世界でインターネットを通じたサイバー攻撃などが頻発するようになった。これを重くみた中国政府は「中国サイバーセキュリティ法」を2017年6月に施行。中国進出の日系企業も、ネットワークへの不正侵入などを防止する各種の技術的措置を講じる必要があるが、現地の末端組織から企業機密を盗み取られ、処罰を受けるケースも出てきている。アリババグループのデータインテリジェンスの中枢、アリババクラウドの日本法人が提供する「セキュリティセンター」は、同法に準じた安全性と信頼性の高いネットワーク環境を簡単に整備することができるサービスとして注目されている。中国ビジネスに欠かせくなっているアリババクラウドの魅力に迫った。
2020年の期間中の売り上げは約7兆7,000億円という世界最大のオンラインショッピングイベント「独身の日セール」。最大秒間58万3,000ものオーダーを高い技術で支えるのがアリババクラウドだ
11日間の売上高がついに7兆円を突破したことが話題となった、昨年のアリババの「独身の日」通販セール。通販サイトにダメージを与えようと1日当たり2,000件ものサイバー攻撃が仕掛けられたが、アリババクラウドの堅牢なシステムがこれを防ぎ、膨大なトラフィックを生む通販の安全性を担保していることはほとんど知られていない。悪意のあるハッカーの手口などサイバー技術を知り尽くしたアリババだからこそ実現できる世界一の通販セールとも言えるだろう。
アリババクラウド・ジャパンサービスカントリーマネージャーのユニーク・ソン氏
アリババクラウドは17年に、日本法人のアリババクラウド・ジャパンサービス株式会社(東京都中央区)を設立。従量課金制のクラウドコンピューティングサービス「アリババクラウド」の日本での提供を本格化した。
アリババクラウド・ジャパンサービスのユニーク・ソンさんは「米中貿易摩擦や新型コロナウイルス禍にあっても堅調さが際立った中国経済。日本企業の中国ビジネスへの注目度は以前にも増して高まっている」と指摘する。一方で、中国の法律規制への対応が求められる中、日系企業のサイバー環境のぜい弱さが大きなリスクになっているのは否めないと話す。
中国にある子会社の末端組織のネットワークから不法侵入され、日本本社の企業機密が盗み取られる大事件にも発展したことは、耳目に新しい。こうして報道されないまでも、中国の法律に則った技術的措置を講じていなかったとして、当局から処罰を受ける日系企業も増えているという。
中国サイバーセキュリティ法が包括する領域は広範囲。経験豊富かつ、技術的なバックグラウンドを有するパートナーと共に取り組む必要がある
さらに中国政府は2019年12月、サイバーセキュリティ安全対策を進める上での重要な指針となる「サイバーセキュリティ等級保護制度」(MLP2.0)を発効した。情報システムで障害や情報漏洩などが発生した際、社会や国家へ及ぼす影響の広さ、深刻の度合いによってシステムごとの等級を定め、それぞれの等級ごとに講じるべきセキュリティ対策の内容を定義し、管理するものだ。
アリババクラウドの中国サイバーセキュリティ法対策ソリューションである「セキュリティセンター(Security Center)」はすでに100万社以上で採用されている
「サーバーはMLP2.0に定められたガイドラインで運用する必要がある。パスワードの長さや更新期限なども決められている。講ずべき措置は非常に細部に渡るため、専任のシステム担当者を置けない多くの日系現地法人にとっては対応が困難だが、アリババクラウドの『セキュリティセンター』を使うことで、自動でアセスメントと対策が可能となる」とユニークさんは説明する。しかも費用は1サーバー1カ月当たり23米ドル(約2,400円)から。アリババクラウドだけでなく、他社のクラウド、オンプレミスのサーバーにも対応。コストを抑えつつ、厳格さが求められる同法を遵守した体制を構築できるのだ。
さらに日々の運用面では、アリババのパートナー企業から社内のセキュリティ対策支援のためのコンサル・パッケージも提供しており、中国で本業に専念できるようになる。中国事業を拡大する資生堂やカシオ、ニトリといった大手企業もアマゾンクラウドのサービスを活用している理由だ。
日中間の通信にとってネックとなっているのが、通信品質の確保だ。中国のインターネット利用ポリシー上、中国国内で接続できないサイトが存在したり、接続が不安定となるサイトが存在する。実際、中国に滞在したことのある方なら、Gmailなどは使えないし、ウェブ会議も不安定で途切れてしまうなどビジネス上のコミュニケーションの大きな障害となっていることに、頷いていただけるのではないだろうか。
この問題を回避するには、日中間に専用線を引く、またはVPNを利用するなどの方法が挙げられるが、専用線は非常に高額であり弾力的な運用が困難。外部のVPNサービスは情報漏洩が心配、自社で運用するには固定費がネックとなる。
この様な日中間の通信を改善してくれるのが、アリババクラウドのクラウド型専用線サービス「CEN」だ。一般的な専用線の3分の1から10分の1程度のコストで導入できるほか、申請後1時間で開通できる手軽さがある。
ユニークさんは「コロナ禍で日中間の行き来ができなくなり、リモートでの商談や会議が常態化する中で、通信環境の改善は先行して取り組むべき課題になっている」と強調する。
アリババクラウドのクラウド型専用線サービスである「CEN」は不安定な通信環境を改善、中国では利用できないGmailなども利用可能になる
