化学品や情報システムの販売などの事業を多角的に展開する三谷産業。昨年はベトナムでビジネスを開始して25年を迎えた。7社あるグループ会社の1社として、プラスチック成形品・複合ユニット製品の製造・販売を手掛けるのがAureole unit‐Devices Manufacturing Service Inc.(以下ADMS社)だ。
ADMS社の売り上げの97%をワイヤーハーネス(組み電線)などの車載用製品が占める。日系自動車メーカーやティア1の部品メーカーが主な納入先だ。ベトナムを中心とした東南アジア諸国連合(ASEAN)など世界11カ国に製品を出荷している。
同じくベトナムのグループ会社で金型製造を担うAureole Business Components & Devices Inc.(ABCD社)とともに、金型、生産準備、成形の一貫した自己完結型の生産体制を確立。取引先から求められる高い水準の品質マネジメントシステム(QMS)に対する高度な技術力が強みだ。
ADMS社は、ベトナム南部ドンナイ省で2015年3月に工場の操業を開始。17年には生産規模の拡大と、より付加価値の高い製品の生産体制の確立に向けて工場を増強した。
ADMS社の柏原芳博General Directorは「自動車産業は『100年に一度の変革期』にあると言われ、世界的にガソリン車から電気自動車(EV)にシフトが加速している。足元の技術開発や品質改善に取り組む一方、市場環境の急速な変化を見据えた取り組みもおろそかにできない」と話す。
柏原芳博 General Director
自動車のEVシフトでは、より高圧に耐えられる樹脂成形品が求められるが、高難易度の製品づくりに向けた工法の確立や材料の開発を進める必要がある。柏原氏が目標に掲げるのは「高難易度のプラスチック成形品に関するベトナムにおけるオンリーワン・カンパニー」だ。
目標達成に向けて、鍵となるのは主力であるベトナム人従業員の自律的な取り組みだ。柏原氏は「ベトナムでの事業に関わってきた経験から感じることは、ベトナム人は教育の環境を与えられると非常にモチベーションが上がる国民であることだ」と話し、ホワイトカラー、ブルーカラーを問わず、教育システムの重要性を強調する。ADMS社とABCD社を合わせてベトナムに3つある工場では、約1,600人のベトナム人従業員が働くが、各工場から毎年1人ずつを選抜し、三谷産業樹脂・エレクトロニクス事業部(広島市)での研修に派遣。日本の最先端の生産技術や生産管理のほか、ものづくりに対する考え方を学ぶ機会を与えている。また、カイゼン活動やQCサークルに関する優秀なチームには日本本社での発表の機会を与えている。「三谷アワード」と呼ばれるこうした制度は、技術開発や品質管理に向けたベトナム人社員のモチベーション向上につながっている。
2017年には「三谷アワード 最優秀賞」を受賞
19年は三谷産業がベトナムでビジネスを開始して25年の節目の年だった。11月にホーチミン市で開かれた記念式典には、梅田邦夫駐ベトナム大使や在ホーチミン日本総領事館の河上淳一総領事をはじめ、企業の関係者ら約250人が参列。ベトナムへの集中投資をけん引してきた三谷充会長は「進出当初はベトナムを発展させることを目的としていたが、現在は新たな段階に来ている」と話し、これまで以上のベトナム事業の強化を示唆した。
山田佳史 General Manager
三谷産業は、ベトナムで展開する7つのグループ会社について、ビジネスエンジニアリング(B-EN-G)が提供するグローバル経営管理・会計システム「mcframe」を導入した。本社が求めるグローバルで通用するソリューションであることなどが採用の決め手だ。現在、7社はそれぞれ固有のシステムを採用しており、各社担当者固有のカスタマイズを許容しているため、業務の属人化やローカルルールが発生。システムを統制することで販売購買業務および会計業務運用を統一する狙いだ。
7社への採用に向けて最初の試金石として選ばれたのがADMS社だ。同社では、毎月第1営業日までに会計書類を整えるため、月末を中心に担当者にかかる負荷が大きかった。19年4月にmcframeを導入して以降は人手に頼った入力作業が減少、また未然防止への業務スタイルの変化により、業務品質が向上した。山田佳史General Managerは、「mcframeの機能を使いこなすことで、製造部門の生産性改善の成果が、これまで以上に見えてくる事が、会計担当者のモチベーションアップにもつながっている」と話した。
三谷産業のベトナムのグループ会社Aureole Information Technology Inc.(AIT)とB-EN-Gは19年11月、「現地法人経営実践セミナー」をホーチミン市で開催した。監査法人KPMGベトナムの小熊崇史公認会計士が「事例から学ぶ不正対応の実務」について基調講演したほか、ADMS社の山田General Managerが決算早期化と業務の効率化を目指した同社の取り組みを紹介。山田氏は、システム導入プロジェクトを主導したAIT社とB-EN-Gのサポート体制には信頼感があり、今後の6社への展開プロジェクトにも、期待を寄せていると話した。