カンパサール

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NEXTアジア 東ティモール

日系企業にとって有望な消費市場はどこなのか。カンパサール編集部は中国やシンガポールといったおなじみの市場ではなくアジアの限界にまで視野を広げ、まだよく知られていない10カ国を選定した。

現地ルポ1 アジアで最も若い消費者をつかめ

アジアで最も新しい国、東ティモール。2002年にインドネシアから独立した直後は治安も不安定でアジア最貧国の一つだった。しかし、それも今は昔。現在はインフラ整備が進み、治安は安定。首都ディリ市には米系ハンバーガーやカフェのチェーン店が続々とオープンし、ビール世界大手のハイネケンが工場の建設に乗り出す。「英語がよく通じ、インドやインドネシアより快適」という声も聞くほどだ。日系企業にも進出の動きが見えてきた。今年8月、若き市場にチャレンジする企業を現地取材した。 (NNA カンパサ-ル編集部 岡下貴寛)

シュークリームのビアードパパがFC開業

笑顔ある丁寧な接客が日系チェーンらしさを感じさせる

永谷園グループの麦の穂は6月11日、シュークリーム店「ビアードパパの作りたて工房」の東ティモール1号店を開業した。日系飲食チェーンの同国進出は初。地場の外食業者とのフランチャイズチェーン(FC)契約による運営を行う。

ビアードパパは6月末時点で15カ国・地域に約180店を展開。海外は基本的に直営よりも身軽なFC方式で、ラオス、スリランカなど小規模国にも積極的に進出している。東ティモールでは首都ディリ市にある国内唯一の大型ショッピングモール「ティモールプラザ」に出店しており、現地の裕福な層や外国人が客層の中心だ。

麦の穂で海外事業を担当する山岡利光氏は「非常に好調。予想以上に売れており計画値の120%を超える勢い」と手応えを感じている。「日本は夏場に甘い物の売れ行きが鈍く、秋冬の方が調子は良いが、いつも暑い東南アジアは季節変動があまりない。もともと甘い物を好む人が多く、コンスタントに売れる」という。

メニューは計6種。3種類の生地と2種類のクリームから好みの組み合わせを選ぶ。価格は組み合わせにより1.5〜2.5ドルで、売れ筋はベーシックなカスタード味。作り置きではなく、オーダーを受けてからクリームを詰める。小腹のすく夕方頃から来店が増えていた。なお、市内にシュークリームの専門業態は他になく、ドーナツ店1軒に「クリームパフ」という類似品がある程度。ビアードパパは希少価値がありそうだ。

店舗運営を行う地場企業はイースト・ティモール・トレーディング。英語が堪能なパキスタン人がオーナーで、米系ハンバーガーチェーンのバーガーキング、カフェチェーンのグロリア・ジーンズ・コーヒーを市内で複数運営する。外食の経営ノウハウや食材の冷蔵設備などを備えていたことが、麦の穂が求める条件にマッチしたという。将来的には5店舗ほどの展開を目指す。

バイク市場をリードするヤマハ発動機

ディリでは珍しい近代的な店舗設備。市内を走るバイクはヤマハ、ホンダ、カワサキなどが多く、さながら日本製品の見本市のようだ

ヤマハ発動機は東ティモール独立期の2002年頃から政府・NPOの援助に協力する形で製品や技術の提供を行い、市場の把握に務めた。12年末、現地でヤマハ製品を専門に扱う特約店イースタン・スター・モーターズ(ESM)を通じ、本格的に販売を開始。今年6月にはESMが販売のみならず、整備や部品交換にも対応する新ショップを開業した。近隣に、こうしたアフターサービスを行える設備の整った店舗はほとんど見られない。一歩も二歩も洗練された店舗と接客でバイク市場をリードする。

売れ筋は「Mio M3」(店頭価格1,500ドル)。使いやすさ重視のスクーター型モデルで日常の足として利用される。「客層は若年層がかなり多い。インドネシアの流行をフォローする傾向がある。若者の購買力が付くのにしたがって、今後はファッション性やパワーを重視した150ccクラスのスポーツモデルが拡大する見込み。無登録車両や違法改造に対して政府が取り締まりを強化しており、合法に運営するショップの利用につながると期待している」(ヤマハ発動機 海外市場開拓事業部 小野智子主事)

外食大手ゼンショーも

日本のすき家店内で販売する東ティモール産コーヒー豆

外食大手のゼンショーホールディングスは、コーヒーのフェアトレード事業を推進する。東ティモールは非資源分野の輸出品の99%をコーヒーが占めており、高い品質で知られる。ゼンショーは、生産者からコーヒー豆の全量を買い上げ、日本の「すき家」などで販売。生産者には社会開発資金を含めた形で対価を支払う。

2007年に東ティモールで開始したフェアトレードは現在、世界18カ国にまで拡大している。決してボランティアではなく、あくまで収益事業として推進する。

「れっきとしたビジネス。良質な品物をリーズナブルに調達することができる」(フェアトレード部池田俊幸マネジャー)

同社は途上国に対しては外食事業の進出よりもフェアトレードを優先し、有力な産地開拓としてアプローチする方針だ。今後も世界全域を対象に拡大していくという。

東ティモールの進出魅力度

東ティモール唯一の近代的なショッピングモール「ティモールプラザ」。スーパーマーケットやホームセンターなど大型店をはじめ総勢100を超えるショップが出店する。1〜2階が商業施設、3階以上はオフィスやホテルで構成される複合施設でもある

評価:A

日系企業の進出は極めて少ないが、日本製品が販売されている様子は頻繁に見かける。魅力は何といっても参入余地の大きさ。FCや代理店契約など身軽な形で行える業態が向いているだろう。東ティモール人は、ティモール西部(インドネシア領)に出向いて食品や日用品を仕入れている。インドネシア経由でルートを開拓することも可能だろう。(NNA カンパサール編集部 岡下貴寛)

大使に聞く「ニッチ市場で参入の余地は大きい」

──治安や発展状況は?

大変急速に発展している。危険な印象が強いかもしれないが、テロや銃を使った事件はほとんどなく実際はイメージよりもはるかに治安が良い。不安定な時代があったため、むしろ平和を何より重視する。平和があってこそ発展を享受できるという考えが国民に共有されている。

──経済や市場性は?

思いのほかお金を持っている国。石油ロイヤルティーを国家予算の10年分も蓄積し、資源収入を含めた1人当たりGDPは5,000ドル近く、消費も期待できる。経済政策は開放的で産業に乏しいため投資も歓迎している。

──日系企業のチャンスは

在東ティモール日本国大使館の山本栄二大使

車・バイクを除くとまだ存在感が薄く、もう少し来てほしい。ニッチな市場だけに参入する余地は大きい。インドネシア、豪州北部などを含め、市場を地域として一体的に捉える視点が重要。この国はASEAN加盟を目指しており、将来的に地域統合的な話も現実味を帯びてくるだろう。

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