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2022年には主要6カ国の新車販売規模が日本を上回るとも予測される東南アジア諸国連合(ASEAN)。NNAが日々伝える自動車関連のニュースを基に日本政策投資銀行、フロスト&サリバンの専門家が分析した。
17年新車市場は80万台に回復へNNA POWER ASIA 2017年2月1日付
タイ
トヨタ自動車のタイ法人、タイ国トヨタ自動車(TMT)は1月31日、首都バンコクで年初恒例の記者会見を開き、同国の2017年の新車市場が前年比4.1%増の80万台になるとの予測を発表した。16年は年初と年末の低迷が響き、3.9%減の76万8,788台と4年連続の縮小だった。トヨタは、今年の乗用車市場が回復すると見込み、5年越しの販売上乗せを狙う。TMTの棚田京一社長(当時)は「16年はタイの自動車業界にとって最も困難な年となった」と総括。市場は昨年に底を打ち、今年に浮上し始めるとの見解を示した。
塙賢治 はなわ・けんじ
日本政策投資銀行 産業調査部課長。96年東大法卒、旧三和銀行入行。02年日本政策投資銀行入行後、調査部、政策企画部、企業金融第1部などを経て14年より現職。自動車セクター担当歴10年超。素材や一般機械など製造業全般も担当する。
タイの新車販売は5年ぶり増加への期待が高まる。初めて自動車を購入する人を対象にした11~12年のファーストカー減税措置で購入した車両の転売禁止期間が終わり更新需要が出てくること、日系の完成車各社が相次いで新モデルを投入することが後押しする見込み。ただ、前国王死去を受けた服喪期間中の増勢は限定的となる可能性もある。
ピーク時の144万台からすると80万台レベルはまだ本格回復とは言えない。しかし、米国の保護主義化などに伴い新興国経済の先行き不透明感が強まる中、底入れ感の出てくるタイ市場のポテンシャルは注目されよう。8割超のシェアを持つ日系も期待を寄せている。
消費者ニーズは多様化している。農村部ではピックアップトラックが売れるのに対し、都市部ではエコカー政策対象車の小型セダン比率が高まり、デザイン性を重視したスポーツタイプ多目的車(SUV)や高級車市場も徐々に拡大中のようだ。ASEANの新車販売は、好調が続くフィリピンとベトナム、回復途上のインドネシア、回復が見込まれるタイ、不振が続くマレーシア、とまだら模様。売れ筋車種も国により異なる。増勢に向かい、ニーズが多様化するASEAN市場への細かなケアは一段と重要になる。
日系大手3社、16年通年はいずれも2桁成長にNNA POWER ASIA 2017年2月1日付
インドネシア
インドネシアに展開する大手日系自動車メーカーの2016年通年の販売台数(ディーラーへの出荷ベース)が明らかになった。大手3社の販売台数は、いずれも2桁の成長を達成した。NNAによる在インドネシア日系自動車メーカーへの問い合わせと、インドネシア自動車製造業者協会(ガイキンド)の統計によると、販売台数でトップだったのは、トヨタ自動車が前年比19%増の38万2,651台だった。これにホンダが25%増19万9,364台、ダイハツ工業が13%増の18万9,683台と続いた。
林更紗 はやし・さらさ
フロスト&サリバン ジャパン モビリティ部門リサーチアナリスト。自動車部品メーカーにて、乗用車および商用車メーカーに向けたセールス・マーケティングを約5年間担当。16年より現職。主に日系自動車メーカーに向けた自動車市場のリサーチ・コンサルティングを行う。
16年のインドネシアの乗用車市場は国内の経済成長や消費者マインドの改善、購買力の増大に伴う積極的な消費が需要をけん引した。またトヨタの「カリヤ」やダイハツの「シグラ」などの新モデルやフェイスリフト(マイナーチェンジ)モデルのリリースにより販売は好調だった。政府推奨の低燃費小型車「ローコスト・アンド・グリーンカー(LCGC)」の販売が大幅に増加し、スポーツタイプ多目的車(SUV)や多目的車(MPV)がそれに続いている。
