製缶板金やプリント基板などの加工に使われるレーザ加工機。三菱電機のベトナム法人、三菱電機ベトナム(MEVN)は、2019年4月1日からレーザ加工機専任の日本人技術者を配置した。板金向けレーザ加工機およびプリント基板業界向けレーザ加工機のよりきめ細やかなメンテナンス体制をベトナムでも整えることで、日本からベトナムへ進出する企業へ長期的・安定的なアフターサポートを提供していく。
三菱電機ベトナム(MEVN)のレーザ加工機専任技術者の堀直人氏
日本における人手不足や中国・韓国の人件費高騰、さらに米国と中国の貿易摩擦などを背景に、これらの国からベトナムに生産拠点を移す動きが加速している。また、ベトナムの経済成長に伴い、国内インフラ整備やマンション・オフィスビル建設などが活況を呈しており、部材となる板金部品用の加工機械の需要拡大が見込まれている。
06年にベトナムに進出した三菱電機は現在、同国におけるプリント基板業界向けのレーザ加工機でトップシェアを獲得しており、今後は板金加工の需要が高まっていることから板金向けレーザ加工機でも既設の顧客へのサポート強化や、業界での存在感をより一層高めていく考えだ。
レーザ加工機は、板金などの薄い素材をレーザ照射によって切断する機械で、タレットパンチプレスのように金型を必要とせず、複雑な形状を加工できるのが特長。半面、焦点レンズやミラーなどの定期的な交換が欠かせず、メーカーによるきめ細やかなアフターサービスが不可欠だ。
三菱電機では従来、ベトナム国内の顧客に対するレーザ加工機のメンテナンスは、同国内のベトナム人スタッフのほかにシンガポールに駐在する日本人技術者がオペレーションしていた。よりきめ細やかなメンテナンス体制の確立に向けて、19年4月1日から専任の日本人技術者をハノイに配置した。三菱電機が東南アジア諸国でレーザ加工機の日本人専任技術者を配置するのはタイに続いて2カ国目。
専任技術者として赴任した堀直人氏は、FA機器のメンテナンスを手掛ける三菱電機メカトロニクスエンジニアリング、FA関連機器の開発・製造拠点である三菱電機名古屋製作所で、サービスエンジニアや品質保証業務に携わってきたレーザ加工機のスペシャリストだ。
堀氏は「1日当たりの稼働時間が10時間以上の場合と2〜3時間の場合ではメンテナンスの時期や必要な交換部品は全く異なる。稼働時間が同じ場合でも使い方によって負荷のかかる部分が異なるため、部品交換や清掃なども変わってくる。それぞれの機械に蓄積された稼働データを基に、それぞれのレーザ加工機にとって最適なメンテナンスを提案している」と話す。
現在、MEVNには3人のベトナム人メンテナンススタッフがいるが、堀氏が常駐することで、ベトナム人スタッフへの直接指導や、実際のメンテナンスへの同行を通じて、MEVNのスタッフ全体の技術の底上げも期待される。
レーザ加工機メーカーとしての三菱電機の強みは、レーザ発振器、コンピューター数値制御(CNC)装置、駆動制御部品などの主要部品をはじめ、部品の大半を自社開発していることにある。アフターメンテナンスに当たっても、三菱電機の担当者だけで迅速な対応が可能だ。
堀氏は「三菱電機のレーザ加工機は、安定稼働と精度の高い加工が売り。メンテナンスサービスと合わせ、必ずやお客様の生産性の向上につながる」と自信を示し、「三菱電機の製品の普及が、ベトナム産業界の品質向上、生産性向上につながる」と話す。
19年4月に発売されたレーザ発振器出力8kWの「ML3015GX‐F80」
高生産性・低ランニングコストが評価され、需要が急速に拡大しているレーザ加工機だが、人手不足の生産現場では、長時間の連続自動運転へのニーズが高まっている。
三菱電機は、こうしたニーズに対応する新シリーズとして、ファイバー二次元レーザ加工機「GX-Fシリーズ」を19年4月に発売した。
自社製の新型ファイバーレーザ発振器とレーザ加工機の高い親和性により、加工機の加速度向上に対応した最適制御が可能となり、従来に比べ生産性が20%向上した。世界で初めて加工条件を自動で調整する「AIアシスト」は、同社の人工知能(AI)技術「Maisart(マイサート)」を用いて、連続自動運転の加工安定性を向上させている。
同じく独自開発の流体コントロール技術「AGR-eco」の採用によって、レーザ加工の際に溶融した金属の除去に用いるアシストガスの使用量を従来比で最大90%削減し、ランニングコストの低減に貢献する。
レーザ発振器出力がそれぞれ4キロワット(kW)、6kW、8kWの3機種をラインアップ。板金加工の生産性・保全性の向上に貢献するとともに、自動化ソリューションのニーズに対応する。