【アジアに行くならこれを読め!】
『文明の十字路=中央アジアの歴史』
アジアの中でも日本人になじみの薄い中央アジア。本書では、中国の新疆ウイグル自治区とカザフスタン、ウズベキスタン、キルギス、タジキスタン、トルクメニスタンを含み、古くはトルキスタン(トルコ人の国)という名称で呼ばれた地域を、地理的に中央アジアと定義している。その中央にはパミール高原地帯や天山山脈が横たわっているが、どこも世界で海洋から最も遠く離れ、降水量が極めて少なく、砂漠や草原で覆われている。
著者によると、歴史の立場から中央アジアという地域を精密に定義することはできない。なぜならば、「人間の行動の範囲はつねに拡大したり、収縮したりするもの」だからだ。そして本書では中央アジアの歴史として、東は中国、南はインド、西はギリシャ、北はロシアに及ぶ広い地域で起きた民族の物語を描いている。
冒頭では、ゴマやキュウリ、ズボンなど我々になじみ深い物にも中央アジアを経由地または発祥地としたものとして紹介されている。本書を読むと、中央アジアとはまさに洋の東西を結ぶ世界の「中央」であるのだと実感させられる。原著は1977年と古いが、入門書として読むのに申し分ない。
『文明の十字路=中央アジアの歴史』
岩村忍 講談社
2007年2月発行 1,080円+税
われわれの身近なところにも、中央アジアは生きている。(本書より)
<目次 のぞき見>- ・農耕・遊牧両社会の抗争と共存
- ・文字と遊牧民
- ・中央アジアのイスラム化
- ・最後のアジア的暴君
- ・中央アジアの開発計画
岩村忍(いわむら・しのぶ)
1905年生まれ。29年オタワ大学社会学科卒。京都大学人文科学研究所教授、同大学東南アジア研究センター初代所長を歴任。専門は、遊牧民族史・東西交渉史。著書に、『元朝秘史─チンギス・ハン実録』『暗殺者教国』など。88年没。