企業向けの情報技術(IT)ソリューションサービス事業を手掛けるキヤノンITソリューションズの超高速開発ツール「Web Performer」が、タイ市場に挑戦しようとしている。英語に対応した最新版が2016年に発売され、手始めにタイの総販売代理店を担うMaterial Automation (Thailand)=MAT=に導入。国境を越えて利用が進むWeb Performerの活用事例に迫る。
超高速アジャイル開発を実現する「Web Performer」とは企業の組織を横断し、全ての業務を円滑に進めるITシステム。MATでは社用車とそのドライバーを管理する為の「配車システム」と、開発者の稼働実績を管理するための「実績入力システム」、この2つをWeb Performerでスピード開発した。従来の「配車システム」は自社で試作したものを運用していたが、利用が社内のLAN環境に限定され、外出先からアクセスできないなど不便な点が多かった。また「実績入力システム」を開発する以前は、Excelによる手作業での管理手法であったため、マネージャーの負担増加が課題となっていた。課題解決のために新システムの開発が望まれたが、外部への委託開発ではコストがかかり、フルスクラッチでの自社内開発では人手がかかる。社内に約40人のエンジニアを有するMATであっても、案件ごとに割ける人員は1〜2人で、コストと工数の両面に課題を抱えていた。
プレビュー機能で画面イメージを確認
従来の開発では、開発者がユーザーの細かな要望を十分理解しないままプロジェクトが進み、システムが出来上がったところでユーザーから多くの追加要望が発生し、結果的に完成までに時間がかかってしまうことが多かった。またユーザーと開発者間の認識の相違に加えて、タイ人と日本人の開発者間で言葉の壁によるコミュニケーションギャップもあった。MATの配車システム開発は、Web Performerの強みを生かしこれらの課題を乗り越えた好事例となった。「瞬時に確認できるプレビュー機能により、モックアップを作らなくても画面イメージをユーザーに見せながら開発ができるためビジュアルで伝わった」と語るのは、同プロジェクトを担当したMATの花山誠シニアシステムアナリスト。車とドライバーを手配するタイ人総務、予約するタイ人や日本人従業員など、立場の異なるユーザー毎に画面を見せながら開発を進め、それぞれの要望を織り込みながら迅速にシステムを構築できた。開発者間での仕様の認識合わせにおいても、リアルタイムに形にしながら開発ができたのは大きな利点となった。結果としてコストと工数を最小限に抑え、立場や言葉の垣根を越えたアジャイル開発を実現した。さらにWeb化したことで社外からでもアクセスできるようになったのもユーザーからは好評だという。
錦隆雄 Assistant Manager
実績入力システム構築のケースでは、Web Performerの柔軟性が生かされた。錦隆雄アシスタントマネージャーは「実績入力システムを開発したことで、融通が利くようになった。最低限必要な機能を構築し、必要に応じてシステムを高度化させていける成長性がWeb Performerにはある。」と太鼓判を押す。例えば、経営戦略に関わる重要なデータを新たに出力する必要が生じたとする。Excelで管理している場合、該当するデータを探し適切に書き出すのは、なかなか根気のいる作業だ。Web Performerでは機能追加が容易なため、こうしたニーズに素早く対応できる。
また、従来のExcel集計にかかっていた時間が削減され、瞬時の業務時間の実績把握が容易になった。Webシステムは日・英両言語に対応しているので、日本人・タイ人の実績をExcelの別シートのように分ける必要もなく一元管理できるようになった。
開発時の様子
開発責任者にとって、若手の開発者と熟練者との技能のばらつきも開発工程に影響する課題の一つ。新たにチームに加わったエンジニアに自社のノウハウを教え込むには、最低でも半年から1年以上は必要だ。海外では言葉の壁もあり、人材育成のハードルはさらに上がる。苦労して教育が完了し独り立ちする頃に転職してしまうというのも、タイではよくある話だ。錦氏は「Webアプリケーションシステムの開発に初めて携わるエンジニアでも、Web Performerなら1〜3カ月でマスターして開発できる」と語る。そのため、責任者からすると若手の開発者を早い段階でプロジェクトにアサインができ、若手の開発者は業務に直結した開発に携わることで成長を実感できるので、モチベーションが向上する。若手と責任者の双方にメリットがあるのだ。
花山氏と錦氏は「タイでは特に製造業に導入していってもらいたい」と口をそろえる。中堅・大手メーカーにはIT部門があるが、古いシステムの不備に目をつぶって使っているところも多い。そこで作業効率や生産性の改善に取り組むためのツールとして、Web Performer導入を促していく考えだ。「改善点が見つからないシステムは存在しない」(花山氏)。Web Performerを導入することで、コストや人員不足の課題を解決できずに妥協して使っていたシステムの改善・再構築が可能となる。MATでは、現在一部の部署でしか使っていないが、全社展開を計画している。
Web PerformerユーザーでもあるMATが自ら導入をサポートすることで、タイ製造業のIT化と情報システム部門の強化を支援していく。
超高速アジャイル開発を実現する「Web Performer」とは