カンパサール

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NEXTアジア PART2 カザフスタン

日系企業にとって有望な消費市場はどこなのか。まだ知られざる国々に目を向けた特集第2弾。アジアの限界にまで視野を広げて今回も5カ国を選定。現地取材も行った。 未来的な国、スリルに満ちた国、クセ者ぞろいの市場に迫る。

現地ルポ1 アジア西の果て、市場沸く未来国家

文・写真 NNAカンパサール編集部 岡下貴寛

首都アスタナ市のショッピングモール「ハーン・シャティール」の内部。テント型施設の内部をおびただしい数の買い物客が埋め尽くし、その頭上を絶叫マシンが急降下する

「ギャーっ!」

ゆっくり登っていた座席ががくん、と急降下すると乗客たちは悲鳴を上げる。

4層のホール状の建物は巨大なショッピングモール。これほど大規模な空間で絶叫マシンを稼働させるモールは、日本やわれわれが良く知るアジアでもそうは見られない。ダイナミックな光景だ。

中央アジアの大国、カザフスタン。フロンティア市場の「台風の目」として今年注目される国の筆頭ではないだろうか。世界第9位(日本の約7倍)という広大な国土に「メンデレーエフの周期表の元素で採れないものはない」と言われるほどの豊富な鉱物資源を有し、中央アジアで最も発展を遂げている。一人当たり国内総生産(GDP)は2013年に1万3,000米ドルに到達。15年には資源価格の下落などで1万500米ドルに減退したが、消費購買力は地域で随一の水準にある。

カザフスタン市場はちょうど「旬」を迎えている。今年6月、首都アスタナ市で万国博覧会を開催する。中央アジアで初の万博だ。「未来のエネルギー」をテーマに100カ国以上の参加を見込み、日本もパビリオンを開設する。国の威信をかけた事業とあって力を入れて準備中だ。

カザフスタンでは国を世界に開いていこうという機運が高い。15年11月にはWTO(世界貿易機関)に正式加盟を果たした。日本人旅行者に対して17年末まで短期ビザを免除し、旅行や視察などの来訪を歓迎している。経済の開放的な取り組みを進め、海外からさらなる投資を呼び込む思惑だ。

イスラム色は薄い

カザフスタンはアジアで最も西にある国の一つ。欧州、中東、ロシアとの境界に位置し、それぞれの文化や習慣が混在する。実際に現地を訪れると、欧州あるいはロシアのような雰囲気を強く感じるだろう。国民の7割ほどがイスラム教徒とされるが、イスラム色は薄い。

「旧ソ連時代に宗教を禁止されていたためか、宗教意識は強くない。戒律に厳しくはなく、ハラルや禁酒、1日5回のお祈りも徹底している人はあまり見かけない。男女の区別もそれほどない。日本における緩い宗教の雰囲気に近い」(日本貿易振興機構海外調査部の芝元英一氏)。

欧州的であり、ロシア的であり、それでいてアジアの一員でもある。われわれの良く知るアジアとはまた違う、異世界のごときアジア市場。攻略のしがいはありそうだ。

注目ポイント:圧巻スケールのモール天国

2010年にアスタナで開業したショッピングモール「ハーン・シャティール」(王様のテントの意味)。世界最大の張力構造物で600人以上の登山家が建設に参加。透過性ある天幕から内部にも自然光が降り注ぐ

カザフスタンで消費市場の勢いを感じるには、ショッピングモールに行くといい。アスタナと1997年まで首都だった最大都市アルマティでは、広大な土地を生かした集客の仕掛けをたくさん目にすることができる。冒頭でも触れた買い物客たちの頭上を落下する絶叫マシン、フロアの空中を行き来する小型モノレール、動く恐竜、本物の動物を集めたミニパークなど珍しいアトラクションに驚くだろう。カザフのモールは、いずれも圧巻のスケールだ。

外資の動き:BKの牙城に挑むマック

マックが欧米で導入を進めるオーダーパネルは3台設置。カウンターの混雑時はパネル注文がスムーズ

街には米系ファストフードのバーガーキング、ケンタッキーフライドチキン、ハーディーズ、英系大手カフェのコスタカフェ、日本にも展開するイタリアンカフェのセガフレード・ザネッティなど外資系チェーン店があふれ、外食産業での参入が進んでいる。中でも店舗が多く最も目にするのはバーガーキングだが、その牙城に昨年3月、マクドナルドが中央アジア初の店舗を開業。アスタナ店のオープン式典には大統領も駆けつけた。最先端の自動オーダーパネルを3台導入し、ドライブスルーも24時間利用可能など、ハイスペックな店舗で消費者にアピールする。

日系企業の進出:「日系=高級」のイメージで勝負

カネボウは欧州で展開する富裕層向けの高級ブランド「SENSAI」を導入。「メードインジャパンを打ち出し、アンチエイジングの基礎化粧品を中心に売れている」と同社。製品は現地の提携企業がアスタナ、アルマティに展開する化粧品店「テリ」で販売

日本製品は、大型スーパーや薬局などに入れば家電、紙おむつ、離乳食、衛生用品などをよく売っている。食品についてはトルコ系を筆頭に中国系、韓国系の方がリードしているが、高級スーパーに行けばしょうゆなど調味料や日本酒の取り扱いもある。街を走る自動車は日本製が多く、特に大型車を頻繁に目にする。日系企業は自動車を除けばヤマハ発動機、資生堂、理想科学工業(印刷機)、カネボウ化粧品、ニチバン(医療・衛生用品)、マキタ(電動工具)などが進出している。

旧ソ連圏諸国の経済に詳しいロシアNIS貿易会の中馬瑞貴研究員は「市場性はあり、日系企業の関心が高まっているのも間違いない。富裕層狙いの消費財は有利だろう。製造業の基盤のない国だから進出分野は限られるが、ロシアでの販売経験があれば有利に進められるのでは」と話す。

カザフスタンの進出魅力度

評価:B

市場性は極めて高い。一人当たりGDPが高く、消費市場をけん引する富裕層、上位中間層の購買力は魅力的だ。たとえ不況下でも資源国ならではの経済的な底堅さもある。一方、日本から最も遠いアジアの内陸国であり、進出や輸出は決して簡単ではない。製造業の基盤がないのもネック。ロシアかトルコなど周辺地に拠点・経験のある企業が「次の市場」として検討するなら魅力的なターゲットとなるだろう。
(NNA カンパサール編集部 岡下貴寛)

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