日本企業のものづくりに寄り添ってきた専門商社の東和電気(東京都港区)。アジア各国・地域でめまぐるしく変化するものづくりの現場に深く入り込み、業績を拡大させている。今回は中国・上海とシンガポールの現地法人を訪ね、グローバルなものづくりに欠かせなくなっている専門商社の役割を追った。活躍する組織の根底にあるのは、「商社は人」と断言するほど人を大切する企業文化とそれを体現するローカル社員たちだった。
超高層ビルが立ち並び、人々の活気にあふれる巨大都市、上海。東和電気が上海に現地法人、東和国際貿易(上海)有限公司を設立したのが2002年7月。日本の家電メーカーが多く生産拠点を設け、日本やアジア向けの製品輸出を活発化している時期だった。
設立当初は日本の大手家電メーカー向けに電子部品などの加工品を中国で生産し、納品する業務がメインだったが、リーマン・ショックが吹き荒れる07年ごろからものづくりに大きな変化が進行した。中国製造業の技術水準が上がるなどして、競合相手が同じ中国加工品となってきたのだ。これでは価格の優位性が薄れ、商社が絡む加工品生産は利益を出しにくい。
そこで、専門商社としての原点に立ち戻った。スマートフォンの液晶画面に張る遮光テープなど各種材料メーカーと中国での代理店契約を結び、材料を使用する中国の各種工場に販売する業務に力を入れ始めた。この業務では工場であれば日本企業も中国企業も、欧米系企業も顧客となり得る。
東和電気が扱う有力な材料の一つに防湿剤がある。エアコンの室外機は急激な温度変化で結露すると、電子基板がさびやすくなるが、防湿剤を塗布することでエアコン自体の性能を長持ちさせるのだ。日中それぞれの大手エアコンメーカーのほか、最近では中国の大手家電メーカーにも販売を開始した。
加藤史郎・董事総経理
「取引先の中国企業に対して本体工場だけでなく、さらに下請けの下請けなど末端の工場まで人的なコネクションがあるのが最大の強み」と加藤史郎・董事総経理は話す。法人設立当初から中国人人材を中心にした組織づくりを行い、同時に中国のものづくりの現場に深く入り込んでいったことが、成果を生みつつあるのだ。現在の社員は30人。このうち日本人は加藤総経理ら2人のみ。
上海法人の立ち上げ時から関わり、同社の中国ビジネスの地盤を築いたのが中国人の呉ウェイ(ウェイ=ひへんに韋、ウー・ウェイ)・副総経理だ。呉氏は「会社の看板を見て取引を判断するのが日本人だとすれば、中国人は人を見て『この人がいればこの会社は信用できる』と考える」と言う。個人同士のつながりを重視する中国では、日本人だけのスタッフだったら中国企業と取引できないどころか、担当者と話もできないだろう。組織の現地化は必要不可欠だったのだ。「商社は人あってこそ」と呉氏は強調する。
もちろん、ただ人脈があれば取引が拡大するというわけではない。営業マン一人一人がものづくりの現場を知っているからこそ、「この部品と部品をくっつけるなら、こんな材料が使えますよ」などと顧客に解決策を提案でき、新たな取引にもつながっていく。
呉ウェイ・副総経理
東和電気は16年秋から、上海を含む海外6拠点に、東洋ビジネスエンジニアリングが提供するグローバル経営管理ソリューション「mcframe GA」の導入を進めた。海外法人の帳簿の経理情報などを一元管理できるほか、受発注とそれに伴う在庫情報を管理する機能を備えている。
呉氏は「旧システムではばらばらだった経理と受発注が、mcframe GAでひも付けられたのが画期的だった。的確で迅速さが求められる中国ビジネスにふさわしいシステムに生まれ変わった」と話す。
上海法人は昨年、東和電気の海外売上高の48%を占めるまでにビジネスが拡大した。素材や材料の仕入れ先とのパートナーシップの強化とともに、次の時代を担う人を育ててグローバル展開する東和電気の発展を上海から支えていく。
東和電気が今からちょうど30年前の1988年10月、初めての海外拠点として設立したのがシンガポール法人、TOWA DENKI TRADING(S)だ。国際金融都市として急成長したこの30年間にシンガポールから日本企業の生産工場はほとんど姿を消したものの、インドネシアやフィリピンなど向けのインボイス発行や貿易業務など、東南アジア諸国連合(ASEAN)の重要拠点としての役割は変わっていない。
4年前にシンガポールへ赴任し、一昨年から法人社長を務める中村文昭氏は「私で法人社長の8代目になる。30周年を迎えることができたのは優秀な現地スタッフたちに支えられてきたからこそ」と感謝する。
現在のスタッフは6人。毎年1度、社員全員で海外へ旅行する。23歳で入社し、50歳を過ぎた今までも勤続するジェシカさんは歴代の法人社長を見てきた。「中村さんを含めこれまでの社長は、いずれも辛抱強く話を聞いてくれる人ばかり。私たちスタッフの方がいつも助けられている」と話す。社長とスタッフがお互いに助けられているというシンガポール法人のチームワークは、mcframe GA導入でより発揮された。
中村文昭・法人社長
海外6拠点のうち最後に導入を進めたのがシンガポールだった。10年以上使った旧システムからの切り替え作業は、難航が予想された。
シンガポール法人が扱う各種材料は数千点に及ぶ。海外受発注の管理を行っている業務オペレーション担当のベレリーさんは「商品の単価などの基本情報を手作業で新システムに入力しなければならなかったが、取り扱う商品数が多いので夜遅くまで作業する日もあった」と振り返る。日本本社や他の海外拠点のサポートもあって今年1月からは無事に運用を開始した。
経理マネジャーのエナさんは「以前はフィリピンの書類をシンガポールで入力し直すなどの二重作業があったが、今はこれらの作業はシステムが自動でやってくれ、とても業務が効率的になった」と充実した表情で話す。エナさんは、新システム導入にチャレンジできた喜びを日本本社にメールしたほどだったという。
「人を大切にしながらも、言いたいことは言い合える雰囲気がある」と中村さん。スタッフたちは「シンガポール法人が次の30周年を迎えられるようにいろんな勉強をしていきたい」と声をそろえた。