NNAカンパサール

アジア経済を視る July, 2018, No.42

2018年7月1日
アジアで内部リスク対策を、現地法人の「見える化」がカギ

石井照万常務取締役・管理本部長兼経理部長

私たちが日常生活で使う自動車や家電などに欠かせない、フィルムからテープ、シリコン、接着剤、基板などの多彩な素材や部品類。数千~数万点に及ぶ素材や部品を仕入れ、メーカーなどに納めているのが専門商社の東和電気株式会社(東京都港区)だ。日本の自動車や家電メーカーが海外生産に移行したのに伴い、これまでにシンガポールや中国などアジア7カ国・地域に拠点を設けた。これら海外拠点の強みを生かし、時代に合わせて新たな分野に参入するために東和電気は海外6拠点でITシステム導入に踏み切る。国境を越えた同社の挑戦に迫った。

専門商社としてのアジア展開

「こんな素材はありますか?」と顧客のセットメーカーや部品メーカーなどから聞かれれば、「そろわないものはほとんどない」と自信を持って答えるのは、東和電気の石井照万常務取締役・管理本部長兼経理部長。主要素材メーカーなどの仕入れ先の多さでは日本トップレベルの専門商社のひとつだ。

日本が高度成長期に突入する昭和30年代、発電所や変電所で必要な、電気を通さない絶縁体である紙の取り扱いを始めたのが、東和電気の専門商社としての始まり。その後、松下電器産業(現パナソニック)との取引を通じて冷蔵庫や洗濯機などの家電向けの素材や部品の仕入れに進出し、15年ほど前からはスマートフォンや自動車分野にも幅広く展開するようになった。

プラザ合意を受けた急激な円高や人件費の高騰などを背景に、家電メーカーによる生産拠点の東南アジアへの移転が加速した1980年代後半には、シンガポールに東和電気としては初めての海外拠点を設立した。現在は上海や深圳、香港、タイ、ベトナム、フィリピンなど7カ国・地域に営業拠点を設け、東南アジアを幅広くカバーするようになった。

石井氏は「顧客がいるところについていくのが、東和電気の基本姿勢」と話す。地道に積み重ねてきた海外展開の30年間で、東和電気が築いた立ち位置は、「アジアでは負けない日系の専門商社」だったのだ。

なくなる国境と、広がる産業分野

ただ、「我々のマーケットが果たしてこれからも成長産業であり続けるどうかは疑問だ」と石井氏。現在の立ち位置にいつまでも安住していられるわけではなく、時代に合わせて自発的に会社内部に変革を起こしていかなければならないと身を引き締める。

まず注目すべき時代の大きな変化は、「グローバル化に伴って海外と日本国内のビジネスの境目がなくなってきている」ことだ。かつては海外の顧客に、日本で仕入れた素材や材料、部品を納めるのが主流だったが、現在は素材メーカーが海外に生産拠点を持つケースが増えている。海外の顧客には海外の素材メーカーから仕入れる商流が一般化しつつあるのだ。

さらに時代は、日本が強みとしていた家電や自動車業界での大きな構造変化に直面している。家電業界ではIT化や人工知能(AI)活用が進んでいる他、自動車業界でも電気(EV)化という技術基準の変化の大波が押し寄せ、日本のメーカーの世界での立ち位置が揺らぎつつあるのだ。

東和電気の主力製品のプリント基板に使われる樹脂材料

東和電気の主力製品のプリント基板に使われる樹脂材料

「これまではお客さんを追うような形で取り扱い分野を拡大してきたが、これからは自社の意思で新しいマーケットに踏み込んでいきたい」と石井氏は強調する。

例えば病院や介護の現場では、金属の耐久性のある医療器具に代わって現在は使い捨てのプラスティックや樹脂の成形品などが多用されるようになっている。また日本各地の道路や橋などの各種インフラ向けに、強度が増した接着剤が用いられるようにもなっているという。

そこで東和電気は、国境と業界の垣根を越えて営業を展開するため、家電や自動車など自社の顧客となる業界と、材料や部品など自社の取扱商品の調達先を横軸で展開する部署、本社営業部を設けた。

