カンパサール

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アジアで発見 ロングセラー

鶏印のイワシ缶 アセアン缶詰の源流

マレーシアのスーパーマーケット、コンビニ、伝統市場のどこに行っても見かける黄と赤のど派手なカラーリング。鶏のラベル「アヤムブランド」のイワシ缶は当地で120年の歴史を誇る伝統的なアイテムだ。主婦が陳列棚から3~4缶を日用品を買うかのようにカートに投げ入れる。

鶏肉商品はなくても「アヤム」

トマトソース漬けのため中身は真っ赤(NNA撮影)

「他社製品もほぼ同じ味だが、幼いころから食べ慣れているアヤムブランドが最も安心できる」(写真左、女性)

マレー半島は東南アジアにおける缶詰の発祥地でもある。英領マラヤ時代の1892年、フランス人実業家がアヤムブランドを設立した。冷蔵庫がなくても腐らず、安心して食べられる画期的な魚介加工品として人気を集め、輸出拡大により東南アジア一帯に缶詰文化を広げた。

「アヤム」はマレー語で鶏の意味。鶏肉の商品はないが、入植者によるブランドというイメージを打ち消すために、あえてマレー語の名称を採用したという。その甲斐あってか、マレー系、華人系、インド系などそれぞれ好む食材が異なるマレーシアにあっても、民族を超えて支持を得た。

100種以上のラインアップがある中、人気で群を抜く定番がイワシのトマトソース漬け。鍋にざばっと出し、タマネギなどの野菜を加えながら煮込んで食べるのが一般的。保存の効く便利なおかずだ。1缶4リンギ(約105円)ほどと低価格の他社製品よりは高いが、老舗ブランドの信頼感で家庭の主婦に支持されている。同じく、トマトソースに漬けたサバ缶も人気が高い。

お弁当の主役はツナ缶

イワシ、サバ缶に次いで人気なのがツナ缶。マレーシアでは油漬けや水煮だけでなくサンドイッチ用のペーストが充実しており、風味もレモンやトウガラシなど多彩だ。

日本人が弁当におにぎりを持参するように、マレー半島にもサンドイッチを用意する習慣がある。「ツナスプレッドは忙しい朝にとても便利。ひと月に2~3缶は必ず使う」(2児の母である30代のマレーシア人女性)と、働く母親に活用されている。

近年、同国の缶詰市場では保存性からおいしさ、健康志向、簡便性へと需要が移り変わってきた。アヤムブランドでも不飽和脂肪酸のオメガ3を含むイワシやツナのオリーブ油漬けなど、高価格帯のアイテムに力を入れ始めた。オリーブ油漬けを使った家庭料理レシピを考案し、缶詰の新しい食べ方を提案している。

見た目はオイルサーディンに似ているが、高品質なエキストラバージンオリーブオイルを使用。トウガラシ入りや照り焼き風など個性的なフレーバーもそろう。マレーシアを訪れるなら試してみたい味わいだ。(文・齋藤眞美)

【製品DATA】
名称  :イワシの缶詰
製造企業:A・クロエ&Co
ブランド:アヤムブランド (アヤムはマレー語で鶏)
展開国 :マレーシア、シンガポール、ブルネイ、タイ、インドネシア、香港など
店頭価格:1缶4リンギ前後(約105円、155グラム入り)

カンパサール本紙を読む(2016年7月号より抜粋)

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