【アジアに行くならこれを読め!】
『奇食珍食 糞便録』
やはり中国での留学中に何度もお世話になったのは、本書に登場する「ニーハオトイレ」。「開放トイレ」とでも呼ぼうか、いろいろな意味でオープンで、互いの姿を確認したりしながら事を処理する。著者も言うように、初めは恥ずかしいが回数を重ねるごとに「羞恥心も薄れていく」。
北京の大学の寮は奇数階に女子トイレ、偶数階に男子トイレがあった。ある時、男子トイレに韓国人の女子学生が2人やって来て、それぞれ個室に入り大きな声でおしゃべりしながら用を済ませた。中国暮らしで羞恥心が薄れたのか、2人の個性によるものなのか、はたまた別の理由あったのかは定かではない。本書にはアジアの、世界のさまざまなトイレとその利用者が登場する。あの2人が特別珍しいわけではないと思うようにした。
ほかにタクラマカン砂漠やメコン流域、インド、シベリア、南米などでのトイレ体験が書かれている。
本書後半は奇食、珍食の話。アジアの駐在員もネタは豊富にあるはず。だが著者の「カンボジアに慣れるには虫食に慣れるということだ」「カマキリはけっこううまい」との言葉に、彼我の経験の大きな差を思い知らされた。
『奇食珍食 糞便録』
椎名誠 集英社
2015年8月発行 760円+税
いささか根性を必要としたのは便所であった。(本書より)
<目次 のぞき見>- ・タクラマカン砂漠を舞うピンクウサギ
- ・モルジブの見事な食物連鎖
- ・ベトナムの正しい「カワヤ」
- ・メコン川で考える「世界の水問題」
- ・人間はどんなものまで食えるのか
椎名誠(しいな・まこと)
1944年東京生まれ、作家、写真家、映画監督。1979年『さらば国分寺書店のオババ』でデビュー。SF作品、紀行エッセーなど多数。近著に『本人に訊く〈弐〉おまたせ激突篇』(目黒考二との共著、椎名誠旅する文学館)。