金型や部品の加工に使われるワイヤ放電加工機。三菱電機は1960年代から放電加工機の製造・販売を展開し、日本国内ではシェア4割強を握る。ベトナムは2006年に進出して以来、日系企業だけでなく地場企業や欧米系の企業などに幅広い納入実績を持つ。放電加工機を主力に据える、ベトナムで数少ない電機メーカーだ。成長著しいベトナムの製造業を支える、三菱電機の放電加工機に迫る。
主力製品のワイヤ放電加工機MV-Rシリーズ。2017年度グッドデザイン賞も受賞している
ベトナムではプリンターやバイクの部品、各種電気製品の部品製造を手がける企業からの需要が高い。さらに自動車部品は日本への輸出が拡大傾向にある。
最新のワイヤ放電加工機『MVシリーズ』では、加工精度やセキュリティといった各種の性能を高めたほか、『スワイプ』『ピンチ』『タップ』とスマートフォンを意識した対話式のタッチパネルによる直感的な操作を実現している。ベトナム人の技術者でも、ガイダンスに従えば段取りから加工まで簡単にできるよう工夫した。
ランニングコストの低さも魅力だ。独自技術「オプト・ドライブシステム」では、高効率のシャフトリニアモーターを使用していることで、高い省エネ性能を持つ。電力消費は従来型に比べて最大69%削減、フィルタはろ過流量を自動的に切替えることでコストを最大45%低減している。
機械加工した部品の加工面の凹凸状態を表す「表面粗さ」。加工回数が増えるほど凹凸が減り、綺麗な表面となる。MVシリーズは電源性能を向上させることで、従来機と比べて少ない加工回数で実用的な表面粗さの領域を実現した。その分、ユーザーは加工時間とコストを削減でき、生産性が上がる。
三菱電機ベトナム(MEVN)でサービス&メンテナンスを担当する喜夛秀明マネジャー
三菱電機にとって重要市場の一つであるベトナムで特に注力しているのは、日本人による納入前後のサービスだ。同社は16年4月に三菱電機ベトナム(MEVN)に放電加工機の技術者を配置。ベトナム国内でサービス展開する体制を構築した。10年以上の経験を持つベトナム人技術者とともに、専任の日本人技術者も納入前の相談から設置後のメンテナンスまで担当する。
「放電加工機の購入に際しては、工場の環境を細かくチェックする」と話すのは、MEVNでサービスやメンテナンスを担当するマネジャー、喜夛秀明氏だ。工場内では主に空調や接地、床などの状態を確認する。「加工機に空調機の風が直接当たっていたり、近くの機械の振動が床から伝わっていると、本来の性能を発揮できなくなる。クライアントには、設置の場所や条件についてアドバイスし、最適な環境で使用してもらえるよう促している」
標準的な機械であれば機械据付に2日、操作指導に1日費やす。クライアントの要求に応じて機械納入後の加工技術指導も行っている。また、稼働後もトラブル時の対応だけでなく、定期的に喜夛氏やスタッフが工場を訪問し、機械の状態や利用状況をチェックする。ベトナムに限らずアジアであれば、機械の使い方が日本より荒くなることが多い。加工機が故障してから対応したのでは、技術者を手配して原因を特定し、修理が完了するまでに時間がかかる。故障がなくても定期的にチェックを受けることで、早い段階で異常につながる要因を見つけ出し、修理を最小限にとどめれば、生産ラインが止る時間を短くできる。
喜夛氏は日本で開発・設計を9年間、品質保証に2年間携わった。機種開発で、設計から組み立て、出荷といったすべてのプロセスに関わった経験が、放電加工機のサービス専任となった現在の業務に生きていると語る。「機械がどのような設計思想で、どのような評価項目をクリアしてきたか。どのような組み立てや調整方法でできあがっているかを知っていることで、機械のトラブルを論理的に考え、素早く対処できる」
三菱電機が、世界各国で放電加工機を展開していることも、大きな強みだ。喜夛氏は「品質保証部門にいた2年間で、利用者からの具体的なフィードバックをもらうことができた。使用環境がどのように機械に影響するかという情報を基に、機械の設置について提案していきたい」と語る。
ベトナムでは工場の機械に限らず、何かトラブルが起きた際、ベトナム人のスタッフ同士が解決に向けたやりとりをすることが一般的。ただ、スタッフからの報告がなく、日本人の管理職はトラブルの原因や修理の現状が把握できないケースは多い。こうした状況でもどかしい思いをすることは、現地日系企業の管理職であれば、だれでも経験することだろう。MEVNでは、トラブルが起きた際にはベトナム人同士だけで対応するのではなく、喜夛氏が日本人のマネジャーに対し、状況やトラブルの原因といった詳細を報告するようにしている。
高性能の加工機に加え、顧客企業のベトナム人スタッフだけでなく、日本人の管理職も念頭に、きめ細かいサービスを展開する三菱電機ベトナム。成長著しいベトナムの製造業を支援すべく、経験豊かな技術者が全国の工場を飛び回る日々が続いている。