カンパサール

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アジアユニークビジネス大賞~アイデア部門~

その手があったか アイデア勝ちの斬新ビジネス

これを売るのか。そんなサービスがあってもいいのか発想が斬新な、アジア発のユニークビジネスを紹介する

【グランプリ】思い切って趣味を商売に:こんなのアリ?な専門ショップ(台湾)

客は若い男性が多いが、最近は家族連れも増えているという。「アリの生態を観察するのが子どもの教育にも良いと思われているようです」(王さん)

台北市内から車で40分ほど。台湾桃園国際空港へ向かう高速道路そばの工業団地内に、王秉誠さん(26)が経営する台湾唯一のアリ専門店「螞蟻帝国」がある。

幼少期から父親によく野山に連れて行ってもらったという王さん。最初は他の子どもと同様、チョウや甲虫が好きだったが、次第に「どこに行っても必ずいる」アリの生態に魅せられるようになる。

高校時代にはアリ好きが高じ、迷路のように入り組んだアリの巣を自作。大学時代にブログでアリの飼育方法などを紹介して反響を呼んだことから、いっそアリで起業してみようと計画を立て始めた。兵役から戻った後に、自己資金と若者向けの起業支援ローンで事業を立ち上げ、2014年6月に父親の勤務先企業の倉庫を借り上げて螞蟻帝国を開業した。

よく働くアリもいれば、怠けているアリもいる。「こんなちっぽけな虫でもいろいろあるんだなあ」。ストレスのたまった現代人にはどこか癒やされる存在に見えたのだろう。ネット上で評判を呼ぶことになった。現在の売り上げは1カ月10万台湾元(約33万円)前後で安定。向こう5年内には投資を回収できると見込んでいる。

目下の悩みは「生きたアリの安定的な確保」。売っているアリはすべて王さんが自ら野山で集めたもので、完全に自然頼み。いつも客が必要な数を確保できるとは限らず、冬はアリがいなくて売れないこともあるので、飼育容器などの収入に頼るしかない。このため「アリの人工繁殖ができないか」と検討している。

アリの楽園つくりたい

創業者の王さん

螞蟻帝国はまだ個人商店の段階。今後はアリを中心とした本格的な企業への脱皮を目指す。まずは人工繁殖に加え、飼育用品のブランド化や、アリの生態に熟知していることを生かした研究機関などとの連携を目指す。「アリの生態を観察した後にコーヒーでも飲めるようなショップにもしたいですね」。そして食品や医療、バイオなどの関連産業とも提携。最終的にはアリのテーマパーク「アリ楽園」を作り上げるのが目標だという。「空港に近い場所に拠点を構えたのも、海外からの観光客が立ち寄るのに便利だからというもくろみがあったんです」。扱う商品は小さいけれど、夢は限りなく大きい。

編集部コメント:日本にもアリを専門に扱う通販ショップがあるが、専門の実店舗を開設してしまうところにビジネスへの強い自信を感じた。豊かな発想とそれを実現しようとする行動力に感服し、本特集のグランプリに選んだ

【銀】スーパーの買い物、お任せ下さい:南国生まれの代行サービス(インドネシア)

台湾でハッピーフレッシュのサービスを使ってみた。シンボルカラーの黄緑色のシャツに身を包んだスタッフがバイクで指定の場所に駆けつける(NNA撮影)

生鮮食品の買物代行サービスを展開するインドネシアの「ハッピーフレッシュ」が、アジアで事業を拡大している。

利用者は、スマートフォンのアプリで、注文したい商品と配達希望時間を指定するだけ。バイクの運転手がスーパーなどでの買い物を代行し、注文から1時間以内に配達してくれる。

スマホを使ったネットショッピングは当たり前となったが、ハッピーフレッシュが一般的な電子商取引(EC)サイトと異なるのは、商品のサプライヤーではなく、地元のスーパーマーケットと提携する点だ。インドネシアでは、「ランチマーケット」「ロッテマート」などと提携している。2014年10月にジャカルタで創業した同社は現在、マレーシアやタイ、台湾、フィリピンでも事業を展開している。

買い物の代行サービスは、交通渋滞が激しく外出に手間のかかる東南アジア大都市圏で需要を伸ばしているという。同社は、インドネシアを含むアジア諸国・地域における生鮮食品のネットショッピング市場規模は、20年までに130億米ドル(約1兆3,800億円)に達するとみている。

編集部コメント:ちょっとスーパーに買い物に行きたいが、外は暑いし、車で行けば激しい渋滞が待っている。そんな消費者のかゆいところに手が届く、アジアらしいサービスだ

【銀】呼ぶのはオートリキシャ:アジアならではの配車アプリ(インド)