石井氏は「我々が日常的に仕入れている素材や部品をしっかり品種ごとに分類し、最新の情報を集めて新しいマーケットと結び付けることで専門商社としてのビジネスチャンスを見出していけるはず」と期待を話す。

海外6拠点でITシステムを導入

櫻井裕也経理部システムグループ長

櫻井裕也経理部システムグループ長

東和電気の新時代への挑戦を支える数千~数万点に及ぶ取扱商品。これらの膨大な在庫や受発注の情報を本社営業部が拠点をまたいで把握するために、上海、深圳、香港、タイ、ベトナム、シンガポールの海外6拠点でITシステムの導入を決めた。それが東洋ビジネスエンジニアリングが提供するグローバル経営管理ソリューションの「mcframe GA」だ。同ソリューションは海外現地法人の帳簿などの経理情報などを一元管理できるほか、受発注とそれに伴う在庫情報を管理する販売・購買・在庫管理機能を備えている。

東和電気経理部システムグループの櫻井裕也グループ長は「海外ベンダーの基幹システムは日本的な帳簿機能は後付けするしかないが、mcframe GAはパッケージの中で標準化している。日本企業が海外展開する時に必要な機能を備えているのはmcframe GAしかない」と高く評価する。これであれば、東和電気の本社営業部が海外で売れている素材や部品の品種を把握し、国境や業界の枠組みを超えて横軸で営業展開ができるようになる。

成功に導いた社風と文化

グループ合同社員旅行の集合写真(2016年9月・札幌)

グループ合同社員旅行の集合写真(2016年9月・札幌)

東和電気はプロジェクトの立ち上げから約1年間半で海外6拠点にmcframe GAの導入を終えた。

ただ課題があった。シンガポールでは30年前の設立時からのローカル経理担当者が定年退職を迎えるほどローカル人材の定着が顕著で、海外拠点がそれぞれ現地の商習慣に合わせて独自の経理の仕組みを作るなどしていたため、新システム導入への抵抗が予想された。

そこで東和電気が最初に行ったのは、6拠点の経理担当者らを日本本社に集めてのミーティングだ。

石井氏は「現地を信頼し、『任せるところは任せる』というローカル化を進めてきた。彼らがこれまで工夫して積み重ねてきたことは否定せず、海外拠点と日本本社が連携するために必要な項目をmcframe GAに入力させるよう指示した。一方で税関など政府機関への申告などのアウトプットは現地に任せる方針を明確に伝えた」と言う。

「東和電気はもともと人間臭いところ」だと言う石井氏。東和電気では、海外のローカル社員も参加するグループ合同の社員旅行を5年ごとに開催している。ローカル社員同士が顔を合わせて交流することで、日々の業務においても拠点を越えて連絡を取り合う関係になっているという。mcframe GA導入でも、合同ミーティングの後、ローカルの経理担当者同士がSNSなどで進捗状況について情報を取り合った。“あの拠点で導入できたなら、うちでも成功させたい”という良い意味での競争心が芽生えたことも、プロジェクトの進行を後押しした。

システムの導入が無事に終わった後、ある海外拠点の経理担当者から石井氏に電子メールが届いた。「私をプロジェクト担当に指名してくれてありがとう」などと喜びの言葉が並んでいたという。

「mcframe GAは海外の経理情報などを一元管理できるだけではない。自社の強みを数字で把握し、マーケティングや経営戦略の組み直しにも大いに役立つ。組織を発展拡大させていくためには絶対になくてはならないものだ」と石井氏。東和電気の新時代への挑戦は始まったばかりだ。


<企業プロフィール>

会社名:東和電気株式会社
本社所在地:東京都港区新橋2-13-8
設立:1946年2月
従業員数:146名(2017年1月現在)
資本金:301百万円
事業内容:電気材料、電子材料、化学材料および金属材料の販売、合成樹脂原料、工業用フィルムおよび成形品の販売 など
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