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NEXTアジア PART2 ラオス

日系企業にとって有望な消費市場はどこなのか。まだ知られざる国々に目を向けた特集第2弾。アジアの限界にまで視野を広げて今回も5カ国を選定。現地取材も行った。 未来的な国、スリルに満ちた国、クセ者ぞろいの市場に迫る。

現地ルポ3 消費高まる「ミニタイ」、変わるメコンの中心郷

共同通信 ヤンゴン支局 記者 八木悠佑

タイ北部チェンマイ発祥の高級スーパー「リンピン・スーパーマーケット」は、ビエンチャンに海外初店舗を出店。チーズ、ワイン、牛肉、オーガニック野菜、果物など高級食材や日本食材も並び、富裕層や外国人駐在員から支持を集める

人口650万人の小国ラオス。タイとベトナムに挟まれた内陸国で日本企業の注目度は高くなかったが、近年はメコン地域を一体的に捉えようという企業にとって無視できない国になってきた。タイなど近隣国からの生産分業先としての魅力に加え、首都ビエンチャンを中心とする市場としての魅力も高まる。

一人当たり国内総生産(GDP)は全国平均1,857米ドルだが、人口約90万人のビエンチャンに限ると4,390米ドルにまで跳ね上がる。物に乏しいため、その資金は不動産や自動車に向かうほか、特にビエンチャンはタイに近いこともあって、タイ東北部のノンカイやウドンタニといった街での消費に向けられてきた。

川沿いに静かな田舎の風情が残るビエンチャン市街。古くからの商業施設「タラート・サオ」などでは雑貨や衣類を売る昔ながらの店が軒を連ねていたが、今は中国資本による近代的な大型商業施設「ビエンチャン・センター」や経済特区の開発も相次いでいる。市内交通はバイクが主流。自動車も着実に増え、小さな街でも通勤時間帯の渋滞が慢性化しつつある。自動車は以前、トヨタをはじめ日本の中古車が多かったが、中古車の輸入規制もあって新車が増え、韓国メーカーも販売攻勢をかけている。

南下する中国の影響力

ビエンチャンはタイの影響が目立つが、ラオスは歴史的にベトナムとのつながりも深く、ベトナム語を話す越僑も多い。

中国の影響力も強まっている。国交40周年だった2015年にはラオス─中国鉄道が起工し、ラオス初の人工衛星も中国の支援で打ち上げた。副首相として親中政策を率いたソムサワート氏は今春の指導部刷新で一線を退いたが、中国の影響力は衰えていない。ラオス人の国民感情として、中国に対する警戒心もある。

絶大なタイの影響力

ラオスを見る上で欠かせないのが、タイとのつながりだ。ラオスはタイと長い国境を接し、タイの物資も大量に流通する。多くの地域でタイのテレビ放送を見ることができ、言語や文化が近いこともあって影響力が大きい。ビエンチャンは市内に近代的な商業施設が建ち始めたとはいえ、旧来の市場や露店がなお主流だ。流行のファッションや電気製品など物の豊富さではタイ側に及ばない。

ラオス人はタイに買い出しに行くこと自体を娯楽と捉えて楽しんでおり、ビエンチャンっ子は週末になると国境を越えてタイへ行く。メコン川沿いのビエンチャンから国際バスに乗ると、川を隔てたタイ北東部のノンカイまで約2時間で着く。週末ともなればビエンチャンからピックアップトラックでタイ側に買い出しに行き、荷台を一杯にして戻ってくる。

タイの中でもラオス人の来客が多いノンカイやウドンタニの大型商業施設は、売上高では群を抜くといわれる。タイへ正規・非正規に出稼ぎに出る人が多いことも拍車をかけている。

ラオス国内の根強い「タイ需要」を背景に、タイの北部チェンマイからビエンチャン郊外に進出した「リンピン・スーパーマーケット」は、食品・日用品を中心とした商品の充実ぶりで富裕層から人気だ。「タイまで行く必要性が薄れた」(現地の日本人駐在員)という声も出ている。

ラオス政府は陸路国境からの輸入品に対する付加価値税(VAT)課税を強化しようとしており、このような国内での消費がさらに拡大する兆しも出ている。

日系企業の進出状況:国境越えた分業の受け皿に

過去5年ほど、タイやベトナムが担っていた生産をラオスが補完する「プラスワン」として製造業の進出が目立った。ラオスはタイなどと比べ賃金が大幅に安く、穏やかで真面目な気質や、伝統織物に代表される手先の器用さが高く評価されている。

