技術を育て、活躍の場を与え、やる気を引き出す――。東京都内で2月に開催された「ものづくり総合大会」で、集まった製造業の関係者を前にひとりのタイ人が現場改善の秘訣を語った。3日間にわたって行われた42講演の中で唯一の外国人講師、デンソーのタイ現地法人、デンソー(タイランド)のサーバル製造部生産1課のポラメート・ウィスンタナン課長だ。同イベントの主催者である日本能率協会(JMA)は、バンコクで「ゲンバ・マネジメント・カンファレンス&アワード(GMCA)」という生産現場の管理監督者による現場マネジメントの優秀事例発表会を2016年から開催している。ポラメート氏は17年の大会で最優秀賞を受賞しており、その最優秀事例を日本の業界関係者にも共有するために来日したのだ。会場では、多くの製造業関係者がタイから来たポラメート氏の言葉に耳を傾けた。
「ものづくり総合大会」で講演するデンソー(タイランド)のポラメート氏
ポラメート氏の発表の内容はこうだ。ポラメート氏が所属するサーバル製造部生産1課では、デンソーの世界戦略製品である「GICコンデンサー」を生産している。コンデンサーは自動車のエンジンルームに搭載し、高温、高圧のガス状の冷媒を液化するための熱交換器。需要の高い製品ゆえに量産へ意識が集中してしまい、前モデルから同製品への切り替えが始まった15年には工程内の不良率が7.5%と高く、稼働率は85%に低下してしまった。コンデンサーを生産するデンソーグループ9カ国のうち、タイ工場の品質ランクは6位となっていた。こうした事態を改善すべく、ポラメート氏は優良工場のチェコ工場をベンチマークとして視察へ行く。そこで感じたのは班長クラスの意識と技術が平均して高いということ。一方のタイ工場では班長たちの意識と技術にかなりのバラつきがあった。帰国後、ポラメート氏は「やりきりペア活動」という取り組みを実施。ベテラン班長と若手班長をペアにして、問題解決に取り組むという内容で、ガス状の冷媒が漏れてエアコンが効かなくなる不良の原因究明などに当たった。ベテラン班長と一緒に若手班長が成功体験を積み重ねることで、バラツキのあった班長のレベルが全体的に底上げされたという。さらに、班長のレベルアップは職場全体の意識と体質の改善をもたらした。結果、16年度の工程内の不良率は0.5%以下に改善し、稼働率は95%まで上昇。同年のタイ工場の品質ランクは見事2位に浮上した。
品質ランクが世界2位まで上昇したデンソータイランド(同社ウェブサイトより)
GMCAでは、このような製造現場の改善事例を、実際にプロジェクトを担当したタイ人の現場監督者のプレゼンを通じて聞くことができるのが魅力の一つ。昨年参加した日本人からは「各社の改善に感銘した。自社にも積極的に取り入れて行きたい」という声や、「日本のものづくりがタイの地で根付いていることを再認識でき、挑戦する熱い気持ちに共感した」など、同じ製造業として参考になったという旨の意見が多く上がっていた。また、多くの参加者は自社のタイ人社員も連れて参加しており、「さっそく自分たちの現場にも応用したい」、「他社のタイ人マネージャーの話に刺激を受けた」などと好評だ。GMCAを主催するJMAの運営事務局の松本亜砂子氏は「GMCAは現場の優れた改善事例の共有を通じて、日・タイものづくりのさらなる発展を目的としてスタートしましたが、発表される各社の改善事例は国籍を問わずより多くの製造業に関わる皆さまに共有すべきだと考えました。今年から英語の同時通訳も導入することにしたので、バンコクのアクセスのしやすさを生かして、周辺国からもぜひ参加してほしいです」と海外らの参加も呼びかける。ベトナムやマレーシア、インドネシアなど周辺国のローカルマネージャーがタイ人の発表を聞いたとき、良い刺激となることは間違いないだろう。
GMCAは、16年の第1回大会の参加者が260名、昨年は410名と毎回規模を拡大しており、3回目の今年は600名の参加を見込んでいる。発表者もトヨタモーター・タイランド(トヨタ自動車)を筆頭に、タイ・ヤマハモーター(ヤマハ発動機)など日本とタイのものづくりを第一線で支える企業6社がエントリーしている。
各社が独自の視点とアイデアで実施した改善事例を披露する。製造業関係者は自社の現場責任者はもちろん、周辺拠点の担当者にも声をかけて参加してはどうか。自社のものづくりを次のステップへ導く、ヒントに出会えるかもしれない。