NNAカンパサール

アジア経済を視る May, 2018, No.40

2018年4月1日
アジアで内部リスク対策を、現地法人の「見える化」がカギ

洪水、地震・津波、テロ─アジアでさまざまな“外的リスク”に直面してきた日本企業の現地法人。だが、「ストライキや横領、不正取得など頻発する内的リスク対策が重要になっている」と、日系大手保険会社のリスク専門家は指摘する。どんな内的リスクがあり、いかに対策を取っていったらいいのか。今年の2月に都内で開催されたビジネスセミナーで、現地の法律などに詳しい税理士、コンサルタントらはいずれも、大きな鍵を握っているのが現地法人の「見える化」だと訴えた。

100種類にも及ぶリスク

タイ・バンコクに駐在し、インドネシアやフィリピン、ベトナムなど東南アジア各地に飛んで日系企業で実際に発生したリスクの現場を詳しく調査してきた東京海上日動リスクコンサルティング株式会社ビジネスリスク本部の青島健二主席研究員(写真❶)は「洪水、地震・津波、テロなど100ほどあるビジネス上のリスク。実質的にこれらすべてを取り除くことは不可能だ。対象を絞り込み、より少ない投資で最大の効果を上げるリスク対策が重要になる」と話す。

タイでは2011年に大洪水が発生した。多くの日系工場も水没し、サプライヤーからの部品の供給が止まったことで、半年以上にわたって基幹産業の自動車業界の生産が停滞する事態となった。広く日本人には知られていないが、経済的な損害額は東日本大震災を上回るとされる。アジアではそのほかにも地震や津波、テロ、政治不安定化などのさまざま外的リスクがある。

だが、「ストライキなど労務関連や情報漏えい、横領などの“内部リスク”はより頻繁に起こっている」と青島主席研究員は指摘する。盤谷日本人商工会議所(JCC)の調査では、タイの日系製造業の36.2%が社内不正・不祥事が発生したことがあると答えている。発生してみないと認識しづらいが、内部リスクは日系企業のより身近に横たわっているのだ。

「信用できる従業員に一任」こそ危ない

青島主席研究員によると、ベトナムのある日系製造業で、経理担当者による横領が発覚したケースがある。現地従業員70人に対し、日本人技術者が1人常駐していたが、会計・経理の知識はなく、総務の案件はすべてベトナム人経理部長に一任していた。ベトナム語で記載されている書類に言われるままに署名していたところ、経理部長が数百万円を不正に引き出していたことが発覚した。

日本語を流暢に話せる、勤続年数が長いというだけで無条件にその従業員を信用してしまいがちだ。東南アジアでよくある内部リスクが、仕入れ・調達部門の担当者が通常より数倍〜数十倍も高い値段で自身のファミリー企業などに発注しているケースだろう。

ベトナムを中心に活動している名南経営グローバル・パートナーズの佐分和彦代表取締役社長(写真❷)は「現地法人の財務情報を把握していない日本企業は依然として少なくない。『現場に任せる』という名の放置とも言える。これは内部不正の温床ともなるリスクだ」と警告する。

日本本社と現地法人との隔たり

東南アジアにある現地法人は独立性が強く、本社からのガバナンスが効かないことも多い。日本本社が「現地法人のリスクが見えない」と訴える一方、現地法人では「本社に逐一報告する必要はないだろう」と考え、そのリスク感覚には大きな隔たりが存在する。加えて、アジア各地で言語が異なるほか、決算書や領収書など各種書類の規格が違うことも、こうした隔たりを放置してしまう要因にもなっている。

「日本本社と現地法人との隔たりを埋めるには、海外の現地法人の“見える化”がポイントだ」と訴えるのは、タイやインドネシア、フィリピンを中心とした日本企業の海外進出支援業務に携わる朝日税理士法人の代表社員、山中一郎公認会計士・税理士(写真❸)だ。アジア各地で大きく異なる社会風習、言語の壁を乗り越え、「誰かがちゃんと見ている」と現地従業員にも感じてもらえるシステムや制度を確立していることが重要になっているという。

5年前にタイの現地法人の立ち上げに携わった経験もある永峰三島会計事務所の西進也・会計グループパートナー(写真❻)も「日本本社から売上高などの数字を求められると、現地は上手くいっているとみせたがり、見積もりや見込み段階の数字を雪だるま式に積み上げていってしまうこともある。現実に即した、確定した数字を日本本社に上げていくことが非常に大事だ」と話す。

現地法人の「見える化」がもたらす効果

グループ全体で世界27カ国に展開する株式会社東京コンサルティングファームの久野康成代表取締役会長(写真❺)は現地法人の“見える化”にITを活用することがポイントになっていると話す。久野氏は「ITの進化によって速く、しかも安く海外の決算などの情報がモニタリングできるようになっている。情報の速さはリスク発生を未然に抑制するだけでなく、業務コストの削減、生産性の改善にもつながっていく」と説明する。

現地法人の内部リスク対策などの要望に一元で応えられるのが、海外グループの財務情報を効率的に管理する仕組みを日本企業向けに提供しているクラウド型国際会計アウトソーシングサービス「GLASIAOUS(グラシアス)」だ。現地法人から提携する会計事務所に原票を提出すれば、アウトソーシングで会計処理が行われ、クラウド上でデータを一元管理できる。現地からも本社からも同じデータを確認できるようになり、“見える化”が実現する。日本本社から、現地法人の財務諸表から仕訳の明細確認までを感覚的に操作が可能だ。日本語と英語だけでなく、タイ語、ベトナム語を標準サポートしており、項目名だけでなく、データも多言語に対応しているため、現地法人にとっても“見える化”が実現できるのだ。

現地法人の“見える化”によって内部リスクを抑制するだけではない。BDO税理士法人の長峰伸之総括代表社員(写真❹)は「コミュニケーションの中で現地法人との信頼関係を結んでいくことも重要だが、海外子会社との連結決算を補完する仕組みが、企業グループとしての安定的、継続的な成長には欠かせない」と訴えた。


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