16年の商用車市場の減退は産業全体の輸出の減少や物価の下落、コモディティー価格の下落に起因している。三菱自動車が商用車市場でのトップシェアを占め、日野自動車といすゞ自動車もシェアを伸ばしている。
弊社の予測では、17年のインドネシア自動車市場は、好調な消費動向や投資の増加、政府支出の増加および輸出部門の改善によって、前年比5%増の111万台に成長する。経済成長に伴い消費者マインドも改善し、LCGCやSUV、MPVも好調が続くだろう。インドネシア通産省は17年の輸出額は5.6%増と予測しており、商用車の需要増加も見込まれる。
初の政府優遇認定車、三菱自が生産開始NNA POWER ASIA 2017年2月20日付
フィリピン
三菱自動車は2月17日、フィリピンで小型セダン「ミラージュG4」の生産を始めたと発表した。フィリピン政府が税優遇を付与する「包括的自動車産業振興戦略(CARS)」プログラムの認定車種が生産されるのは初めて。同社は5月からハッチバックの「ミラージュ」も生産する予定だ。現地法人の三菱モーターズ・フィリピンズ(MMPC)の生産拠点となるラグナ州サンタロサの工場は年間5万台の生産能力を持つ。敷地面積は21.4ヘクタール。MMPCには昨年12月時点で1,400人が勤務する。
Mohd Fahrurazi モド・ラージー
フロスト&サリバン モビリティ部門シニアコンサルタント。10年以上の自動車業界経験を持ち、自動車産業に関わる政府の政策や製品展開に特に強みを持つ。
フィリピンの自動車産業は2016年に2桁成長を遂げ、高成長中だ。経済成長と所得水準の向上により、公共交通システムの整備が追い付かず、自家用車の需要が急速に高まっている。半面、販売台数の増勢と、フィリピン国内での自動車生産の伸びは同期していない。過去25年間で完全組立生産(CKD)車の割合は95%から約30%に減少し、政府がCARSプログラムを導入する引き金となった。
ミラージュの現地生産により、同国の自動車製造業は活性化すると期待される。CARSプログラムはバンパーなど必要とされる部品を現地生産することを条件としており、地元業者や部品メーカーの新たな成長を促すだろう。製品デザインや設計といった高いスキルを持つ労働者が必要となるため、自動車産業に高い付加価値をもたらすはずだ。
現地で生産することは自動車のコストの大幅な引き下げにもつながる。CARSプログラムでは車両1台につき約1,000米ドルの補助金を受けられるため、MMPCはミラージュの価格をより競争力ある水準に設定できるだろう。フロスト&サリバンは、ミラージュがサブBセグメントにおいて今後も首位の座を維持すると予測する。
CARSプログラムでは、MMPCは今後6年間で20万台のミラージュを生産することが求められる。これは毎年平均3万台余りを生産する計算だ。フィリピン国内の需要が現状、年間2万台以下という状況を踏まえると、生産台数が需要を上回るとも予測される。これら余剰分を輸出することにより、フィリピンはASEAN域内外の生産ハブになる可能性もある。
プジョー、SUV 2モデルの組み立て開始へNNA POWER ASIA 2017年2月24日付
ベトナム
フランスのプジョーは2月22日、チュオンハイ自動車(Thaco)と提携し、ベトナムでの現地生産を強化すると明らかにした。10月からThacoの中部クアンナム省の工場で、プジョーのスポーツタイプ多目的車(SUV)2種を組み立て生産する計画だ。
塙 賢治 氏
