているなど、アジア地域での需給環境の改善は遠い。

中国以上の環境問題を抱える一方、潜在的な巨大消費市場を抱えるインドであれば、限られた経営資源は高付加価値の川下分野に重点配分するといった発想も必要となるだろう。

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