南北に長い国土は、国境を越えた分業に向いている。製造業の受け皿となる経済特区として、首都郊外の「ビタ・パーク」、中部サワンナケートの「サワン・セノ」、南部パクセの「パクセー・ジャパン中小企業専用経済特区」の開発が進む。

日系大手が周辺国から生産工程の一部を移管するケースでは、ニコンが2013年9月に先陣を切った。タイで行っていたデジタル一眼レフカメラ製造の一部工程をサワン・セノ経済特区の工場に移管。ラオスで労働集約的な工程を行った後、再びタイに戻して最終製品化する。ラオス工場の運営もタイで育てた人材を使う例が少なくない。サワンナケートでは翌14年、トヨタ紡織も自動車用シートカバーの生産を開始。12年からラオスでウイッグ(かつら)を委託生産していたアデランスは、15年に同地の自社工場で生産を始めた。

ビエンチャンやサワンナケートに大手の生産分業が進む一方、南部パクセでは西松建設などが日系の中小企業をターゲットとした経済特区の開発を進めている。ラオスは安い賃金を生かした労働集約型産業の進出が進むが、人口の規模や密度から数千人規模の大工場は難しい。もし大手が進出すれば待遇面で劣りがちな中小企業は安心して操業できなくなるという事情もあり、中小企業の誘致に力を入れようとしている。

攻略の観点:市場の取り込み、お手本は「タイ流」

ビエンチャンのショッピングセンター内に出店した中国資本の雑貨チェーン「メイソウ(名創優品)」も、価格はやや高いものの、これまでなかったおしゃれな品を扱う店として賑わっている

ラオスでは日系サービス業の進出はまだ少ないが、2015年に卸売り・小売りへの外資参入が認められたこともあり、外資の進出は増えている。ビエンチャン市内では外国料理の飲食店、外資系スーパーなど小売業の進出も相次ぐ。和食チェーン「富士レストラン」(タイ企業)、「カフェ・アマゾン」「トゥルー・コーヒー」といった隣国タイからの進出が先行しており、今後、日系企業の参考になりそうだ。

ラオスは単独で見ると小さいが、タイやベトナムでの事業が一定の成功を収め、メコン地域全体に事業を広げようという中では欠かせない市場になる。タイ企業にとってラオス進出は自然な展開といえる。日系ではタイやベトナムでクレジットカード事業を手掛けるJCBが同じ考えに基づき、14年からラオスでもカード発行を始めた。自動車や家電などの販売が伸びる中、金融のような周辺サービスの需要も高まる。

小国ながらメコン半島の中心という地の利を生かそうという視点は、物流分野にも共通する。内陸国のため港はないが、タイやベトナムを結ぶ「東西経済回廊」の要衝であり、結節点にもなる。タイにもベトナムにもラオス籍のトラックで乗り入れられる制度を生かし、国際物流を手掛ける日系企業もある。

植林を行う王子ホールディングスや、生薬のツムラのように、農業国としてのラオスに期待する企業もある。南部パクセに近いボロベン高原はコーヒーや茶葉、野菜の栽培地としても注目される。多様性もラオスの魅力だ。

ここを見るべし!視察ポイント:市場の取り込み、お手本は「タイ流」

ラオス随一の近代的スーパー 駐在員や富裕層に人気

名称:リンピン・スーパーマーケット

ビエンチャン市内の他の店では見られない商品、品ぞろえ。ディスプレーも美しい


概要:

タイ北部チェンマイを本拠とする食品スーパーチェーン。2015年12月、首都ビエンチャン市郊外のショッピングモール「ビューモール」の主要テナントとして開業。モールは今も開発中でテナント導入も道半ばだが、「リンピン」はラオスでは従来取り扱う店のなかった日本食材や高級な輸入食材、タイやラオス産のオーガニック青果物を幅広くそろえ、ディスプレーも洗練されている。外国人駐在員やラオスの富裕層に人気のスポットになった。

アクセス方法:

ビエンチャン市中心部から車で北東へ約30分

ポイント:

これまでメコン川を渡ってタイ北東部の町に買い出しに行くラオス人が多かったが、リンピンはビエンチャンになかった高級感と随一の品ぞろえで、従来の流れを変えるきっかけとなる可能性を秘めている。

ラオスの進出魅力度

評価:A

ビエンチャンの街は急速に変化しているが、まだまだ昔の面影を残し、人々の雰囲気も大きくは変わっていない。小売り、卸売りが外資に開放されて外資系の店や自動車が急速に増えてきてはいるが、周辺のタイなどと比べるとまだまだ遅れており、需要を開拓できる分野が数多く眠っている。(共同通信ヤンゴン支局 八木悠佑)

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