ベトナムは、ASEAN自動車市場の中ではインドネシアとタイの二大国の陰に隠れていたが、足元で販売台数が急伸し、フィリピンとともに「市場」としての注目度が高まっている。一般的に1人当たり国内総生産(GDP)が3,000米ドルを超えると自動車普及率は急上昇するが、同国の所得水準はその近くまで迫っている。さらに1億人弱の人口を有しポテンシャルも高い。本記事のように今後の成長性に着目し完成車生産を拡大するメーカーもある。
ただ、ベトナムは生産国としては岐路に立たされているようだ。2018年以降のASEAN域内からの輸入車の関税完全撤廃により、輸入車の価格低下が見込まれることから、一部車種では同国での完全組立生産(CKD)から完成車輸入(CBU)に切り替える動きも出てきた。国産車のコストダウンには部品メーカーなどの裾野産業拡大が必要だが、これまでの政府による自動車産業育成・振興策はあまり成果が上がっていない。自動車産業は一朝一夕に集積できるものはなく、完成車メーカーとしてはASEAN生産拠点再配置の中でベトナムをどう位置付けるか悩ましいところだろう。
新政策で自動車価格上昇、販売減に業者懸念NNA POWER ASIA 2017年3月1日付
ミャンマー
ミャンマーの自動車販売業者は、自動車輸入政策と税制の変更で自動車の販売価格が上昇し、販売台数が減少すると懸念している。ミャンマー・タイムズ(電子版)が2月28日伝えた。連邦議会が24日、排気量1500cc以上の自動車を対象に20~50%の特別税を課すことを決定、輸入を左ハンドル車に限定する政策と合わせ、販売業者らは「価格上昇につながり、販売に悪影響を及ぼす」と警戒を強めている。
第2の都市マンダレーの販売業者は、「(輸入規制強化で)1台当たりの販売価格が少なくとも400万チャット(約33万円)上昇し、販売台数が約6割減った」と指摘した。昨年12月に輸入許可証の発給が停止され、許可証を利用して仕入れた自動車の価格は平均1,400万チャット超の水準に跳ね上がったという。
塙 賢治 氏
ミャンマーはしばしば東南アジア「最後のフロンティア」などと言われる。1人当たり国内総生産(GDP)は1,000米ドル(約11万4,000円)前後と東南アジア諸国連合(ASEAN)10カ国で最も低いレベルだが、人口5,000万人超とマレーシア以上タイ以下の規模があり、海上・陸上物流の要衝に位置するため、投資先としての注目度は高まっている。最近ではスズキや日産の新工場建設が話題になった。
自動車市場を見ると新車販売はごくわずかな一方、2011年から12年にかけての中古車輸入の規制緩和に伴って輸入車販売が急増、保有自動車の大半は日本からの輸入中古車となっている。自動車急増でヤンゴンなど都市部の渋滞や大気汚染が深刻化した上、車両右側通行なのに右ハンドル車がほとんどのため事故が増えて危険とされる。そのため政府は(右ハンドルの)輸入車の特別物品税の税率を上げることで、(左ハンドルの)国産新車販売を奨励中だ。また、裾野の広い自動車産業育成による雇用拡大も狙いとみられる。
ただし、頻繁に政策・税制変更が行われれば、現場が混乱し、販売マインドを冷やすこともあるはず。日系企業もミャンマーの政策の一貫性を注視しながら、戦略を柔軟に考えていく必要があるだろう。
トヨタ、地場石化最大手から原料調達NNA POWER ASIA 2017年2月10日付
インドネシア
トヨタ自動車はインドネシアで、現地調達率の向上を加速する。同国石化最大手のチャンドラ・アスリ・ペトロケミカルから樹脂内装品用の原料であるポリプロピレン(PP-2)の供給を受けることで、2月9日にトヨタ車体のインドネシア子会社スギティークリエーティブスなど部品サプライヤーがチャンドラ・アスリと覚書を締結。これまで輸入していた樹脂原料を段階的に現地調達に切り替える。まずトヨタ・モーター・マニュファクチャリング・インドネシアが生産する小型セダン「ヴィオス」、小型ハッチバック「ヤリス」の内装部品向けの原料として使用される。