インドの庶民の足、オートリキシャ。タクシーに比べ料金が安く、市場や小道にも入っていける便利さもある(NNA撮影)

北インドの連邦直轄地チャンディガルを拠点とする、オートリキシャ(三輪タクシー)配車アプリ「Jugnoo(ジュグヌー)」が好調だ。2014年11月のサービス開始からわずか1年で配車数は100万件を超え、さらに5年後には1,000万件の配車を目指している。

オートリキシャは一般的なタクシーよりも料金が安く、「オート」の通称で庶民に親しまれている。ジュグヌーの共同創業者、サマル・シングラ最高経営責任者(CEO)によると、もともとタクシーの配車アプリはインドにあったが、オートリキシャを対象としたサービスは少なく、ニッチな分野だった。ただ、多くのインド人が都市での交通手段として最初に使おうと思うのがタクシーではなくオートリキシャであることから、ジュグヌーは商機があると踏んだ。現在は、インド約30都市にサービスを広げている。

利用者が望むのは、帰宅や通勤の際にオートリキシャに待たずに乗れること。アプリを使えば、スマホを操作して予約するだけで解決でき、いつまでもやってこないオートリキシャを道端で待つ必要がなくなる。またジュグヌーのデータによると、オートリキシャの運転手は8割の時間を、客を探す「流し」に充てているが、これでは時間とカネの無駄となる。アプリを使うことで、自宅近辺でも乗客を見つけられるかもしれず、効率的だ。

ジュグヌーの事業開始でインドならではの新しい市場が生まれた形だが、現在はタクシー配車大手のOLA(オラ)などもオートリキシャの配車サービスに参入。早速競争は激化している。

編集部コメント:ローカル感たっぷりのオートリキシャ。ITと結びついたことで、より便利な庶民の足となった

【銀】ブランドは創業者本人:カリスマ導師が率いる日用品大手(インド)

看板に導師の写真を大きく掲げたパタンジャリの店舗。一見怪しいが、インドでは知らない人はいないというほどの有名店になった(NNA撮影)

インドの首都デリー近郊、ハリヤナ州グルガオン。鉄道の駅から10分ほど歩くと、ひげ面の男性を描いた大きな看板が見えてくる。看板の男性は日用品・食品大手、パタンジャリ・アーユルベードの創業者、ババ・ラムデブ師。ここはパタンジャリの店舗で、化学品を一切使わない「ナチュラル」や「オーガニック」を売りにしたシャンプーや石けん、清涼飲料、栄養補助食品など幅広い商品が並ぶ。

現在50歳近いラムデブ師は、古語サンスクリットの学校で歴史やヨガを学び、1990年代に伝統医学アーユルベーダの学者と共に、アーユルベーダに基づく医薬品の製造を開始。97年に主に医薬品を販売するためパタンジャリを設立した。2003年に放送された朝のヨガ番組でラムデブ師本人が全国に知られるようになってからは、口コミで商品の認知度が高まってきた。

アーユルベーダに基づいたパタンジャリの商品コンセプトは化学品が入った商品を好まないインド人の志向にマッチし、幅広く受け入れられている。また、知名度が高いラムデブ師を前面に押し出すことで、広告費やマーケティング費を削減し、販売価格を抑えているのも特徴だ。ラムデブ師は銀行口座を開いておらず、パタンジャリの株式も一切保有していない。ブランドの顔でありながら商業主義一辺倒ではないことも消費者の信頼を勝ち取る一因になっているようだ。ヨガのカリスマという強力なブランド力とアーユルベーダに基づく商品を武器に、ラムデブ師は次の成長戦略を描こうとしている。

インドでは、ラムデブ師の成功を追うように、伝道師による同様のビジネスの創業が相次いでいる。03年に日用品販売のシュリ・シュリ・アーユルベーダ・トラスト(SSA)を創業したシュリ・シュリ・ラビ・シャンカール師はヨガや瞑想(めいそう)の指導者で、世界に支持者が3億人以上いるという。

編集部コメント:有名人とはいえ、創業者本人を前面に打ち出しているところが新鮮だ。明確な商品コンセプトを掲げ、インドの消費者の信頼を確実につかんでいるところに創業者のカリスマ性を感じる

選評

台湾の就職仲介サイト「1111人力銀行」が実施した調査によると、当特集のグランプリに輝いたアリ専門店「螞蟻帝国」がある台湾では、1980~90年代生まれの若者の85%が起業願望を抱いているという。実際、台湾ではEC店舗やカフェの開業が花盛りだ。ただ、他人が思いつかないような分野を見つけない限り成功は難しく、起業した人全体に占める成功者の割合は半数程度にとどまっているという。当特集アイデア部門では、ユニークさが光るビジネスを紹介したが、事業年数が短いものがほとんど。今後の展開に目が離せない。

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