アジアで新商品や新サービスを投入する際、現地営業や代理店に任せきりにしていませんか?——営業人材の人件費が高騰し、日本人駐在員が削減される流れを受け、アジアの営業活動における日本本社の役割が大きな転換期を迎えている。日本本社主導でアジア現地のマーケティング調査を担い、販売先の開拓も行う時代に突入しているためだ。日本からアジアに商品・サービスをダイレクトに売り込む、アジア営業の新しいカタチに迫った。
日本のIT企業が開発した最新のITソリューション製品。満を持して、アジアのある国に展開しようと現地代理店に販売を委託したが、最初の1年間の受注はゼロ。「現地法人の営業担当者や販売代理店が思うように動いてくれなかった」と、同IT企業の日本本社の担当者は嘆いていたという。
「現地の営業担当者は、いかに日々の売上を稼ぐかが喫緊の課題。しかも、現地従業員たちのトラブル処理など日々のマネジメント業務に忙しく、すぐに売り上げにつながらない商材は後回しにしがち」と、情報通信提供サービスのネクスウェイ(東京都港区)の水船健司グローバル事業推進室リーダーは話す。
アジアでは今、人件費高騰などで優秀な営業人材が獲得しづらくなっている。加えて、コスト削減策として日本人駐在員の人数が減らされる傾向が強まり、営業を取り巻く環境は厳しさを増している。「“動いてくれない”と現地法人を単純に責めることは、日本本社側の責任転嫁につながりかねない」と指摘する水船氏。これからの日本本社の役割としては、成長するアジア市場に新商品・サービスを投入するだけでなく、現地のマーケティング調査などで現地営業を適切、かつスピーディーに支援していくことも重要だという。
そもそも、アジア現地で自社の製品を使いたいと考える企業がどれほど存在するのだろうか?もし使いたい企業があるとすれば、どんな業種なのか?果たしてどんな使い方をするのか?——こうした基本情報もなく、闇雲に売り込まなければならない状況では、現地営業の腰が重くなってしまうだろう。現地で営業は、漠然としたイメージの中で「現地ではニーズがない」と本社に回答してしまうこともあるほど。これでは日本本社はアジア市場の実態が把握できないだけではく、自社の営業に対しても疑心暗鬼になってしまい、市場開拓は見えない壁にぶち当たることになる。
水船氏は「現地市場に自社製品・サービスに対する需要があるかどうかの基本情報を得ることは、その先を考えるための大きな材料になる。アジア営業の突破口として、まず日本本社主導で現地のマーケティング調査から始めるべき」と力説する。
アジア各地で物流事業を展開する日立物流は、今期よりインドネシアでPLB(保税物流センター)という新しいサービス展開に向けて推進中である。インドネシアに現地法人がない企業(非居住者)は同国内に在庫を持てず、商社や代理店を通じて販売する必要があったが、PLB制度では非居住者でも保税倉庫が利用できる。これにより、日本の本社が自社の資産としてインドネシアの保税倉庫内に貨物を抱え、現地企業に供給できるようになる。
PLBを本格展開する前に日立物流はまず、自社のPLBサービスに対する需要が現地であるのかどうかを探ることが最重要課題だった。日立物流のインドネシア現地法人の営業リソースには限りがあり、日系各社を一社ずつ回って調査するにはそれなりの時間がかかってしまう。そこで、ネクスウェイにマーケティング調査を依頼したのだ。
日立物流 神田真崇氏
ネクスウェイは、東南アジアの日系企業1万3,000社、ローカル企業100万社のリストを持つ。顧客の求めに応じてこのリストを製造業や小売業、病院、学校、レストランなど業種ごとに細かく分類し、ある特定の製品やサービスに対するニーズの聞き取りやアポイント取りなどまでも行う、営業・マーケティングサービス「AS-aP(アサップ)」を日系企業向けに提供し、好評を博している。
今回もこの膨大なリストの中からターゲットとなる企業を選定し、ファックスで情報を配信。これらの企業に対し後日、ネクスウェイが電話をかけて、日立物流のPLB事業に対する需要をヒアリングした。
イスラム教徒が多いインドネシア。断食明けの休暇「レバラン」は、出稼ぎをしていた家族が各種プレゼントを買いあって実家で過ごすという、日本の盆と正月が一緒にやってきたような消費市場が盛り上がるイベントがある。日系メーカー各社はこの時期のためだけに倉庫を借りるわけにはいかず、生産調整をしてまで工場内にスペースを空け、商品を保管するメーカーもあるが、PLBでは短期的な利用ニーズにも柔軟に対応可能である。これらの有効な顧客リストや実際の面談アポイントとともに日立物流に情報を提出した。
日立物流の営業開発本部サプライチェーン・ソリューション2部グローバルグループ部長補佐の神田真崇氏は「PLB事業は同業他社も展開してくるはず。少しでも早いタイミングで取り組みたいと、スピードを優先してネクスウェイにお願いしたが、私たちの想像以上のスピードに驚いた」と話す。
日本本社主導でマーケティング調査を担当することにより、インドネシア現地で自社サービスを求める潜在顧客を明らかにし、ターゲットにサービス展開を推進中だ。
実際に配信したFAX画像(ネクスウェイ提供)
「AS-aP」の登場によって、さらに「現地に拠点を持たない企業でも、アジアに商品やサービスを展開できるようになっている」と、ネクスウェイ・グローバル事業推進室の藤川省吾氏は強調する。
電設工具で国内トップシェアを持つ泉精器製作所(長野県松本市)は、中国などに拠点は持つが、同じく日系自動車メーカーが多く進出するタイには現地法人や販売拠点を設けていない。「タイで電線・配線を電動でカットする工具の需要はどれほどあるのか?」、「あるとすればどんな企業なのか?」を探りたかったが、現地にヒアリングに行くにも手がかりがなかった。そこでネクスウェイに調査を依頼した。
このケースでも、ネクスウェイが持つ企業リストの中から、潜在的な顧客になりえる工場にファックスを送信。その後に電話をかけて、それぞれの工場で「電線・配線をカット・接続する工程はあるのか?」「あるとすれば手動か、または電動か?」などを細かく質問した。
工場から得られた回答を分析することで、泉精器製作所の潜在的な顧客となりそうな工場を探り、10~20工場との面談のアポイントを設定。泉精器製作所は出張ベースでこれらの工場を丁寧に営業に回ることができたのだ。泉精器製作所の担当者は「現地での工場訪問によって、現地で修理や部品交換ができるサービス体制を整えることが販売拡大のポイントになることも分かった」と高く評価する。
拠点がないアジアの国々でもスピーディーに需要を探りにいくことができるネクスウェイのサービス。日本市場が縮小する中、日本本社にとってもアジア市場の重要性は増すばかりだ。藤川氏は「日本からアジアに商品・サービスを売り込む、アジア営業の新しいカタチに注目して欲しい」と話した。