切削、穴開け、曲げ、溶接、プレス、研磨、めっき、組み立て、設計――ものづくりに関わるさまざまな技術力を持った製造業4,200社が集積する東京都大田区。現代のグローバル化したものづくり時代にあっても、その創意工夫と高い技術力で存在感を示し続けている。今回は、ソーセージカット機や串刺し機など食品加工機を手掛け、積極的に海外展開をしている共栄エンジリアリングを紹介する。
株式会社共栄エンジニアリング 顧問 村田 幹雄
共栄グループの創業者で、現顧問の村田幹雄氏(78歳)には確信があった。
2010年ごろ、米国のある都市で開かれた食品機器の展示会で、ソーセージの両端を自動カットする機械「ソーセージカット機」を目の当たりにすると、その数メートルに及ぶ図体の大きさに驚いた。
食肉大国の米国。その大型の食品機器からは市場規模の巨大さと同時に、加工機械としての非効率さが長年の設計技術者として手に取るように分かった。「ここには日本と比べられないほど大きな食品機器のニーズがある。我が社が得意とする小型機器を必要とする食品工場は必ずあるだろう」
共栄エンジニアリングの主力製品あるソーセージカット機は、徹底した小型設計で、高さや幅、奥行きは40センチメートル前後、大きくても60センチにも満たないため、工場の場所を選ばずに作業スペースを十分に確保できる。センサーでソーセージの両側のねじられて細くなったツイスト部分を検出し、これをハサミ形状の専用刃できれいに除去することができる。1分当たり1,000~1,300本の加工ができるスピードも特徴だ。 部品や材料はほぼ大田区内の協力工場に加工を委託し、共栄エンジリアリングで組み立てている。さまざまな製造業が集積する大田区に立地する利点を活用している。
共栄エンジニアリングは2012年に設立された。共栄グループ傘下で、総合エンジニアリングメーカーの共栄工設が1980年代初頭から30年にわたって受託生産としてソーセージカット機などの製造を手掛けていたが、食品加工機の海外展開を本格化するため、独立分離した。
共栄グループは、1972年の設立当初からプラント装置や搬送設備、圧延ライン装置などの設計を手掛け、大手重工企業からの様々な設計依頼にも応えて来た。その設計にはこれまで培われてきた豊富な知識と経験が反映されている。
現在、東京から名古屋までの工事が進められているリニア中央新幹線のトンネル掘削に欠かせないシールドマシーンの一部も、同社が設計を担った。その高い技術力は食品加工機械の設計・製造に生きているのだ。
「昔はナイフやハサミを使って手作業でカットしていたものを機械化した。ソーセージを包んでいるフィルムが材質によって滑り、作業員が腱鞘炎になるなど大変な工程だった」と村田氏は指摘する。
ソーセージのフィルム材質、ツイスト部分の長さを問わず正確にカットする
ソーセージカット機の受託生産事業を軌道に乗せようと、村田氏と当時の専務が自ら広島から九州までを行脚した。ある大手ハムソーセージメーカーから「15台入れたいので半値にして欲しい」と少し難しい相談をされた。機械設備への要求が高いと知られているメーカーであったため、取引に応じたところ思いのほか業界内での宣伝効果は高く、結局は4大ハムソーセージメーカーすべてに採用されることにつながったエピソードあり、「勉強になった」と村田氏は笑う。
共栄エンジニアリングは串刺し機も手掛けている。国内のコンビニエンスストアや高速道路のサービスエリア(SA)で販売される串刺しフランクフルトやアメリカンドックなどの大半は、同社のカット機、串刺し機による一連の生産システムで製造されている。
その他、共栄エンジニアリグの食品加工機のラインアップは、曲がりが強くカットが難しかったとされる豚腸のソーセージのツイスト部を切る機械や、人気菓子のグミをカットする機械のほか、砂肝カット機、たこ足スリッター機、押し寿司成型機などに多岐に及んでいる。
ただ、国内の食品市場は人口減などで頭打ち状態だ。「このままじゃだめだ。海外に出よう」との思いで、村田氏自らが海外各地の展示会や工場に飛び回り、冒頭で紹介した米国での大型のソーセージカット機に出くわしたのだ。
「CEマーキング」という欧州連合(EU)加盟国の基準を満たすものに付けられる基準適合マークも取得し、食品加工機各種を輸出する準備も整えていった。
そんな折に、「串刺し機を買いたい」という電子メールが届いた。非上場企業では米国最大とされる穀物大手カーギルからだった。「買いたいなら大田区へ実物を見に来てください」と返信すると、英国からチーフエンジニアが来日した。1時間あたり3,000本も刺すことができる処理能力や、多様な種類の串に対応できる簡易交換式のホッパーを目にして強い関心を示したのだ。機械を導入するにあたり、カーギル社基準である26項目にもわたる技術や安全性などのチェックが行われた。設計屋として的確に迅速に対応してみせると、「技術力は本物だ」とお墨付きをもらい導入へとつながった。
カーギルとの取引の後、海外展開は加速した。タイの大手財閥チャロン・ポカパン(CP)グループや食品大手ベタグロと提携する日本のハム、ソーセージメーカーの各合弁工場への導入も進んだ。ソーセージメーカーでは、現地のセブンイレブンやファミリーマートなど日系コンビニで人気となっているフランクフルトを生産している。これらの多くは、共栄エンジニアリングの機械がなければ店頭に並べられないものばかりだ。
「一般的にはCPやベタグロとの取引は大手商社を通じないとできないことがほとんど。直接口座を開設できたのは共栄エンジニアリングぐらい」だと、業界関係者にも驚かれるほどだ。
代表取締役社長 太田 尚良
共栄エンジニアリングは、ロシアやスペイン、韓国に正規代理店を設けている。「海外の主要な国・地域にはほぼ足を運んだが、まだ手が伸びていない国も多くあり、新型コロナが落ち着けば海外展開を加速したい」と、2021年に2代目の代表取締役社長に就任した太田尚良氏(49歳)は意気込む。
海外展開を加速するため、ネパール出身の人材も採用した。かつては展示会などで実際に機械を動かし、見てもらうのが何よりの売り込み方法だったが、コロナ下で加速した営業や商談のデジタル化にも対応し、ウェブサイトの英語化や海外のSNSなどでの発信も進めていく。製品の特長が伝える動画も増やす計画だ。
米国に並ぶ巨大な食肉市場である中国への売り込みも目指し、大田区産業振興協会の海外相談員らと連絡を密に取り合い、食品加工メーカーや代理店などの情報収集なども進めている。
「巨大市場だからこそ、単に代理店任せで広く食肉加工業界に売り込むのではなく、共栄エンジリアリングが得意とする小型の食品機械のニーズがある工場をターゲットに絞り込んで攻め落としていきたい」と村田氏と太田氏は口をそろえた。
培ってきた食品加工の技術を、高級化・多様化しているペットフードの加工にも転用していくことも計画しており、共栄エンジニアリングの新時代の成長から目が離せそうにない。