塙 賢治 氏
各国の政府は自国産業振興・雇用拡大や貿易収支改善のため、進出企業に対し一定以上の部品現地調達を義務付けることが多い。タイのエコカー政策やインドネシアのローコスト・アンド・グリーンカー(LCGC)政策でも自動車メーカーは部品の国産化を求められている。
メーカーにとって、現地部品の採用を拡大することは輸送費や輸入関税などのコスト削減にもなる。そのため大型のプレス部品や内装部品など輸送効率の良くない部品から現地化が始まり、産業基盤整備につれ他の部品へも拡大、エンジン・駆動系など基幹部品まで進んでいる国もある。ただ、急速な現地化は納期遅れや品質問題を誘発しかねないため、各社は品質・安定供給・コストのバランスを見極めつつ、時間をかけて段階的に行っている。
完成車メーカーのアジア現調率は9割を超えたともいわれるが、ティア1(1次下請け)は低い。現地ティア2(2次下請け)以下のサプライヤーや素材メーカーなどの裾野拡大に時間がかかるためだ。産業基盤整備には政府サポートも重要で、ASEANでは自動車産業育成に50年以上取り組むタイが質(支援策)・量(会社数)で先行するが、域内一の人口を抱え、同産業強化を目指すインドネシアの動向は注目される。
米テスラ、18年にインドで普及モデルを発売へNNA POWER ASIA 2017年2月10日付
インド
米電気自動車(EV)大手テスラは、2018年をめどにインドで普及モデルに当たるセダン「モデル3」を発売する予定だ。価格は3万5,000米ドル(約392万円)。イーロン・マスク最高経営責任者(CEO)はこれに先立ち、年内にもインド市場に進出する方針を示した。ビジネス・スタンダード(電子版)が9日伝えた。モデル3は5人乗りで、1回の充電で345キロメートルの走行が可能だ。6秒以下で時速100キロまで加速できる。インドでは16年4月に予約受付を開始。17年後半に生産し、18年に販売を開始する予定という。マスクCEOは、年内のインド進出について、「今夏を希望している」と語った。インド自動車工業会(SIAM)によると、2015/16年度(15年4月~16年3月)の国内のEV販売台数は前年度比37.5%増の2万2,000台。このうち、乗用車部門の販売台数は2,000台と、市場はまだ初期段階にある。
Anjan Hemanth Kumar 氏 アンヤン・ヘマント・クマール
フロスト&サリバン モビリティ部門プログラムマネージャー。インドオフィスを拠点に、パワートレインと電気自動車(EV)を中心に調査・コンサルティングを担当する。
インド政府は電気自動車(EV)・プラグインハイブリッド車(PHV)、ハイブリッド車(HV)の普及策「FAMEインディア」を推進する半面、充電インフラに対する16年度の補助金予算は2億ルピー(約3億円)と全体予算の3.7%にとどまっているのが大きな課題だ。マヒンドラ・エレクトリック(旧マヒンドラ・レバ・エレクトリック・ビークルズ)は同社の本拠地で、インド最大のEV市場であるバンガロールに100カ所以上の充電ステーションを設置し、5キロメートル圏内でのアクセスを可能にするなど、独自に充電設備を拡充している。ただ、より航続距離の長いテスラの「モデル3」の普及には都市部を中心とした独自のスーパーチャージャーの設置が不可欠だろう。
またインドのEVは自宅での充電が95%を占めるとのデータもあり、短期的には急速充電に対応した自宅充電設備と合わせた車両販売戦略が普及の鍵となる。
タイ、インドネシア、マレーシアを中心とするASEANにおいても充電インフラ整備という課題があるため、まずは政府主導でバスなど公共交通から普及が始まるだろう。弊社の分析によると、アジアでは日本、中国、韓国が引き続きEV市場をけん引する。特に中国は政府のEV奨励策によって、国内でのEV販売台数は25年時点で600万台を超える見通しだ。