中国生まれのアリババクラウドが、こうして日系企業に注目されるのは、その高いコンプライアンス水準にもある。日本のデータセンターはISO(国際化標準機構)認証を取得しているだけでなく、内閣サイバーセキュリティセンター(NICS)や財団法人金融情報システムセンター(FISC)といった、日本で求められる高度な安全ガイドラインにも準拠している。アリババクラウドのコンプライアンスに関する取り組みは、顧客の情報にアクセスしないなどが厳格に守られているなど、NICSで定められた480を超える項目について第三者の監査法人より毎年監査を受けており、ユニークさんは「安心して使っていただいている」と話す。
株式会社ナビタイムジャパンの田中一樹氏
「経路探索エンジンの技術で世界の産業に奉仕する」という経営理念のもと、2000年3月に創業。電車、飛行機、クルマ、バス、徒歩などのさまざまな交通手段を組み合わせた「トータルナビゲーション」の技術を軸に、移動に関する事業を展開するナビタイムでは、中国人旅行者への安定的なサービス提供は重要なミッションの一つです。一方で、そのミッションの実現には以下のような課題が存在しました。
安定的かつ高速なサービス:中国国内を前提とした環境を構築すると、日本を訪れた際に通信の速度が低下します。逆に日本を前提とした環境を構築すると、中国において通信が不安定になり、通信速度が低下する懸念があります。
株式会社ナビタイムジャパン(東京都港区南青山)
中国国内の個人情報保護法令の準拠:中国の個人情報保護法に準拠するには、中国国内で取得した個人情報は中国国内に保存する必要がありました。そのため、中国のコンプライアンス制度に精通するサービスプロバイダーからの助言や支援を受ける必要がありました。
そこでアリババクラウドのさまざまなソリューションを活用し、わずか2週間でシステムの移行を実現し、新しいサービスを予定通りにリリースすることができました。これまでの運用においても、日本・中国といる場所にかかわらず安定して高速にサービスを利用しています。
アリババの最大の強みは何と言っても、長年にわたる通販サイトの運営で得てきた膨大な消費者行動や嗜好などのデータ、いわゆる「ビッグデータ」だろう。このビッグデータを同社独自に開発した人工知能(AI)にさまざまな目的に従って機械学習させることで、企業の中国市場でのマーケティングや販促活動にも活かすことができる。
アリババがいち早く中国で開発した新型コロナ診断AI。株式会社M3と共同で厚生労働省の薬事承認を取得し、日本の医療機関での導入が進む
例えば、同社が提供する「クラウドコールセンター」は、AIがよくある質問と回答を学習している。消費者がコールセンターに電話をかけると、音声の質問内容が解読され、的確な回答を音声で受けられるようになっている。アリババが自社で利用するだけでなく、米国大手コーヒーチェーンの中国法人などが活用しているという。
一方、日系企業のコールセンターは、依然としてプッシュボタンの番号で選択して、回答らしき場所に到達できる形式にとどまっており、中国では一般的な顧客体験を提供できていない。中国企業に追いつき、顧客サービスの向上でライバルとの差を付けたい日本の大手企業も高い関心を示しているという。
ユニークさんは「日中間のビジネスは、中国のイノベーションをどう活用するかが課題であり、大きな潮流となっている。特にAIの領域では、中国で開発され、トレーニングされたものを日本に持ってくるケースが非常に多くなった」と強調する。
「中国市場が進化を遂げる中、現地に進出している日系企業がいち早く従来モデルから脱却すべきだろう。その突破口をアリババクラウドが提供している」と強調する。コンピューター断層撮影装置(CT)画像をもとに、新型コロナによる肺炎かどうかを1分以内で見極められるAIもアリババが開発し、既に日本の医療現場300カ所以上で採用されているのはその一例だという。
中国市場で事業展開する日系企業にとって、日中間のさまざまな課題を解決するソリューションであるアリババクラウドの活用は必須になりつつある。アリババクラウドのさまざまなサービスを理解してもらうためのオンラインカンファレンス「Alibaba Cloud Asia Gateway 2021(アリババクラウド アジア ゲートウェー)」が、3月22日から26日まで1週間にわたって開催される。
クラウドサービスだけでなく、中国サイバーセキュリティ法の最新アップデート、AIやIoT(モノのインターネット)、工場のデジタル化、スマートシティーを中国で最も多く手がけるアリババの技術を知る機会にもなる。「企業の進出段階によって活用できるサービスが異なるため、自社に合ったサービスや技術をこの機会に発見していただきたい。ぜひ中国のDXを自社内に取り込んで欲しい」とユニークさんは話した。
新型コロナウイルス禍にあっても堅調さが際立った中国・アジア経済。日本企業の中国ビジネスへの注目度は以前にも増して高まっています。
日本企業の中国・アジア進出を支援するアリババクラウドのソリューションに加え、DXやサイバーセキュリティ法といったアジアの最新動向をお伝えする「Alibaba Cloud Asia Gateway 2021」を開催します。
アリババクラウドが提供する最先端ソリューションと、それによる顧客体験の改善・業務効率の改善のための方策といった、日本と中国、アジアでビジネスに取り組まれる方必見のコンテンツ満載でお届けいたします。