カンパサール

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アジアが熱中「リアル脱出ゲーム」

謎を解き、物語の主役に

Photo by Tsutomu Yamada

シンガポール全島が舞台となったゲームでは、同国のカジノ総合リゾート、マリーナ・ベイ・サンズを訪れて謎解きをする場面もあった(同社提供)

小さな部屋に集まった10人の男女。始まりの合図と同時に、備え付けのたんすや戸棚、テーブルの下まで部屋の隅々を調べ尽くす。探偵や鑑識官さながらの動きは一見異様だ。

彼らが挑んでいるミッションは、この部屋に仕掛けられた謎を制限時間内に解き、脱出すること。部屋から見つかった紙や用途不明の道具は、謎や暗号を解読するヒントになる。あとは答えを導くひらめきを生み出せるか。脳との戦いが始まる。

3次元空間で謎解きをする「リアル脱出ゲーム」は、世界中の若者を魅了している。イベント制作などを手掛ける、スクラップが2007年に開始(会社化は08年)。11年から海外展開し、延べ188万人(うち海外は18万人)が参加した。

ゲームは基本的に屋内で行われる。常設施設は日本に約20、北米に4あり、ほぼ毎日開催。一方、スタジアムや廃校舎、街全体を使った大規模なイベント型もある。

常設施設のないアジアでは後者が中心だ。参加者は10代後半から20代が多く、料金は各国1回2,000~3,000円程度。エンターテインメントに支出する中間層が多い東アジアやシンガポールが、主要市場となっている。

リアル脱出ゲームの特徴は、単に謎を解いて楽しむだけではなく、「ゲームごとに設定された物語を体験してもらうこと」(同社広報の濱ヶ崎美季氏)。 リアル脱出ゲーム シンガポール全島が舞台となったゲームでは、同国のカジノ総合リゾート、マリーナ・ベイ・サンズを訪れて謎解きをする場面もあった(同社提供)

例えば国内外で人気の漫画『進撃の巨人』とコラボレーションしたゲームでは、セットや謎解きを進める過程を漫画の内容と重ねることで物語を疑似体験でき、ファンも楽しめるようにした。同ゲームはシンガポールと米国でも開催され、反響を得た。

今年6月にはシンガポール全土を使ったゲームも開催。普段は利用できない歴史的建造物なども訪れる仕掛けにし、謎解きと街歩きを組み合わせることで、魅力を再発見してもらう企画となった。

こうした海外開催の成否は、現地のパートナー企業との連携が鍵を握るという。謎や暗号などは現地語で作る。難易度も国ごとに調整。シンガポールは難題を解く満足感、スペインは難しさより解けた快感を求める傾向がある。また謎のネタは街を歩いて考えることもあり、土地勘のあるパートナーが不可欠という。

国を超えてリアル脱出ゲームが好感されているのは、「ミステリー小説がどの国でも売れるように、謎を解く喜びは国籍と関係のない欲求だからだと思う」(加藤隆生代表)。その究極形とも言えるのが、浅草で始まった言語を使わず、ひらめきで解き進める脱出ゲーム「Escape from The RED ROOM」。訪日外国人や子どもにも楽しんでもらう狙いがある。

引き合いがあればさらなるアジア展開も検討するという。スクラップがひねり出す「ひらめきの技」への挑戦権を手にする人は今後さらに増えていくだろう。(文・京正裕之)

【プロフィール】
株式会社SCRAP
本社:東京都渋谷区
設立:2008年
事業:イベントの企画制作、広告制作、音楽製作

カンパサール本紙を読む(2015年10月号より抜粋)

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